3 エリナ&カサンドラの帰還
クオンが心配げな顔でキャルの傍に来る。
「キャル、声が聞こえたけど、怪我は?」
「大丈夫。エリナが治してくれたから」
キャルの言葉に、クオンはハルトを治癒しているエリナを見た。
「そうか……。白夜の呪宝は大丈夫? 確認したほうがいいかも」
「そう……だね、一応」
キャルが収納珠から白夜の呪宝を取り出す。
「大丈夫、ちゃんとある」
「そっか、よかった。――けど、今度みたいな事があると、キャルがさらわれたら、白夜の呪宝も一緒に奪われることになる。……白夜の呪宝は、僕が預かった方がいいかもしれないね」
クオンは真面目な顔をして、キャルにそう言った。
キャルは少し考えて、頷く。
「うん……。クオンがそう言うなら、クオンに預ける」
「――おぉ。ところで私の留守中、二人に進展はあったのかな?」
エリナがハルトの治癒を終えて、スルーの処に移動しながら、からかうように声をあげた。
それに対して、キャルが答える。
「別になにも……? 二日目から、ガドとスーがうちに来てたし」
「え? そうなの? なんだクオンくん、残念だったね」
エリナが悪戯っぽく笑うのに対し、クオンは苦笑してみせた。
「いや、まあ仕方ないよ。あ、キャル――呪宝を」
「あ、うん」
「なんなら私が呪宝を預かってもいんだぞ」
エリナの言葉に、クオンは答えた。
「いや、大丈夫だよ、エリナ。僕がしっかり預かっておく」
クオンがそう答えた瞬間、エリナの顔色が変わった。
「お前、誰だ!? ――キャルちゃん、そいつから離れろ!」
エリナが叫ぶ。が、キャルが反応する前に、クオンはキャルの手から白夜の呪宝を奪った。
「え? クオン――じゃないの?」
エリナの飛ばした手裏剣が、クオン目がけて飛んでいく。
と、そのクオンの眼の前に、突如、巨大な蜘蛛のファントムが現れた。
蜘蛛のファントムは糸を張り、手裏剣を絡めとっている。
「おやおや……バレちゃったみたいだね…」
クオンがにやりと笑う。
――と、その姿が紫の巻き髪の、美女へと変わった。
「あ、あなたはさっきの!」
「わたしはビジョン。わたしの異能は、好きなように立体映像を作り出せる能力なの。素敵でしょ? ――ところで、どうしてわたしが偽物だってバレたのかしら?」
ビジョンは艶然と微笑みながら、エリナに向かって訊ねた。
エリナが憤りを見せながら答える。
「クオンくんは、私の事はエリナ『さん』と呼ぶんだ。それはずっと変わってない」
「なるほど……それは調査不足だったわね。それにしても猫耳ちゃんは、クオン少年を随分と信頼してるのね?」
ビジョンがからかうような意味深な目つきをキャルに送る。
「……おかげで、やりやすかったけど」
「呪宝を返して!」
キャルが叫んだ。
「――どうしたんだ、キャル? ム…誰だ、そいつは?」
その場にカサンドラ、そしてランスロットとミレニアが戻ってくる。
「ディギナーズのビジョンだ! 気を付けろ!」
ランスロットの言葉に続けて、エリナが口を開いた。
「美人のお姉さん、呪宝を返してもらおうじゃないか。この状況だ――逃がさないよ?」
エリナは手に手裏剣を構えた。
しかしビジョンは慌てた様子もなく、余裕の微笑みを見せる。
「逃げられない、と思ってるの? うふふ……おばかさんね」
ビジョンがそう笑うと同時に、ビジョンの傍に突如、オレンジ色の髪をツインテールにした少女が現れた。
「ポート! 瞬間移動を使うディギナーだ!」
ランスロットが声をあげる。
と、ポートはビジョンの裾を掴むと、とくにおかしくもなさおうな顔で口を開いた。
「じゃあね」
その瞬間――二人の姿が消えた。
「消えた……逃げられたの?」
エリナが呆然とした顔で声を洩らす。
キャルががくりと膝から崩れ落ちた。
「白夜の呪宝を……奪われた………」
その言葉に、ミレニアとランスロットが息を呑む。
「あんなに苦労して……やっとキグノスフィアから貰ったのに……」
キャルは両手で顔を覆うと、声を殺して泣き始めた。
誰も言葉をかけられない。
そこへ聞きなれた声が響いてくる。
「――キャルッ! キャル!」
駆けてきたのは――クオンだった。
○ 〇 ○ 〇 ○ 〇 ○ ○
僕が駆け付けた時、キャルは地面に座り込んで顔を覆っていた。
「キャル! ……どうしたの!?」
僕は慌ててキャルの傍にしゃがむ。
涙に濡れた眼で、キャルが僕を見た。が、なんか妙な目つきだ。
「大丈夫、怪我はない?」
僕がそう聞くと、キャルはさらに微妙な表情になる。
……一体、何があったんだ?
「あちゃ~、君が悪いんじゃないんだけど、なんというかタイミングがね~」
ふと気づくと、エリナがそこにいる。
「エリナさん! ――それに、カサンドラも! いつ帰ったの? っていうか、どうして此処に?」
「うむ。どうやら、今度は本物みたいだぞ、キャルちゃん」
本物? 本物ってなんのことだ?
「クオン……」
キャルが涙目で、僕を見上げる。と、キャルは僕の胸に飛び込んで泣き始めた。
「白夜の呪宝を――奪われちゃったの――」
「え!? そんな、まさか――」
僕は絶句した。
と、エリナが口を開く。
「すまん、クオンくん。私がついていながら、君の偽物を見抜けなかった。そいつに騙されて、まんまと持っていかれてしまったんだ」
「ごめんなさい……わたし…」
キャルが涙眼で、僕を見る。
何で謝るんだ。一番辛いのは、キャルじゃないか。
「――大丈夫、キャル」
僕は敢えて笑みを作って言った。
「いずれ奪い返せばいいよ。バルギラが悪用しようとしても、必ずそれを僕が止める。だから……心配しないで」
「クオン……」
僕の胸に顔を埋めて泣くキャルを、僕は抱きしめた。
こんなに細くて、震えてるキャルを恐がらせてるバルギラ――
絶対に思い通りにはさせないぞ。
「私たちだって、キャルちゃんの味方だぞ」
「そうだとも。キャル、心配しなくていい」
エリナとカサンドラが、キャルに言った。
そうだ、僕らはブランケッツ――パーティーの仲間だ。
「キャル、みんながいる。……今までみたいに、一緒に頑張ろう」




