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4 氷龍王との別れ


 キャルの一族――シャレード族とバルギラ家は縁戚関係。

 キャルが複雑な気持ちになるのも無理はない。


 スフィアはさらに話を続けた。


「アリオスの母親は奴隷身分を解除されて、当時のバルギラ公爵の愛妾となったそうです。しかしその事でゼルトの母親である正妻に憎まれ、家の中で様々な方法で嫌がらせを受けいじめられた。それでもまだバルギラ公爵の愛情を受けてるうちはよかった。バルギラ公爵は外に愛人をつくり、家のことを構わなくなると、正妻の怒りの矛先はアリオスの母親に向けられたのです」


 ひどい話だ。無責任にもほどがある。


「そうして母親がいじめぬかれて病で死ぬと、アリオスは家を出て旅人になった。そうしてワタシに会った――ということのようです。母親は姓を持たない奴隷だったので、シャレードというのはアリオスが自分でつけた姓だったようです」

「せっかくそこで……幸せな暮らしを送っていたのに…」


 キャルが呟いた。


「カイルたちは自分たちに龍王の血の影響がほとんどない事を知り、龍王の子孫であることを伝承しなくなりました。ただ一つ――白夜の青炎を氷龍王からもらった、ということだけを残して」

「その白夜の青炎ですが――最初は一つだったんですよね。それがどうして分かれてしまったんでしょう?」


 僕はスフィアに訊いた。スフィアは頷く。


「『清き魂の者』――それしか力を凍らせる青炎の力を使うことはできません。その青炎を制御するのが白夜の力。シャレード族も時を経るなかで、変わっていたのでしょう。いつしか清き魂の者ではなく、力を支配したい者が青炎の力を手に入れたくなった。しかし自分ではそれを使うことができない」


「それで……少女たちに青炎の呪宝を埋め込んで、白夜の呪宝で操る方法を見つけた――」


 キャルが口惜しそうに呟いた。


「歴代の白夜様はみんな少女だったってお父さんから聞いてた……。そしてわたしは……牢獄みたいな部屋からほとんど出してもらえず、外の世界のこともまったく知らなかった……」

「その方が――『清き魂』を維持できるからか……」


 外の情報を与えない――そんなやり方で、少女たちを牢獄に縛り付けるなんて。

 シャレード一族は、そんな人身御供の存在によって一族の力を維持してたんだ。


「そして……少女が年をとって魔力と体力が弱くなると、その身体から無理矢理に青炎の呪宝を抜き取って、次の白夜様に植えつける。――白夜様は代々、そうやって青炎の呪宝を受け継いでいったの」

「……待って。その青炎の呪宝を抜かれた人は――どうなるの?」


 恐ろしい予感に襲われながら、それでも僕はキャルに訊いた。


「死んだそうよ。ほとんどが40歳の誕生日を迎えられなかったって。……お父さんは、そう言ってた。お父さんは、わたしがそうなるのが耐えきれずに、一族が襲われた時、わたしを連れて逃げ出したの……」


 キャルはうつむいた。

僕は真実を知り、愕然とする他はなかった。


「バルギラは――公爵家の中で伝承されてたシャレード族のこと、そして白夜の青炎の事を知り、シャレード族を探し歩いて――そして見つけたわけか……」


 僕が納得していると、ランスロットが声をあげた。


「一つ訊きたいんだが、話の中で出てきたルイン・ブラスターという兵器――それは、あのウェポンが作ったルイン・バスターに似ているものなんじゃないのか?」


 スフィアはランスロットの問いに頷いた。


「まさにその通りです。あれは命力を破壊光線に変えた兵器でしたが、まさかあの機械が同じ種類の兵器だとは思いませんでした」

「どういうこと?」


 ミレニアが首を傾げる。ランスロットは苦い顔をして、それに答える。


「恐らくだが、最初のルイン・ブラスターをシャレード一族が回収し、保管してたんだろう。それをバルギラがシャレード一族の里を襲った時に見つけた。それをウェポンが研究し、より強力な兵器として再創造したんだ」

「なんてこと……」


 ミレニアが絶句する。まったく――僕も同じ気分だった。

 ウェポン…最悪な奴だったけど、天才だったんだろう。


 その時、突然、キャルが声をあげた。


「お願いがあります、キグノスフィア様!」

「……なんですか?」

「わたしの身体から――青炎の呪宝をとってください! もう……無くしてしまいたいんです!」


 キャルは席から立ち上がって、スフィアに懇願した。

 スフィアがキャルの方を静かに見る。


「残念ですが……ワタシの力をもってしても、それは無理です」

「そう――なんですか……」

「それを無理にとってしまっては、あなたの命も維持できないでしょう」


 スフィアは残念そうな顔で、キャルに言った。


「あなたの身体に埋め込まれた青炎の呪宝は、龍素の神経とでも言うべきものを、既に身体の隅々にまで伸ばしています。もう、それを無理に切り離せば、あなたのまともな神経も一緒に崩壊させてしまうでしょう」

「……そうなんですか――」


 キャルは失望した顔で席に崩れるように座った。


「キャル……」

「けれど――せめて、あなたが自分の意志で青炎の力を使えるようにしましょう」


 そう言うとスフィアの背後から、小さな箱が空中を浮遊してくる。

 その箱がテーブルの上に乗ると、蓋が自動で開いた。


 その中には、白い結晶――白夜の呪宝が収まっていた。

 それが宙に浮き、キャルの元へ飛んでくる。キャルはそれを両手で受け止めた。


「あなたがそれを持ってれば、人に操られ、望まない時に力を発露することはないでしょう。……ただし気を付けてください。あなたの肉体は、青炎の呪宝が発散する龍素の影響を受けて変質しているはずです。青炎の力を使う時――あなたの姿は異形のものになる可能性が高いです」


 スフィアの言葉に、キャルは頷いた。


「判ってます――はっきりとは覚えてないけれど…自分が怪物になった記憶がうっすらとあるんです。……なるべく、使わないようにします」


 スフィアは静かに微笑む。僕はふと気づいて、スフィアに言った。


「もしかして……スフィア様には、もう青炎の力がないんじゃないですか?」


 もしその力があるなら、ルイン・バスターの光線を凍らせることができたはずだ。

 僕の問いに、スフィアはゆっくりと頷く。


「そうです。ワタシにはもう青炎の力は残ってません。そのドラゴン・コアは完全に白夜の青炎に移封しました」

「どうして……アリオスさんには、ドラゴン・コアは時間をかければ元に戻る――って言ったんですよね?」


 僕がそう言うと、スフィアはいたずらっぽく微笑んだ。


「だって……嘘をついてでも、あの人について行きたかったんですもの」


 それは氷龍王キグノスフィアがみせた――とてもチャーミングな笑顔だった。


 白夜の呪宝を手に入れるというクエストは、これで終了した。

 ただし――この結果はバルギラには知らせない。


 キグノスフィア迷宮を去ることにして、僕らはスフィアに別れを告げた。


「――色々、お世話になりました」


 スフィアは僕たち――特にキャルを見て口を開いた。


「気を付けて進みなさい、ヒトの子らよ。あなたたちの前途に、幸多からんことを祈ります。それと、この子を――」


 スフィアが進み出て、キャルに手を差し出す。

 その手には、真っ白な小鳥にしか見えないキグノスフィアの分体が乗っていた。


「あなたに……預けたいと思います。ヒトのことを、この子がよく知るように」

「わたしに――?」


 キャルが眼を丸くしている。


「マー」


 キャルのポーチにいたマルが鳴いた。


「キュー」


 キグノスフィアの分体が、呼応するように鳴く。

 キャルは驚いた顔で、僕を見る。僕は苦笑してみせた。


「いい友達になれるんじゃないかな――その二人」

「そ……そういう話?」


 キャルは戸惑いながらも、キグノスフィアの分体をスフィアから受け取る。

 白い鳥が、キャルの腕の中で鳴いた。


「キュー」

「うん……判った。じゃあキグちゃん、これからよろしくね」

「キュー」


 キグちゃん――は、どこか嬉しそうに鳴いた。


 四人でアタック体制になった僕らは、宙に浮く。別れを告げると、スフィア他、飛竜たちが手を振っている。

 僕たちも手を振って――僕らはキグノスフィア迷宮を後にした。


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