4 本当の強者
僕は殴ったランスロットを怒鳴りつけた。
「さっき使った技は、ガドから教わったタックルだ! ガドは……君が離れていった後も、新しいメンバーを探すことなく、僕らに合同クエストを持ちかけたんだ。それで二人で練習しながら、時間が経つのを待ってたんだ。君達がいつ戻ってきてもいいように――」
僕はランスロットに言いながら、興奮してきた。
「ガドはずっと、君を待ってたんだぞ! なのに君はなんだ!? ガドを傷つけた兵器を作った奴に従って、自分が正しいと思ってる。正しいとか正しくないとか、どうだっていい! ……君の気持は、何処にあるんだ?」
僕はランスロットに問うた。
気づくと僕は泣いていた。僕の眼からこぼれた涙が、ランスロットの顔や胸に落ちている。
「俺は……」
ランスロットが答えようとして――言葉に詰まり、横を向く。
その眼から、涙がこぼれた。
「――ランスロット、自分が負けたわけが判るか?」
不意に声がして、僕らはその方を見た。
レガルタスだ。レガルタスが渋い声で、微笑を浮かべて言った。
「迷いだ。お前の剣には冴えがなかった。対してクオンの剣には、覚悟があった。そして勝負を決めるときには、武器を手離す大胆さも持ち合わせていた。……ランスロット、自分が一番判っているだろう? 本当の自分が、どう生きたいかを」
ランスロットは横になったまま、眼を見開いた。
僕はその胸の上から降りる。ランスロットは横になったまま、眼を閉じた。
「みんな……すまなかった。俺の心の弱さが――皆を傷つけた」
ランスロットがそう言った時、その身体にミレニアが飛びついた。
「ランスロット!」
「ミレニア……すまない。俺は――」
何か言おうとするランスロットの身体を抱き上げて、ミレニアは泣きながら笑った。
「バカだよ、ランスロット。けどね、同じバカなら道を誤るバカじゃなくて、いつもの熱血バカに戻ってよ」
「ミレニア……」
「目の前の不正義を黙って耐えるなんて――ランスロットらしくないでしょ? そんなの、あたしが好きになったランスロットじゃないよ」
ミレニアはそう言うと、ランスロットの身体を抱きしめた。
……は、いいけど。いや、いいシーンだけどさ。
――二人って、そういう仲だっけ? いや、そういう仲になったってこと!?
ふと見ると、ガドが目を丸くし、スーが細い眼を細めて微笑している。
あ~、ガド、先越されちゃったねえ。
と、僕は視界の隅に、動くものを見取った。
「みんな! ドローンだ!」
僕は声を上げた。
と、次の瞬間、そこに一気に複数のドローンが現れる。
ドローンは空中にとどまっている。と、さっきも聞いた、妙に落ち着いた女性の声が聞こえてきた。
「捜索対象を確認」
「――聞かせてもらったよ、ランスロット副隊長!」
女性の声に続いて、少年のような声がする。こっちは人工音声じゃない。
「……ウェポン、この兵器を作った奴だ――」
ランスロットが低く呻きながら、上半身を起こそうとする。
「どうやら、君は猫耳捕獲に失敗したみたいだね。一応、聞くけど猫耳くん、ボクらのところに来るかい?」
「……行かないわ」
キャルが怯えを押し殺しながら答えた。
「じゃあ、仕方ない」
そう言った瞬間、ドローンが起動した。
「撃ってくる!」
僕は叫んだ。キャルは――ジージョの傍にいて、スーとガドの面倒を見ていた。
ジージョがすぐに結界を展開した。キャルは大丈夫だ――むしろこっちだ。
僕はコートシールドをランスロット達の上に展開する。銃口が火を噴いた。
コートシールドに銃弾が当たる。地面にも銃弾が降り注いでる。
このドローンの銃撃をずっと耐えるのは厳しい。なんとかしないと――
そう思った時、既にレガルタスの姿はなかった。
「え?」
レガルタスが棒を振っている。その棒は伸びると、一気に三機のドローンを貫いた。別の処でドローンが一機、女剣士イオラの双剣によって真っ二つにされている。
瞬時のことだ。
「すご…い――」
そう思っていると、辺りの空気すべてを揺るがすくらいの電撃が轟いた。
空間中が電撃で満ちる。――と、五機のドローンがバタバタと墜落していった。
「こういう機械は電気に弱いと最近、研究によって知りましてね」
細身の魔導士スレイルの電撃だ。
だが、微かにドローンがまだ動いている。と、地面に落ちたドローン全部に、ナイフが刺さった。
「スレイル、詰めが甘いんじゃないのか?」
「ロン! せっかくの研究材料になんて事するんです!」
スレイルの抗議に、眼帯のシーフ――ロンが皮肉そうに笑った。
「フォッフォッフォ! どうやら機械が片付いたようですな」
キャルやガド、スーに結界を張っていたジージョが愉快そうに言う。
レガルタスが棒を背中にしまうと、声をあげた。
「もう残ってないな――皆、大丈夫か?」
「チッ、レガルタスに負けた!」
「まあ、それ以前に、ぼくの電撃魔法が一番撃墜してますけどね」
「はあ? お前の魔法、仕留めそこなってただろうが?」
「という事は、一気に五機を仕留めたオレが一番働いたってことだな」
「あんたは、動かなくなった奴にとどめ刺しただけだろ!」
イオラとスレイル、ロンが言い合いをしている。だが、僕は彼らの戦闘能力の高さに驚愕するばかりだった。
これが……Aランクパーティー――
「みんな……凄い力だ――」
思わず声が洩れた。と、レガルタスが僕を見て口を開く。
「いや、クオン、お前がまず発見してくれたから戦闘準備ができたんだ」
「それに、ちょっとタイムラグありましたしね」
スレイルが神経質そうな顔で言う。ヘンな感じの人だが、大変な実力者だ。
「まあ……不意打ちされたら、あたしたちでもヤバかったんじゃない? 確かに凄い威力だよ。アイアン・ロアがやられたのも無理はない」
女剣士のイオラが、地面の銃弾痕を見てそう言った。銃弾が落ちた場所は、ひどく抉れている。
「お前、よくそのコートみたいので凌げたな。魔道具か?」
「いや、そういうじゃないけど…」
ロンが興味深そうに僕に言った。と、まだ地面に座っているランスロットが、僕に言った。
「クオン――庇ってくれたんだな、ありがとう」
いや、その前にボコってるし……なんとも答えようがない。
「しかし、とりあえずガドとスーさんを地上に運んで地上に戻りませんとな。どうします、レガルタス?」
ジージョの言葉を受けて、レガルタスは僕を見た。
「クオン、お前は何故、このクエストを受けた?」
「僕らはどうしても……バルギラに白夜の呪宝を渡すわけにはいかないんです。そして奴らは、キャルも狙っている」
「フム……これほどの戦力を持ちながら、まだその呪宝と猫耳少女を欲しがるとはな――何か秘密があるのだろう。このクエストはもう成立しない。我々がガドとスーを地上に運ぼう」
レガルタスは僕を見つめた。
「40階層以上の階を負傷者を連れて安全に降りるためには、我々も一人も欠かすわけにはいかない。我々と一緒に下山してもいいが、お前はどうする?」
「僕は――」
僕はキャルを見た。キャルが頷く。
「――僕たちは、白夜の呪宝を手にいれるために、氷龍王に会いに行きます」
「そうか……判った。敵は相当に手強い。充分に注意することだが、大事なのは死なないことだ。撤退するのも、勇気だと覚えておくといい」
「……判りました」
僕が頷くと、レガルタスは微笑んだ。
この人が本当の強者――僕は、そう感じとった。




