2 ウェポンの特殊武器
ランスロットは副隊長控室に戻った。
部屋には金色の巻き髪で、服装を軍服風にしたミレニアがいる。
「ランスロット、どうしたの? ちょっと顔色悪いよ」
「出動命令が出た」
「出動? やったじゃん、やっと活躍の場ができるじゃない!」
明るい顔を見せるミレニアに、ランスロットは沈鬱な表情を見せた。
「行き先は……氷龍王の討伐――キグノスフィア迷宮だ」
「キグノスフィア迷宮って…あのスペシャル・クエストの?」
ランスロットは頷いた。
「ああ。バルギラ公爵は冒険者向けにスペシャル・クエストを出すだけじゃなく、開都護衛隊にも出動命令を出したんだ。例の青炎の呪宝の奪還に加え、氷龍王キグノスフィアを討伐することが、今回の任務になっている……」
「ちょっと! そんなの無理じゃん!」
「しかし……バルギラ公爵直属の部下、ディギナーズのウェポンという人物の異能を見たが――異常な能力だ。自分で好きに武器を作れるらしい。しかもそれは異世界の武器で、俺たちの見たことのない機械だ」
「なにそれ……。ランスロット、どうするの?」
「従うしかあるまい。一度は決断して開都護衛隊に入ったんだ、任務が無理そうだからと引き下がるわけにもいくまい。部下たちもいる。俺は行って、氷龍王と戦う」
ランスロットは、そう言ってミレニアを見た。
「ランスロット、あたしも行くよ」
「ミレニア――人選は任されている。お前には…来てほしくない」
「バカッ!」
ミレニアはそう言うと、ランスロットの胸に飛び込んだ。
「あたしがどうして入隊したか――判ってるでしょ……」
「ミレニア……」
ミレニアが、ランスロットの胸で顔をあげた。
その瞳は涙で輝きを増している。
「あたしは……あんたが行く処なら――何処へだって、ついて行くんだから…」
「ミレニア、すまない……」
ランスロットはミレニアを抱きしめた。
ミレニアは微笑みを浮かべて、ランスロットの胸に顔を埋める。
「ミレニア、俺は必ずブロックナー家と……お前のスピアーズ家を再興してみせる」
「あたしはさ……」
ランスロットの言葉に、ミレニアはランスロットの胸に頬をつけたまま答えた。
「家の再興なんか、どっちだっていいんだ……。ただ、ランスロットの傍にいたいだけだよ」
「ミレニア――」
「だから連れてって。あたしはランスロットの力になる! 足手まといにはならない!」
顔をあげたミレニアに、ランスロットは答えた。
「ミレニア……俺なんかのために、そこまで――」
「ランスロットはいつだって、あたしのお日様だったよ。……好きなの」
ミレニアが顔を赤らめる。ランスロットは、虚を突かれた顔を見せたが、眼を細めてミレニアを見た。
「お前の事を……世界で一番大事に想ってる」
「ランスロット……」
潤んだ瞳で見上げたミレニアに、ランスロットはくちづけをした。
* * *
「これで全員だな!」
庭でウェポンが、50人の隊員を前に笑みを浮かべた。
「お前たちに武器を配ったな? 手にしてない奴はいるか!?」
返事はない。その中にはランスロットやディアッド、ミレニアも含まれている。
隊員たちが手にしているのは、機関銃のような形状の魔道具であった。
「それは僕が作った特性銃だ。気・魔・霊の三力のどの力でも、鉄の弾丸を連続発射できる銃だ。この世界には火薬がないから三力で発射できる仕組みを作ったが、元々のボクの世界の火薬銃では、こっちの連中の気力防御や魔導障壁を貫く力はない。――が! ボクが改良したこの銃は、こっちの世界に合わせて威力を底上げしている」
ウェポンはそう言うと、隊員の一人を指差した。
「そこのお前!」
「は、はい!」
「ちょっと出てこい」
隊員は言われたままに、前に出る。
庭の端の方に、別の隊員が用意した標的が置かれた。
「おい、お前は何ランクで、何の力を使う奴だ?」
「自分は、Cランク剣士で気力を使います!」
「よし、じゃあ気力を高めたところで引き金を引け。そしたら弾が発射される。あの的に当ててみろ」
はっ、と短く返事をして、隊員は的に向けて銃を構えた。
気力が高まる――と、隊員は引き金を引いた。
凄まじい連射音とともに銃弾が発射され、的は弾が当たりすぎて炸裂したように見えた。
「ひ…ひぃぃ……」
撃った本人が一番驚いている。
そしてその光景を見た隊員たちは、あまりの衝撃に声を失っていた。
しかしそこでウェポンは声をあげた。
「おい! あいつを連れてこい!」
「はっ!」
隊員の一人が命を受けると、脇を二人の兵士に拘束された風体のよくない男が連れてこられる。ウェポンは言った。
「あの男はBランク冒険者にして連続殺人犯のゼナだ。強さ、凶悪さは申し分なく、もう死刑が決定している」
ウェポンはそう言うと、にやりと笑った。
「お前、次はあいつを撃て」
「は? はい…?」
「あいつを撃て、と言ってるんだ。相手は犯罪者の死刑囚だ、遠慮するな」
選ばれた隊員は青ざめている。
それをよそに、ウェポンは犯罪者ゼナを拘束している二人に声をかけた。
「おい! そいつのリストレイナーを外して自由にしてやれ!」
二人の隊員が、ゼナの首輪を外す。そのゼナに、ウェポンは呼びかけた。
「ゼナ、お前がこの男を殺せたら、お前を無罪放免で見逃してやる。どうだ?」
「――悪くねえ」
ゼナ凶悪な笑みを浮かべると、瞬時に駆け出した。
Bランク冒険者は伊達ではなく、その俊敏さは眼にもとまらない速さであった。
「ヒッ、ヒィィィッ!」
ゼナが攻撃してくるのに向けて、隊員は引き金を引いた。
銃撃音が響き渡る。
次の瞬間には――ゼナは上半身が消し飛んでいた。
「アッハッハアッ! うまい、上手い! お前、上手いじゃないか、立派な狙撃手になれるぞ!」
ウェポンは愉快そうに言ったが、隊員たちはその凄惨極まりない光景に、絶句していた。その様子を見たウェポンは、突然、憤りだした。
「なんだ、その貧相な顔は! お前たちは軍隊に志願したんだろ!? 人殺しや死体を見るのは、覚悟の上じゃあなかったのか!」
「……いえ、覚悟はできてます。ウェポン司令」
ディアッドが前に進み出て、そう言葉を発した。
ウェポンは眼鏡を抑えながら、満足げに笑みを浮かべる。
「フン、どうやら未開人が兵器の威力にビビったらしいな。けど考えてみろ? このCランク兵士の攻撃で、Bランク戦闘員を圧倒できたんだぞ。つまりこれは――お前たちの戦力だということだ!」
「「「お、おぉ………」」」
隊員たちの間で、どよめきが走った。ウェポンは薄笑いを浮かべる。
「いいか。ダンジョンのモンスターなど、所詮はケダモノだ、そして龍王もだ! お前たちの力は何十倍にもなっているし、お前たちを超える力もまだこっちにはある。龍王など恐れるに足らん。行ってダンジョンのモンスターどもを、皆殺しにしろ!」
「「「「「オーッッッ!!!!」」」」」
一斉に隊員たちが威勢を上げた。
そして隊員たちは、並んで駆け足でヘリコプターに乗りこむ。
「行くぞ! 開都護衛隊、氷龍王討伐だ!」
ウェポンの声に、ヘリがプロペラを旋回させて宙に舞い上がった。
隊員たちが驚きの声を上げる。
「オレたち、本当に空を飛んでるぞ!」
「これなら、恐いものなどないぞ!」
運転席に座るウェポンは、その様子を見て微笑した。
「フフ……待ってろよ、氷龍王キグノスフィア」




