4 第一の遭遇
僕らはブランケッツ号を降りて、迷宮の入り口に入った。
中はある程度、明るさがあったがそれはヒカリゴケの明るさじゃない感じだった。
「あ、この鉱石が光ってるんですわ」
スーが気が付いて、岩肌を指さす。見ると、結晶のようなものが岩肌から出ていて、それが微妙に光っているのだ。
「判った! これ発光石の原石だ」
僕が声を上げると、皆、おー、と感心した声をあげた。
「これを切り出して精製して、発光筒に加工したものが、うちの照明ってことなんだね」
「オレたちも知らなかったな。発光石って、こんな処にあるんだ」
「多分、鉱山はもっと切り出しやすい場所にあるのよ」
「なるほど」
ノワルド生まれのガドやスーだって、知らなかった事だ。僕が知らなくても、ちっとも不思議じゃない。そんな事を思いながら、僕らは迷宮の中を進んだ。
マルは既に飛ぶのを止めて、キャルのポーチに収まっている。
「マルはどうしたの?」
「ちょっと疲れちゃったみたい」
確かに、高度3000m近くまで、ずっと僕らを案内したんだ。さすがの龍王でも疲れるんだろう。
「しかし、30階以上というと、出てくるモンスターもCランク以上になる。みんな、気を付けろよ」
ガドが引き締まった顔で言った。
僕らは用心しながら、迷宮を進んだ。
不意にスーが口を開く。
「この先に――人の気配がありますわ」
「人? モンスターじゃなくてか?」
「ええ」
ガドの念押しに、スーは確信をもって頷いた。
「どうする?」
「とりあえず、進んでみよう。行き先を変える理由もないし」
僕らは歩き進んでいった。と、スーの言った通り、人がいた。
大勢だ。十人ぐらいはいる。大所帯のパーティーだ。
彼らは僕らを見ると、声をあげた。
「なんだお前ら! 何処から現れた!?」
声をあげたのは、頭にバンダナを巻いた無精髭の男だ。
「この先から来たんですよ。……それじゃ」
僕は小さく礼をして、通り過ぎようとした。
「おい、待て!」
僕の前に、無精髭が立ちふさがる。
「……お前、ブランケッツのクオンだろ?」
「だったら、なんだっていうんです?」
無精髭は憎々し気にこっちを睨んでいる。
「やっぱり、ギルマスから裏情報を貰ってるのは本当だったんだな! 俺たちはなあ、新ギルドで城の広場の発表前にこのクエストの事を聞いて出発してるんだ! 俺たちに追いつくなんて、ありえねえんだよ!」
新しい原民主義者たちのギルドの連中か。僕は、ちょっとげんなりした。
「くそ、こいつら、前のクエストで賞金をかっぱらったくせに、まだ賞金をとろうとしてる!」
「ふてぇ奴らだ!」
髭面が代表者のように前に出てきた。
「おい、お前らは今すぐ帰れ! そうしたら、この場は見逃してやる。オラ、消えろ!」
僕は髭面を凝視した。
その次に、順々に一人ずつの顔といでたちを見ていく。
十一人いた。内、六人が戦士系、三人が魔導士、二人が霊術士。
この30階層以上に上がってきてる以上、全員がCランク以上のはず――
「な…なんだ、てめぇ! 何見てやがんだ!」
「僕らは帰らない。あなたたちに……それを強制されるいわれもない」
キャルの呪宝を誰よりも早く見つけるために、帰るわけなどない。
僕は髭面の顔を、まともに凝視した。
一瞬、ギョッとした表情を見せたが、髭面は強気の笑みを浮かべてみせた。
「そうか……どうやら痛い目をみたいらしいな。新参パーティーには、少し世の中の仕組みってもんを学習してもらうぜ!」
髭面が片手を上げて僕らの方に振る。合図らしい。
男たちが剣、ハンマーなどの武器を振り上げてやってくる。
僕は横目でガドを見た。ガドが頷く。
僕はそれを機にバネ脚ダッシュした。真っすぐ向かう、と思わせておいて、僕は一気に横に跳び出した。
そして岩壁を思い切り蹴ると、その反動を利用して一番端の男に重硬タックルをくらわせる。男は吹っ飛んで、並んで向かって来ていた男たちを巻き添えにして倒れた。
「うわぁっ!」
「は、はやくどけ!」
折り重なって倒れた男たちがまごまごしている。僕とガドはその集団に接近した。
男が一人、剣を振りあげてこっちに向かってくる。
僕は男が踏み込んでくる瞬間に、逆に踏み込んで低空タックルをきめた。
今までの重硬タックルはショルダーで当たって、吹っ飛ばすのがメインだ。けど、ガドとトレーニングして身に着けた低空タックルは、相手を倒すのが目的だ。
相手の膝を捉えて、重化した体重をあびせる。
「う、うわあぁっ!」
たまらず倒れた男に、僕は突きをくらわせた。これも膝を曲げて沈むのと、重化を合わせると威力はとんでもないことにある。
「ぐあっ!」
男が呻いて、意識を失った。
「この野郎!」
僕の背後から、男がハンマーを振り上げている。僕は立ち上がりざまに、左手でその腕を捉える。と同時に、すぐにそれを引き込むように、下に沈みながら巻き込んで投げた。
「うっ!」
男は呻いた一瞬で、僕の重化に耐えきれず巻投げをくらう。男が背中から地面に落ちたところを、僕は顎に、握った拳で鉄槌をくらわせた。男がものも言わず昏倒する。
周囲ではガドが、剣を振り上げた男のバックをとり、思い切り反り投げしていた。投げられた男が、後頭部から地面に落ちて失神する。あれは痛い。
僕もやってみよう。
剣を振りかぶってきた男に、低空タックルに入る形で懐に飛び込み、背後をとる。
この低空タックルの形は、相手が踏み込んでくる瞬間に、こちらが距離を詰めるのがポイントだ。
その事によって相手の目算が外れ、相手から攻撃しにきているにも関わらず、こちらがイニシアチブをとれる。ガドとのトレーニングでそれが判り、僕は懸命にそのタイミングを習得した。
「な、なにぃ!?」
背後をとられた相手からは、こちらは消えたように見える。僕は既に背後に廻って、相手の胴体に腕を回してぶっこぬいた。
「むんっ!」
相手の身体が宙に浮く。むりに持ち上げようとしなくてもいい。相手が重い場合は、相手の重心を崩し、後ろに倒せばいい――これはガドから教わったコツだ。
僕は反り投げが決まる瞬間に、重化してやった。ダメージは相当なものになるはずだ。
「ぎゃっ!」
投げられた相手は頭から落ち、小さく呻いて気を失った。
「どうやら、練習の成果が出てるようだな!」
「うん、ガドもいい感じ!」
僕とガドは、互いに眼を合わせると、笑みを浮かべた。
「く、くそ! あいつらをやれ!」
髭面が後衛の魔導士群に命令を出す。魔導士たちが魔法杖を出した瞬間、キャルが声をあげた。
「やめなさい!」
見ると、キャルの背後に相当数の、赤い炎の花が浮かんでいた。




