3 対決! クオンvsランスロット
振り返ったランスロットは――今までに見たことのないような顔をしていた。
「クオン……それは、開都護衛隊の司令官ウェポンが作った兵器だ。その兵器は、Aランクパーティーのアイアン・ロアを全滅させた」
「なにぃっ! あのアイアン・ロアをっ!」
唐突に声をあげた、細身の魔導士スレイルの声に皆が振り返る。
「あ……すみません。ちょっと驚いちゃって」
ランスロットは気を取り直して、僕の顔を見た。
「ウェポン司令官は兵器を自在に作る異能を持ってる人物だ。グルグル回る羽で飛ぶ機械を作り、それに乗って50人もの兵隊がこの階層までやってきた。正直……神のような力だ。俺たちが持っているこの特殊銃も、Aランクモンスターの飛竜をなんなく落とす。凄まじい威力の武器だ」
そう話すランスロットに、僕は言った。
「ランスロット、その異能者が作った兵器が、何もしてないガドとスーを傷つけたんだ。君は一体――何を考えてるんだ?」
「クオン……」
ランスロットは立ち上がると、僕に言った。
「キャルを――俺たちに引き渡してくれ」
僕は……なにを聞いたのか、一瞬、判らなかった。
「なにを……言ってるんだ、ランスロット? それは、バルギラにキャルを渡せってことか?」
「そうだ」
僕は一瞬にして、怒りの絶頂に達した。
「なにを言ってるんだ、ランスロットッ!!! バルギラはキャルの一族を全滅させ――まだキャルの能力を利用しようと考えてる奴だぞ! 渡すわけないだろ!」
「聞け、クオン! バルギラ様は、キャルを殺したりしない。けど、お前やエリナ、その他の冒険者たちは、ウェポンが平気で殺す。お前たちを殺させないためには、キャルを引き渡すのが最善なんだ」
「最善どころか、最悪だ!」
僕はランスロットに怒鳴りつけた。
「自分で言ってることが判ってるのか? 君は悪に肩入れすると言ってるも同然だ!」
「バルギラ様が悪とは限らない! ウェポンの兵器は凶悪だが――国防のためには非常に重要な戦力になるかもしれない」
ランスロットは重い表情でそう言った。
僕はそれが――許せなかった。
「それが君の選んだ道なのか? あの差別構造を助長してるバルギラの作る世の中が、本当にいい世界になると? ランスロットってのは、そんな男だったのか!」
「……クオン、それくらいにしといてやれ…」
不意に声がして、僕らは振り返った。
ジージョに治癒を受けながら、ガドがこちらに微笑みかけている。
「ガド! 気が付いたの!」
「クオン……男ってのは、楽しくても、居心地が良くても、慣れ親しんだ土地や友との別れを決断する時がある。……ランスロット、これが最後だ。聞かせてくれ。――ボルト・スパイクは、本当に解散するんだな?」
ランスロットがはっとした顔で、ガドを見る。
スー、そしてミレニアを見る。その顔に苦渋が浮かんだ。
「俺は……皆に死んでほしくない! それだけだ!」
「……僕はキャルを渡したりしない」
僕はランスロットに言った。
ランスロットの眼が据わっている。
「クオン、どうしても判らないなら――力づくで連れていく」
ランスロットはそう言うと、ゆっくりと剣を抜いた。
僕は棒剣を静かに構える。
「ちょ…ちょっと、レガルタス! あの二人、戦わせるんですか?」
魔導士のスレイルの声がする。レガルタスがそれに答えた。
「女をかけて男が戦う。――部外者には止められないだろ」
「いいねえ、見ものじゃないか」
女剣士イオラが、好奇心丸出しの声を出した。
僕とランスロットは、静かに見つめ合った。
「行くぞ、クオン!」
ランスロットが消える。いや――迫ってきている。
稲妻のような速さだ。が、僕はそれを横に跳んで躱す。
追撃してきた。ランスロットの剣が僕の肩に斬りつけられる。
棒剣で受ける。と、その接触点から、電撃が身体に走った。
「ぐあぁぁぁっっ!」
慌てて離脱した。接触点からも衝撃がくる。
硬化で受けるのはもちろん、棒剣で受けることさえ危険だ。
しかしランスロットは稲妻の速さで追撃をかけてくる。
僕は棒剣で受けつつ、衝撃が来る前に離脱する。だが、防戦一方だ。
強い――ランスロットはこんなに強かったのか。何合も斬り結ぶ。
今までに戦った、どの相手より強いかもしれない。
「だが――負けるわけにはいかない!」
横に走りながら、僕はランスロットの足元に鉄鞭を飛ばす。
ランスロットがそれを躱す。僕は岩壁を蹴って、頭上から斬りかかった。
「重化斬り!」
「ムゥッ!」
受けたランスロットの剣に、僕は最大の重化を乗せる。
ランスロットが歯を食いしばって、重さに耐えていた。
「グ…ググゥ――ウオォォッ!」
信じられないことに、重さに耐えながら、ランスロットは電撃を発した。
凄まじい衝撃が、僕の全身を襲う。
「グアアァッ――くっ!」
だけど僕は衝撃を喰らいながらも、まだ重化を止めない。
このまま遅し潰す!
しかしランスロットの電撃も止まない。
衝撃に、意識が遠のく。だが、僕は重化を止めない。
「くぅ――うぅっ」
合わせていた剣がずれて、僕らは二人して地面に倒れ込んだ。
――いや、倒れ込まない。
僕は膝をつきそうになったが、それを堪えて踏ん張った。
見ると、ランスロットもふらつく足で立っている。
今だ――今が最大のチャンスだ。動け、僕の身体!
「くっ――うおっ!」
僕はランスロットに向けて、棒剣を投げつけた。
「なにっ!」
ランスロットが棒剣を剣で撃ち落とす。
と、僕はその瞬間に、ランスロットに突進していた。
「ウオォォッ!」
重化タックル!
ランスロットの膝裏を両手で捉え、僕は肩から全身の重さでぶつかる。
重化!
「う――うおおっ!」
ランスロットの身体が倒れた。僕はそのまま上半身へ向かい、ランスロットの胸に最大重化の拳をぶち込んだ。
「うりゃあぁっ!」
「ごあぁぁっっっ――」
ランスロットの胸が凹む。肋骨を何本か折って、僕の拳がランスロットの胸にめり込んだのだ。
「ぐはっ」
ランスロットが血を吐いた。
と、その手から剣が落ちる。僕はランスロットの身体に馬乗りになり、その姿を凝視した。
「……俺の負けだ…クオン――」
ランスロットが血を吹いた口で、観念したように言った。
「ランスロット……」
ランスロットを見つめた。だが、ランスロットは僕を見ない。
僕は――その顔を、拳で横殴りにした。
「馬鹿野郎っ!」
「ぐぅっ!」
ランスロットの顔が、横に振られた。




