6 デーモン・タランチュラ
僕が糸を躱してる間に、髭面のパーティーが前脚の襲撃を受けている。
前脚が家の柱ほどもあり、それがうなり声をあげて振ってくる。
「「ぐあっ!」」
あっちの剣士と魔導士が一人ずつ、振られた前脚を避けきれずに、ふっ飛ばされてる。攻撃範囲が広すぎて、躱しきれなかったんだろう。
と、思ってると、こっちにも横から前脚を振ってきてる。
躱すか、と思ったが傍にいる助けた魔導士が動く様子がない。恐怖に身体がすくんでいる。
駄目だ、僕が躱してもこいつに当たる。
僕は前脚の方に出ていき、コートを翻した。
「コートシールド!」
ガン、と柱ほどもある前足が当たり、重硬化した僕にぶつかる。
僕は魔導士に叫んだ。
「後ろに下がって!」
「は、はい!」
魔導士が下がる、と、髭面が隣に駆けてきて、蜘蛛の前足に斬りつけた。
「ウオオォッ!」
ガン、という手ごたえで、あまり刃が喰い込んでない。
「クソ! なんて硬さだ!」
「脚を攻撃しても駄目だ。柔らかい胴体部を狙わないと、倒せない!」
僕は髭面に言った。
蜘蛛の前脚が遠のき、僕らは並んで構える。
「そうなのか? どうして、そんな事を知ってる?」
「本で読んだ」
僕は笑ってみせた。
髭面は呆気に取られていたが、やがて笑みを浮かべた。
「そうか――仲間を助けてくれて助かった。礼を言う」
髭面が軽く、頭と目を伏せる。
「二人、逃げたみたいだけど」
「急ごしらえのパーティーで、チームワークも何もないんだ。……俺は、ゾコーバ」
「僕は――まあ、名乗る必要ないか。知ってるんでしょ?」
ゾコーバは軽く笑った。
しかし、その間にも、他のメンバーに向けて前脚と糸の攻撃が行われてる。
キャルたちを見ると、ガドが糸を切りはらい、前脚を力場魔法で防御していた。
魔導士の魔導障壁で、前脚攻撃は防げる。
向うの面子を見ると、剣士二人が消え、一人が喰われた。
剣士と魔導士が一人ずつ負傷中。つまり剣士が三人、魔導士が二人、霊術士が二人残ってる。
「みんな、魔導士の傍に寄って! 魔導士は魔導障壁で防御に徹して! その間にヒーラーは負傷者を治して」
向うのメンバーは僕の顔を見る。と、隣にいるゾコーバが頷くのを見て、指示通りに動いた。魔導士を中心に3グループになってる。
「しかし、どうする? アイツの巨体では、攻撃が届く高さじゃない」
長い脚のせいで、デーモン・タランチュラの胴体ははるか上だ。
僕が読んだ冒険記では、タンクが攻撃を引きつけてる間に剣士が崖を登って、蜘蛛の身体に飛び降りて、ようやく倒したとあった。
その作戦も悪くないが、結局、そのタンク役はかなりの負傷を負ってしまったので、僕は取りたくない。
僕はゾコーバに言った。
「今から、アイツの身体を地面に落とす。攻撃が届く高さになったら、一斉に攻撃して」
「なに? そんな事ができるのか? ……いや、判った」
僕は頷いて見せると、キャルの元に駆け寄った。
「キャル!」
「クオン、どうするの?」
「キャル、飛ぼうか!」
僕が言うと、キャルは力強く頷いた。
「うん!」
キャルが僕の背中に廻り、コートのポケットに足を入れる。軽化!
「キャル! アイツの上まで行って。そしたら急降下して、アイツの身体を重化で落とす」
「判った!」
「スーと、ガドは援護お願い」
「おう!」
僕らの身体が宙に舞う。
「「な、なんだあいつら! 空を飛んでるぞ!」」
下から驚きの声が上がった。
空に舞い上がった僕らの気配に気づいて、蜘蛛が口をこちらに向ける。
糸を吐かれると厄介だ。が、その瞬間、水牛が蜘蛛の顎に角を当てた。
ファントムなら、高さが関係なく攻撃できる。
蜘蛛の気が逸れた。今だ!
「あいつの上に廻って!」
「うん!」
デーモン・タランチュラの巨大な背中が見える。
「キャル、急降下だ!」
「判った、行くよ!」
本当に急降下し出した。これは凄い勢いだ。
――が、これに重化を加える。
「行くよ、重化!」
さらに速度が増し、蜘蛛の身体目がけて落ちていく。
蜘蛛に着地すると同時に、僕は棒剣を背中に突き立てた。
「キャル、しっかり掴んで僕から離れないで! ――最大重化!」
一気に重化を上げる。
と、蜘蛛が重さに耐えきれずに、その身体を地面に落とした。
「今だ! 一斉にかかれ! 胴体を狙え!」
「「「おう!」」」
ゾコーバの指示で、向うの剣士たちが胴体部を攻撃する。
僕の突き立てた棒剣からも、蜘蛛の緑色の体液が滲んでいた。
僕は立て続けに、棒剣を突き立てる。
蜘蛛が暴れようとするが、僕の重さを耐えきれず身動きがとれない。
暴れる脚を避けて、剣士たちが攻撃を続ける。
「オオオォォッ!」
ガドが吠えた。目いっぱいアックスを振り上げると、脚の関節部に斬りつける。
と、脚が胴体から切り離された。
「みんな、脚の関節を狙え! 切り離せるぞ!」
「「おう!」」
ガドの声に、剣士たちが倣って足の関節部を狙う。
やがて蜘蛛は、まったく動けない状態になった。
しかし、まだ糸を吐いて抵抗しようとする。
「キャル、降りるよ」
「うん」
僕は地面に降り立つと言った。
「比較的、火に弱いはず。火炎魔法でトドメを!」
「「「判った!」」」
三人の魔導士とキャルが、一斉に火炎魔法を放った。
断末魔に糸を吐こうとするが、それも焼かれて蜘蛛の身体が炎に包まれる。
やがてデーモン・タランチュラは完全に沈黙した。
「「「や……やったーっ!」」」
パーティーたちから歓声が上がる。
ガドは苦笑して、こっちを見た。
「やれやれ、大変な相手だったな」
「うん。偶然だけど、大人数で助かった」
ふと、ゾコーバがこちらに歩み寄ってくる。
「……すまなかった、ブランケッツ。助けてもらった上に、討伐の助力まで――俺たちだけでは、やられていただろう」
「たまたま、本で読んでたモンスターだっただけだよ。運が良かった」
僕がそう言うと、ゾコーバは神妙な顔をして言った。
「なんとか30階層まで上がってきたが……この階層でこれだけのモンスターが出るとなると、此処は相当に厳しいダンジョンだ。俺たちでは、もう先には進めない。俺たちは迷宮を降りることにする」
「そう。まあ、命あってのことだもんね」
ゾコーバは僕の言葉に、苦笑しながら頷いた。




