4 冒険者ギルドへ行く
ギルドの中は広く、色んな冒険者たちがいた。奥に受付らしき場所がある。僕らはそこまで進んだ。
互いに顔を見合わせる。……ここは、男の僕が勇気を出していかないと、か。
「あの~、すいません…」
「はい、なんでしょう?」
そう言って微笑んだ女性が――
「あれ? ……さっき洋服店にいませんでした?」
洋服店にいた美人のエルフだ。格好は銀行員っぽくなってるけど、同じ顔だ。
僕が思わず洩らした声に、受付のお姉さんは微笑した。
「あ、イリアの店へ行ってきたのね。わたしたち双子の姉妹なの。わたしはミリア、この冒険者ギルドの受付をしています」
「双子かあ、道理で」
「ところで、あなたたちは――新人さんかしらね? 冒険者登録がご希望かしら?」
「あ、はい」
よかったあ、話がすんなり通って。
安堵の息をつくと、ミリアは僕の後ろに立つエリナとキャルを見た。
「登録するのは三人でいいのかしら」
「はい、それでお願いします」
「じゃあ、こちらの用紙にそれぞれの名前と要項を記入して持ってきてください」
そう言うとミリアは三枚の紙を僕たちにくれた。
僕たちはそれを受けとると、ギルド内の一角にある立ちテーブルへと移動した。
用紙をエリナとキャルに配る。
「……なんか、日本語の文章ですね」
「本当だ、不思議だな。話し言葉は、言葉が自然に脳内変換されるという転生ファンタジーの特種設定かと思っていたが――どうやら、日本語でいいらしい。けど、風俗は欧風で、名前も外人風だ。謎だな」
エリナと僕は、不思議そうな顔で眼を見合わせた。
「どうかしたの?」
「――いや、まあいいか。言葉が通じるのに越したことはない」
「そうですね。仮にこの世界の文字とかだったら、僕らこれから大変だし」
僕とエリナは、それで納得した。
それで用紙を記入の項目を見ると、性別、年齢、名前、出身地などがあるが、見慣れない項目としては種族、というのがあったし、職能、という項目があった。
まず名前を書こうとして、僕はキャルに訊いた。
「この世界では、名前が先で姓が後が普通?」
「あ、はい、そうです」
僕は用紙に『クオン・チトー』と書いた。ちょっとファンタジーっぽい名前だ。
キャルの手元を覗き込むと、『キャル』とだけ書いて、キャルは何かよそ見をしている。その視線の先をたどると、ミリアがティーポットからお茶を注いでいた。
『キャル・ポッツ』とキャルが記入する。
……絶対、今、考えた姓だよね。――けど、きっと何か理由があるに違いない。キャルがそうしたいんだったら、キャルはキャル・ポッツでいい、と思った。
僕はエリナの用紙も覗いてみた。
『エリナ・ロイ』と書いてある。
「あ、ヒロイじゃなくて、ロイにしたんですか?」
「うん。なんかそっちの方がカッコいいだろ」
エリナが微笑む。そうかあ、何も本名を本当に書く必要なんてなかったんだ。なんかカッコいい名前にしとけばよかった。
けど、ペンのインクはもう染みちゃったし……。まあ、いいか。
次に年齢を書こうとして、僕はふと気づいた。
「そう言えばですが――、僕、何歳に見えます?」
エリナは僕を見て答えた。
「そうだな……15、6歳って感じか?」
「キャルは、どう思う」
「わたしも、そう思ってた。わたしと同年代だって」
僕は頷いた。
「やっぱり。僕、多分若返ってますね。僕は前世は20歳でした」
「え、そうなの?」
キャルが驚いた声を出す。僕は微笑んでみせた。
「うん、そうなんだ。キャルは幾つなの?」
「わたしは16歳」
「じゃあ、僕も此処ではそれで通すよ」
僕はそう言うと、年齢のところに『16』と書いた。
「やはり……君もそうか」
エリナが腕を組んで、そう言った。
「実は私も、若返ってるんだ。前世では24歳だったんだが、どうも私は20歳前後になってるらしい。そうだな……19歳にしとこう」
エリナはそう言うと、『19』と記入した。
「多分だが、自分が一番よかったと思う年齢に転生したんじゃないかな。少なくとも、私はそうだ」
エリナの言葉を受けて、少し考えてみる。
僕は中学生の時も、狩谷のいじめのせいで不登校になっていたが、高校一年の時は、あいつから離れられたから学校に行ってた。友達もいたし、学校は楽しかった。
そうか。あの一番良かった時期に戻ったんだな。
「僕もそう思います。多分、16歳の頃が一番よかった」
エリナは微笑んだ後、次の項目を指さした。
「ところで、この出身地はどうしよう。キャルちゃん、適当にごまかせそうな地名ないかな?」
「そうですね……ナシーノ地域、って書いておけばいいんじゃないでしょうか。わたしの故郷の近くで、無徴族の人たちが暮らしてた地域があるんです」
キャルの言葉に、エリナは反応した。
「それだ! そのコモンってのが、『種族』なんだな?」
「あ、はい、そうですね。お二人は無徴族――コモンでいいと思います。わたしは細かく言うと、有徴族の有尾族――です」
「猫耳族じゃないんだ」
エリナの言葉に、キャルはおかしそうに笑った。
「じゃあ、最後の職能って――もしかして魔導士とか、霊力を使えるとかっていう項目のことかな?」
「多分、そう。わたしは魔導士。エリナさんは霊術士でいいと思うけど――」
キャルが言葉に詰まった。
僕が能なしだからだ。僕は笑ってみせた。
「あははは、困るよねー、能なしなんて書いたら明らかに冒険者失格だろうな」
「そんな事ないよ! クオンは能なしなんかじゃないし――そうだな、戦士って書いておけばいいと思う。クオンは立派に戦ったんだから」
キャルはそう言うと、真剣な眼差しを僕に向けた。
僕はちょっと、申し訳ない気持ちになった。
「ありがとう、キャル。……うん。もう、自分を卑下するのはやめるよ。そんな事してても、しょうがないもんね」
僕の言葉に、キャルは微笑んだ。と、エリナが声をあげる。
「うん。これで概ねいいだろう。問題はここ――『所属パーティー』だ」
僕とキャルは、互いに顔を見合わせた。
「私たちのチーム名って事だな。これは何も考えてなかったね、どんなパーティー名がいいかな?」
エリナはそう言うと、腕を組んだ。
キャルも顎に人差し指をあてて、上を向いている。
僕も考えてみたが、パッと思いつくようなものでもない。
「クオンとその仲間でいくか」
「あ、それでいいと思います」
エリナの案に、キャルが賛成する。僕はブンブンと首を振った。
「いやいや! それだけはやめましょうよ!」
「いいと思ったのに……」
どこまで本気なんだ、この人。僕は口を開いた。
「そうじゃなくて、もっとこう……僕らを象徴するような――共通項とか――」
「そうは言っても――生まれも育ちも性別年齢、ぜんぶ違うしなあ……」
エリナが首を傾げてると、キャルが口を開いた。
「一枚の毛布で寝た……とか?」
思わず声が出た。
「それだ! 毛布――ブランケット…を複数形にして『ブランケッツ』ってのは、どうですか?」
「いいんじゃないか! 私たちらしい」
「わたしも……いいと思います」
キャルはそう言うと、嬉しそうに微笑んだ。
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