5 第二の遭遇
キャルの背後にある炎の花が、ゆらゆらと花弁を燃やしている。
「臆するな! 相手は一人だ!」
髭面の掛け声で、魔導士軍団がそれぞれ魔法を起動した。
「火炎弾!」「電撃波!」「重力爆弾!」
その魔導士たちの魔法が発射される瞬間、既にキャルの炎の花が襲い掛かっていた。炎の花は、魔導士たちの魔法をぶち壊していく。と、同時に、魔導士たち本人にも襲い掛かった。
「俺たちをナメるな!」
魔導士たちは力場魔法で魔道障壁を作る。
しかし、その障壁をぶち壊して、炎の花は魔導士にダメージを与えた。
「ぐああっ!」
二人が呻いて倒れる。残る一人の魔導士はまだ堪えきって立っている。
が、その魔導士に乳白色の影が襲う。
「ファントム!」
スーの水牛型の分霊体だ。ヌーは障壁にぶつかると、角をぐいぐい振り回し、障壁を破壊した。
「バ、バカな!」
狼狽している魔導士を、水牛はかまわず突き飛ばした。
魔導士は呻き声をあげて倒れ込んだ。
「クッ、あの女は霊術士か!」
霊術士が声をあげて、自分のファントムを出す。
どういうわけか――タラバガニみたいなデカい蟹だ。
蟹はハサミを振り上げて、水牛に襲い掛かろうとする。
が、あっさり水牛の角の一撃で粉砕された。
「こ、こんな威力のファントムだと――」
唖然としている霊術士を水牛が角で吹っ飛ばし、霊術士が沈黙した。
あとはリーダーらしき髭面と、もう一人の剣士だ。
「く、クソ!」
髭面が焦った顔で声をあげる。
仲間の剣士と少し距離をとって、背中合わせに立っていた。
「ガド!」
「おう!」
髭面と剣士を、僕とガドで挟む。
僕らは一斉に髭面と剣士に向かっていった。
同じタイミングで僕らは低空タックルに入る。
「う、うお!?」
タックルされた男たちが倒れる。と、倒れた先で、互いの後頭部をぶつける。
「ぐあっ!」
地面に倒れ込んだ髭面に対し、僕はジャンプして肘を落とした。
重化!
「ぐおおぉぉぉっ!」
隣ではガドが同じ様に肘落しを決めている。剣士もガドの肘落しに悶絶していた。
僕とガドは二人を沈黙させると、立ち上がって互いの手をパン、と合わせた。
「お二人、絶妙のコンビネーションですわ」
「ほんと、練習的してた動きみたい」
スーとキャルが微笑む。
ガドが残る一人に向かって、ボキボキと指を鳴らしながら向かっていった。
「あとはお前だけだな、あん?」
「ヒ、ヒィィーー」
「ガド、そいつは治癒士だ。待って」
僕はその細身のヒーラーに向かって言った。
「誰も死んでない。今すぐ、こいつらを連れて立ち去れ!」
「は、はいぃぃぃ!」
ヒーラーは髭面を肩で抱えようとして、その重さに倒れそうになる。
「ちょっと! 起きてくださいよ!」
「あの……意識が回復する程度に治癒したら?」
「あ、なるほど」
ヒーラーは手をポンと打つと、髭面やその他のメンバーに軽く治癒術を施して回った。
「やれやれ……」
僕らは顔を合わせて苦笑する。
意識を取り戻した髭面が、青ざめた表情でこっちを見ていた。
「言っておくけど、僕らはギルマスから裏情報を得たりしてない。それをやったのはお前たちだろ?」
「クッ……」
「自分たちはズルしておきながら、他人を恨むなんて筋違いだ。もうちょっと生き方を考えないと、ロクな死に方しないよ」
「う、うるせぇっ!」
髭面は大声を出すと、そのまま背中を見せて歩き去っていった。
……ま、ああいう奴が反省するとは思わないけど。
他のパーティーメンバーも、それぞれ意識を取り戻して髭面の後を追う。
11人が消えるのを待って、僕はみんなに声をかけた。
「とんだ邪魔が入ったけど――」
出発しようか、と言おうとした時だった。
「「ぎゃあぁぁぁぁっっ!」」
彼らの向かった先から、悲鳴が聞こえてくる。
僕らは顔を見合わせた。
「行こう!」
「え、行くのか?」
走り出す僕に、ガドが苦笑しながらついてくる。
キャルとスーも、一緒になって走り出した。
洞穴の隙間を抜けると、開けた空間に出る。
と、そこには、巨大な生き物がいた。
「蜘蛛だ……」
しかし、大きすぎる。豪邸くらいの大きさの巨大蜘蛛だ。
「デーモン・タランチュラ!」
僕はジョレーヌの店で買った図鑑で、知っていた。
デーモン・タランチュラ――Bクラスモンスターの中でも最強クラスのモンスターだ。
「た、助けてくれぇっ!」
連中は既に6人も、蜘蛛の糸に絡まれている。
そのうち一人の傍に、巨大蜘蛛が寄っていった。
「ヒ…ヒィィィッ!」
男が悲鳴を上げるが、それに構わず巨大蜘蛛は、巨大な牙でその男に噛みついた。
あっさりと、上半身がその男から消える。
「う……うわあぁぁぁ――」
その光景を見た他の蜘蛛糸に絡まった男たちが、パニックになった。
「に、逃げろっ!」
声を上げると、剣士が二人逃げ出す。
それに対し、髭面が声をあげた。
「ま、待て貴様ら!」
しかし剣士たちは、脇目もふらずに逃げていった。
僕は傍にある蜘蛛の糸を見て、棒剣を収納珠から取り出して振ってみた。
切れる。
「ガド、この蜘蛛の糸は切れるみたいだ。二人で助けよう」
「そう言うと思ったけど……お人好しがすぎるぜ」
ガドが肩をすくめた。その苦笑に構わず、僕は声をあげる。
「キャルとスーは、遠距離で援護して」
「判った」
「お任せください」
僕は跳び込むと、棒剣を放ち斬りで振る。
蜘蛛の糸に絡まれた男を救い出した。
ガドもアックスを出して、絡まれた男を助けている。
と、その様子に気付いた蜘蛛が、僕に向かって糸を吐いた。
え? 蜘蛛って尻から糸を出すんじゃないのか?
――と、思ったけど、そんな事考えてる場合じゃない!
僕は糸を躱して、戦闘態勢に構えた。




