5 Aランクパーティー
レガルタスはニッ、と笑みをみせると、いきなりガドの肩をバンと叩いた。
「フン、お互いにまだ生きてたようだな、ガド!」
「お前もな!」
ガドもレガルタスと肩を組むように叩く。二人は、はっはっはと笑っていた。
「レガルタス、そいつは?」
細身の神経質そうな魔導士が、レガルタスに訊いた。
「こいつはガド。『ボルト・スパイク』というCランクパーティーにいるが――俺をレスリングで唯一負かした男だ」
え? Aランクパーティーのリーダーを? ガドが?
「めちゃくちゃ昔話だろ、レガルタス」
「そう言いながらも――今やっても、自信はありそうだな」
レガルタスの笑みに、ガドも微笑を返した。
と、背後からブリザードの声が響く。
「なんなのだ、お前たちは! なれ合いはもういい、この轟音はお前たちの仕業か?」
白い飛竜が地上に降り立つと、人間の姿になった。
「人間の姿になった!」
細い魔導士が声をあげる。その声に、レガルタスが注意をした。
「おい、スレイル、いちいちビビるな」
「そんな事言ったって――驚くものは仕方ないだろう!」
スレイルと呼ばれた魔導士が言い返す。レガルタスは苦笑を一つすると、真面目な表情に戻ってブリザードの方に向き直った。
「氷龍王の眷属よ、この轟音と地響きは我々のしたことではない。が――」
「が、なんだ?」
「我々に先行したパーティーがいる」
レガルタスの言葉に、僕は驚いた。
正直に言うと、僕らに先行するゾコーバたちがいた事にも驚いたくらい、僕は一番乗りだと思っていたのだ。
しかし実際には恐らく四番手。
発表の翌日、途中まで空を飛んでショートカットしても、それより先行したパーティーが三組もあったのだ。
「先行した連中が判るのか?」
ガドの問いに、レガルタスは少し顔を曇らせた。
「…『鉄の咆哮』だ」
その答えを聞いたガドが、眼を見開く。
その感じが尋常じゃない。
「どうかしたの、ガド?」
「アイアン・ロアは五人全員がAランク冒険者のトップチームだ。しかし……残酷で手段を選ばず、欲しい獲物に対しては他のパーティーへの攻撃も辞さない非道な連中でもあるんだ。奴らがこのクエストに参戦していたのか……」
ガドが明らかに危機意識を感じてる表情をみせた。
そうか、Aランクパーティーでもその性格に違いがある。
このエターナル・ウィスルはガドとも昔馴染みのパーティーで、まともな人たちなんだろう。けど、アイアン・ロアは明らかに危険な連中なのだ。
改めて見ると、エターナル・ウィスルはリーダーのレガルタス、細身の魔導士のスレイルに加え、プリーストっぽい太目の男性、両方の腰に剣を差している剣士の女性だ。四人パーティーか、と思った時、不意に声が聞こえてきた。
「レガルタス、どうやら上で騒ぎが起きている」
何処から現れたのか、まったく気配が判らなかったが、左に黒い眼帯をした一見盗賊風の男だ。緑のバンダナを頭に巻き、迷彩色のような柄の衣装をまとっている。
「ロン、何があった?」
「軍隊がいる。かなりの人数だ」
「軍隊? こんな階層まで、どうやって来たのさ!」
両剣の女性が声をあげた。
黒髪をポニーテールにし、その後ろ髪が腰までなびいている。
「判らん。だが連中は妙な武器を持って、モンスターたちを蹴散らして進軍してる様子だ」
「チッ! アタシたちも早くいこうぜ、レガルタス!」
「慌てるな、イオラ。我々の目的は戦闘じゃない。我々は『白夜の呪宝』というものを探している。それは――此処にいる、氷龍王の眷属が知っているかもしれんのだ」
レガルタスはそう言うと、ブリザードの方を見た。僕は慌てて声をあげた。
「ま、待ってください! 『白夜の呪宝』をバルギラに渡すわけにはいかないんです! それは、とても危険なことなんです!」
声をあげた僕を、正面からレガルタスが見た。
厳しい眼だ。威圧しているわけではない。
……ただ、僕の心底を見通すように、凝視している。
僕は正面から、レガルタスの眼を見返した。
「ガド、彼は?」
「『ブランケッツ』のクオンだ」
少し、レガルタスの表情が動いた。
「……最近、噂のパーティーだな。なるほど、君らにも事情があるのだろう。しかし我々も冒険者。だからといって、はいそうですかと引き下がるわけにもいかん。アイテムが欲しければ、我々より早く手に入れることだな。我々は、それに手出しをしようとは思わない」
「判りました」
僕はレガルタスを見つめて、返事をした
「ただし、アイアン・ロアはそういう連中ではない。充分に注意することだ」
「ご忠告、感謝します」
僕が軽く礼をすると、レガルタスは少し表情を和らげてガドに言った。
「いい若者だな、ガド。今は、彼らと組んでいるのか? ランスロットはどうした?」
「『ボルトスパイク』は解散して――ランスロットとミレニアは、開都護衛隊に入った……」
「その階層上で進軍している軍隊――開都護衛隊ではありませんかな?」
太目のプリーストがそう口を開いて、僕らは一斉に注目した。
「そんな話があるのか、ジージョ?」
「ちょいと耳にしただけですがね」
ジージョと呼ばれたプリーストは、鼻の下のチョビ髭をちょいと撫でた。
その声に、眼帯のロンが口を開く。
「さすが情報通のジージョの旦那だ」
「開都護衛隊が出動準備をしている、とは聞いておったのです。しかしまさか、こんなに早く上層階まで来るとは思っておりませんでしたな」
焦れたように、ブリザードが声を上げた。
「どんな連中か知らんが、我らの領域を荒らすなら相応の報いを受けることになるぞ。――お前らもだ!」
ブリザードはそう言うと、再び飛竜の姿に戻る。
「待って、わたしたちも!」
「ついて来るな!」
キャルの声に対し、ブリザードは空中で羽を羽ばたかせる。
と、その空間に凄まじい吹雪が巻き起こった。
「こ――これは…」
レガルタスが呟きを洩らした時、吹雪は収まった。
しかしブリザードの姿は、もう何処にもなかった。
「しまった! キグノスフィアに会えるチャンスをみすみす逃した」
「すまん、クオン、キャル。オレが降りようと言ったばかりに」
「いや……あの時、ブリザードがまず降りた。ガドのせいじゃないよ」
すまなそうな顔をするガドに僕は言った。
「とにかく、上に上がろう。もう一度、アタック体制で」
キャルとスー、ガドが僕の傍に集まってくると、細身の魔導士スレイルが近くに寄ってきた。ちょっと長い髪が鬱陶しい人だ。
「ところで、キミたち、一体、どんな魔法で空を飛んでるんです? どういう原理で? どういう強化? 頼むから、教えてくれ!」
「あ~……時間がないので、また!」
僕たちは空に舞い上がった。
「あ~っ! 必ず教えてくれ! そうでないと、夜眠れなくなる!」
眼下でスレイルが両手で顔を挟んでいる。
……あの感じだと、例えじゃなくて本当に不眠症になりそうだな。
「じゃあな、レガルタス!」
「ああ、またな、ガド!」
レガルタスが、軽く手を振った。
「多分こっち」
キャルは既に、ブリザードの行った先に飛行を集中してる。
目指すのは最上階――氷龍王キグノスフィアのいる場所だ。




