第二十七話 氷龍王キグノスフィア 1 ディギナーズの不和
ウェポンは自動歩行機械に歩かせながら、自分はその上で言葉を発し続けていた。
「まあ、神話なんてどれも作り話だから、別に意味はないんだがね。重要なのは、人間はどんな困難も、結局、知の力によって克服する以外に道はないということだ。自然に頼んだって、自然は助けちゃくれない。自然は言う事をきかせるべき対象であって、決してこちらがその意向に従う存在じゃない」
不意にウェポンが、歩行機械の上に立つ。と、そのまま機械から浮遊状態で降りてきた。
こいつ――かなりの魔法力の持ち主だ。
ウェポンは僕の前に降り立った。
僕を見て、にやりと笑い、指をさす。
「なんで氷龍王を殺すかって? そりゃこの中世まがいのファンタジー世界に、機械文明の力を見せつけるためさ! こんな未開人だけの世界なんて、その気になればすぐに支配できる。バルギラ様とともにだ!」
……変だ。こいつの言ってることは判るが、だとしたらバルギラだってこいつが見下してる『未開人』のはずだ。なのに何故、こいつはバルギラに忠誠心を持ってる? ――いや、この持ち方それ自体が不自然だ。
「君は――バルギラが、世界を支配するのを手伝うつもりなのか?」
「バルギラ様と言え! このカスが! ……バルギラ様こそ、世界に君臨するにふさわしいお方だ。ぼくはその右腕になれる事に、至福を感じている!」
ウエポンが恍惚とした表情を浮かべる。すると他のディギナーズも、何かうっとりとした表情になった。
……明らかにおかしい。この忠誠心は、きっと人工的に植え付けられたものに違いない。
「さて、それでは氷龍王を片付けに行くか!」
部隊が移動し始めた。僕はちらりとランスロットを見る。
ランスロットが小さく頷く。うん、ランスロットは判っている。
彼らは僕の異能を正確に把握してないから、リストレイナーや手錠で動きを拘束できると思ってる。隙を見つけて、みんなの拘束を解き、逆転するチャンスが必ずある。
僕はそれをランスロットに伝えたかったが、ランスロットはそれを充分に判ってる。それが伝わった。
部隊は移動を続けているが、不意に横にいるシグマが僕に話しかけてきた。
「おい、お前の仲間はどうした? 眼鏡の女と女剣士がいただろうが」
「今は……出張中だ」
僕は適当に答える。と、シグマは僕を睨んだ。
「前の時はいきなり消えたな。どっちかが、そういう力の持ち主なのか?」
僕は黙って答えない。と、シグマが微笑する。
「なににしろ、今度は負けないからな! 一対一でオレと勝負しろ!」
「嫌です」
「なに!? 貴様、勝ち逃げするつもりか? 許さんぞ」
なんか知らないけど一人で興奮してるシグマをよそに、別の声が聞こえてきた。
「――あの時、眼鏡の女がアタシを治癒した。何故だ?」
振り返ると、ミレニアの傍についている丸髪女のスルーだ。
そういえば、そんな事もあった。
「別に……僕らは機密を知りにいっただけで、人の命を奪いたいわけじゃない。それだけだ」
「そうか――」
スルーは少し目を伏せる。
僕は逆に、彼らに問うた。
「君らは特務機関ファフニールの――ギュゲス・ネイの部下なんだとばかり思っていた。どうしてバルギラの下にいるんだ?」
「オレたちはもとからバルギラ様の部下だ。ギュゲスもバルギラ様の支援を受けて活動していた。だからオレたちの上役だった――それだけだ」
「今となっては、どうしてあんなにギュゲスにも忠誠を尽くそうと思ってたのか判らないけどね」
スルーが自嘲気味に笑う。と、さらに後列から声があがる。
「お前たち、喋りすぎだ。こちらの情報をあまり与えるんじゃない」
見ると、ランスロットの傍にいるハルトだ。
シグマがその注意を受けて、面倒くさそうに笑みを浮かべる。
「フン、チェンジは真面目だねえ。こいつにやられてるからって、そう神経質になるなよ」
「それは君もだろう」
ハルトが言い返す。どうやらハルトは、コードネームがチェンジのようだ。
位置入れ替えの能力が、そのままコードネームなのか。
「オレは四対一だったんだぞ。サシで勝負して負けたんじゃねえ!」
「負けは負けじゃん」
「うるさいな! お前のコピーを入れれば9対2で負けたらしいじゃないか」
「なんだったら、アンタと勝負してもいいんだよ」
カエデがダルそうな目つきで、シグマを睨む。
この人も多分、別のコードネームがあるんだろう。
……しかしこの人ら、全然、チームワークないな。
エターナル・ウィスルを見た後だから、余計にそう思う。
「くだらない小競り合いはそこまでだ! どうやら氷龍王の巣に着いたぞ!」
ウェポンが声をあげると、さすがにディギナーズの面々も黙った。
部隊がそのまま歩みを進めると、山頂近くの洞穴内とは思えないほど、極端に開けてる場所に出た。
まるで神殿の中のように、岩の柱が不思議な形で乱立している。空間中が銀色の光を放ち、そこだけが昼間よりも明るいほどだった。
「――招かれざる者よ、今すぐに此処から立ち去れ!」
その空間中に響くような、男の声がした。
僕らは声の出所を探す。
「あそこだ!」
シグマが指さした先の石柱の先端に、男が立っていた。――ブリザードだ。
「お前が氷龍王か? いや、答えなくていい。此処に氷龍王がいるのは判っている」
ウェポンは薄笑いを浮かべると、右手を上げた。
隊員たちが一斉に前に出て、特殊銃を構える。
「撃て!」
隊員たちの特殊銃が、一斉に火を噴いた。
ブリザードは石柱から飛び降りると、その身体が光りを放つ。と、その光は白い飛竜の姿へと変わった。
「ハハッ! トカゲの分際で、ヒトに化けるのか? ケダモノの分際で、生意気なんだよ!」
ウェポンが声を上げるなか、隊員たちはブリザードの変身した飛竜に向けて射撃する。ブリザードの飛竜は、今までに見た飛竜よりも二回りくらい大きい。
あれでは銃弾は避けきれない――と、思っていたが、ブリザードの周囲に氷と力場でできてるような防御壁が現れ、銃弾を止めた。
ブリザードが逆に口から冷気を吐き出す。それは白い豪風で、氷弾まじりの攻撃だった。氷弾はウェポンの乗っている歩行機械を襲う。
が、ウェポンが自分の前面に魔導障壁を展開して、それを防いだ。
「へえ、ケダモノのくせにリーダーを狙うだけの知恵があるのか。それだけでも褒めてやってもいいが――お前が氷龍王なのか?」
「氷龍王キグノスフィア様が、貴様のような者を相手にする必要はない!」
ブリザードがそう言うと、周囲の岩陰から何体もの飛竜が現れた。
飛竜たちが隊員たちに向かって、氷弾を放つ。
「「「ぐわぁぁぁっ!」」」
何人かの隊員が氷弾の直撃をくらう。その瞬間に、隊員の身体は氷に包まれ、氷の柱と化した。
その氷弾の威力に、物理的に倒れる者もいる。
「みんな、下がるんだ!」
僕はキャルやミレニアに呼びかけた。能力を封じられてる皆では、巻き添えになったら防御する術がない。僕の呼びかけに応じて、皆が下がる。
その僕らの前では、護衛隊員と飛竜の凄まじい戦闘が始まっていた。
氷弾に撃たれて倒れる隊員がいれば、特殊銃の銃弾に落下する飛竜がいる。
別の飛竜は凄まじい勢いで飛んできて、隊員を口にくわえて空中へと飛びあがった。
「た、助けてくれえっ!」
そう叫んだ瞬間に飛竜の牙が喰い込み、隊員の口から血が噴き出る。
飛竜はその隊員を、地上に投げ捨てた。
「フン、どうやら形勢不利か。しかし、僕の兵器に叶うかな?」
ウェポンが歩行機の中で、何か操作する。と、ドローンが一斉に飛んできた。
ドローンは飛竜の飛行速度に負けずに飛び、ガトリングを連射する。
やがて、一体、二体と飛竜が落ちていった。ブリザードの飛竜も、地上に落ちている。事態は一気に形成逆転した。竜たちにとって、不利だ。
「皆の者、下がりなさい」
不意に威厳のある女性の声が響いてきた。
奥の影から巨大な存在が姿を現す。それは――氷龍王キグノスフィアだった。




