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3 指揮官たちの会話


 特殊ヘリはカスカラ山の中腹へと舞い上がっていた。


 運転席で赤髪のカエデ=マルチがぐちる。


「これさあ……別にあたし座ってなくても、よくない?」


 運転席の操縦桿は、マルチが触ってないのに勝手に動いている。

 ヘリは自動で動いていた。


 と、マルチのいる運転席のスピーカーから、ウェポンの声が届く。


「君たちの乗ってるヘリは、こっちで自動操縦してる。下手に運転して、プロペラ接触の事故でも起こしたら大変だからね」

「じゃあ、俺たちを運転席に座らせなくてもいいだろ!」


 スピーカーから、別機に乗っているシグマのふてくされた声が響いた。

 ウェポンはそれに、苦笑しながら答えた。


「そこはほら、未開人に対する統制っていうの? 特別感を見せておかないと、指揮官としての威厳が出ないだろ? 君たちに」

「俺たちに、かよ!」


 シグマはふてくされて、脚を計器に投げ出して組んだ。


「ウェポン、私たちは猫耳の捕獲を優先事項としてバルギラ様から命令されている。一応、隊の動きには従うが、その機会がある時は隊とは別の動きをする」


 そう言葉を発したのはハルト=チェンジだ。

ウェポンはそれに、苦笑気味に答えた。


「真面目だねえ、チェンジは。まあ、バルギラ様ご執心の猫耳は、君たちに任すよ。ボクは氷龍王討伐をメインにやらせてもらう」

「龍王って言われても……討伐して何になるっていうの?」


 スルーの呟きに、ウェポンは嘲笑を浮かべながら答えた。


「判ってないな、君たちは。これはバルギラ様が行う世界革命の、ほんの序章にすぎないんだよ!」

「世界革命?」


 丸髪のスルーは、首を傾げた。


「そうさ! 既に変革は起きている。先日のバルギラ様の空中映像(エア・ビジョン)や、最近、街で流行してるタブレット型の魔導具、新たな印刷機械は、ボクの生み出した機械だ。光学魔法の研究をして、それを魔導工学に落とし込むことを僕はイメージできるようになった。それを『兵器』という形で生産したのさ」


「それが革命?」

「判ってないな、産業革命、そして技術革新だ! それをボクはこの魔法と霊術、気技が発達したノワルドにもたらしたんだぞ。バルギラ様が作る新しい世界の礎を、ボクは築いているんだ。そしてその古い時代の贄になるのが――龍王だ!」


 ウェポンは、陶酔したような笑みを浮かべて独りで言葉を紡いだ。


「フフフ……龍王すらも支配する、新たなる力に全世界がひれ伏す統括者! そしてその参謀にして、新たな時代の革新をもらす技術者――それがボクだ!」


 その陶酔したような独白を、指揮官用特別ヘリに乗っているランスロット、ミレニア、そしてディアッドは聞いていた。

 ランスロットは、ディアッドに小声で訊ねた。


「ディアッド――司令官たちディギナーズは、異世界人――ということなのか?」

「そうだ。あの方々は異世界リワルドから召喚された特別な存在で、バルギラ様の直属として選ばれた方々だ。あの方々に仕えられる事を、光栄に思え」


 ディアッドの言葉に、ランスロットは無言で応えた。


(この司令官は――俺たちの事を『未開人』と言っている。前の世界では、もっと文明が進歩していた世界だったということか?)


 ランスロットは考えていた。


(そしてその文明力の落差で、この世界を支配しようとしている。けど……その元の世界『リワルド』という世界から来たにも関わらず、クオンやエリナが俺たちの事を未開人などと尊大な態度をとったことがあるか?)


 しかし、そこまで考えてランスロットは不意に疑問に思った。


(何故、彼らはバルギラ公爵を未開人だと見下さないんだ?)


 ランスロットは運転席にいるウェポンを見た。

 と、スピーカーからにシグマの声が響いてくる。


「ところでよお、このヘリ、何を燃料に動いてるんだ? ガソリンなんかこの世界にねえだろ」


 その問いに、ウェポンが答えた。


「このヘリの動力源は――搭乗員の命力だ」

「命力?」

「気力・魔力・霊力――その三力は、元は命力という一つの力だ。このヘリは搭乗員から、その命力を吸収しながら動力源にしている。ま、あの特殊銃もだけどね」


 その返答を聞いて、シグマが慌てて計器から足を降ろした。


「おい! ってことは、このヘリは俺たちの命を吸い取る事で運転してるってことか? 冗談じゃねえぞ!」

「そう、心配するなよ、シグマ。吸い取るのは、差し障りのない程度の命力だよ。まあ、少し疲れるはするけどね。けど、ボクも同じように搭乗してることは忘れないでくれたまえ」

「チッ! どうにも薄気味悪ぃぜ」


 シグマはそう言うと、腕を組んで椅子の上にあぐらをかいた。

 と、ウェポンは薄笑いを浮かべる。


「このシステムはね、ギュゲス・ネイが青霊鳥から霊力を奪うシステムを応用して開発したものなんだよ。あの片眼鏡も、技術者としては中々だったよ」

「あれほど忠義を誓った主人を――もう呼び捨てですか?」


 ウェポンの言葉に、チェンジが不機嫌な声を出す。

 が、ウェポンはそれに対し、嘲笑を浮かべた。


「だって、もう死んだんだよ? 忠誠なんて意味がないだろう! ボクは新たな時代の統率者――バルギラ様に、全身全霊で仕えるだけさ」


 ランスロットの疑念は深まるばかりだった。


(あいつにとってバルギラ公爵だけが特別な存在である理由はなんだ? その理由が判らない……)


 ランスロットはウェポンの後ろ姿を見ていた。

 と、左耳の後ろに、何か黒いシミがあるのに気が付いた。


 シミ、というより、何がへばりついている、という感じだ。


(なんだ? 汚れにしては――塊に近いような)


「ランスロット、どうかしたの?」


 不意にかけられたミレニアの声に、ランスロットは我に返った。


「いや、なんでもない――それより、寒くなってきたな」


 窓の外を見ると、吹雪である。

 外は真っ白で、何も見えなかった。



○  〇   ○   〇   ○   〇   ○   〇



 僕とキャルはデーモン・タランチュラの背中をとると、一気に降下した。

 棒剣を突き刺して、重化する。


“今だ、重化した!”


 スーのリンクで念話すると、スーが声をあげた。


「いきますわ!」


 水牛のファントムが現れた、と思った瞬間には、デーモン・タランチュラの頭に攻撃を加えている。デーモン・タランチュラが鳴き声とも言えないような、金属の軋み音に近い声をあげる。


 身体への重化攻撃に加え、頭部への霊力攻撃にデーモン・タランチュラの身体が地面へと落ちる。

 その機を逃さず、ガドが声をあげた。


「行くぜ! ビッグ・バースト!」


 ガドの巨大アックスが、デーモン・タランチュラの顔を真っ二つに割る。

 アックスが斬りつけた箇所から気力の光が迸り、その閃光はタランチュラの身体を真っ直ぐに駆け抜けた。


 一撃にして、デーモン・タランチュラは沈黙した。

 クオンとキャルが、アタック体制のまま地面に降りてくる。


「ふぅ……これで8体目か。けど、さすがにみんな慣れた感じになったね」


 僕の言葉に、皆が微笑んだ。

 僕らは40階層まで上がってきていた。


 これまで倒したのは、主だったところでは、Cランクのアイスウルフ24頭に、デーモン・タランチュラが8体だった。ゾコーバに魔石をあげても、全然、構わない収穫だ。


「しかし……Bランクモンスターのデーモン・タランチュラを、こんなにあっさり倒しちまうとはな。――オレたち、強くなってるよな」

「間違いなくね。スーのファントムも強力だし、キャルの魔法も、相当だしね」


 特にキャルの魔法は、アイスウルフの群れを一撃で掃討してしまって、ちょっと引いたくらいの威力だった。


 僕たちは洞穴の通路を上がって、41階層に上がる。

 しばらくすると広場に出た。と、僕たちに呼びかける声がした。


「――おい、お前たち。此処に何をしに来た?」


 声の主は岩の上に座り、僕らを見下ろしていた。


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