2 僕を信じて
ガドに言われて、僕は自分の身体を改めて見てみた。
ちょっと大胸筋とかついてきたかも――腕の力こぶもできてる。以前は縁のなかったものだ。
「組技をやるとな、自然に筋肉がつくんだよ。しかも外側に見える筋肉だけじゃなく、内側の筋肉がつくんだ。見た目以上に、お前は身体ができてきてる」
「そういうものか……」
僕は感心して風呂を出た。
食堂に行くと、なんか二組ほどパーティーがテーブルについている。
僕とガドが姿を現すと、ジロリと睨まれた。
男四人組のパーティーと、男3女2のパーティー。多分、この人たちもキグノスフィア迷宮に来たパーティーなんだろう。……ライバルって事か。
ガドは気にした様子もなく、テーブルについた。
「おう! ビール持ってきてくれ、二つ!」
「はい、ただいま」
「え? 僕も?」
中年女性の店員が、返事をするとすぐにジョッキを持ってきた。
「じゃあ、女たちが来るまで、一杯やっとこうぜ」
一応、前世では成人だったので飲酒経験もあるし、このノワルドでは法律違反ではない事も承知だ。けど……あんまり得意じゃないんだよな、お酒。
「じゃあ、一口だけ」
そう言って、ほんとに一口だけ呑んだ。
――と、僕らの席に近づいてきた影がいる。
「お待たせ~」
なんか、ほんのり赤くなった、湯上がりのスーとキャルだ。
寝衣なのか、二人ともちょっと浴衣風の薄着で来ている。
……妙に色っぽい。と、見ると、ガドも顔を赤らめている。
特に目線は、スーの胸元に釘づけだ。
こら! そんなに見つめたら、バレるだろ!
と、言いたかったが、ぐっと堪えて、清楚なたたずまいを崩さないキャルを見た。
純白の髪はまだ少し乾ききってなくて、艶を残してる。今日はその頭の上にある猫耳も、そのままにしていた。可愛い。
「いいお湯でしたわね。こんな処で、こんなにいいお風呂に入れるなんて」
「そ、そうだな! 明日からダンジョン入りしたら、風呂なんてしばらく先かもしれないからな! 今のうちに、入っておけてよかったよ」
なんか知らないが、ガドが動揺を隠すように話してる。
ホント、しょうがないな。と、スーが片手をあげた。
「すいませ~ん、こっちにもビール! ――あ、キャルちゃんは?」
「わたしはいい」
「じゃあ、三つで!」
どういう事?
驚く僕をよそに、運ばれてきたビールのジョッキを、スーは瞬く間に空けてしまった。
「酒豪だ……」
「スーはな、オレたちの中で――いや、もしかしたらギルド一、酒が強いんだよ」
「そんなこと。――あ、すみませ~ん、もう一つ!」
スーは細い眼を細めて、笑顔でどんどんビールをあけていった。途中で、僕の呑みかけもあげた。食事が終わる頃にはスーは間違いなく20杯以上呑んでたと思う。
「それじゃ~、二人とも……おやすみなさ~い!」
「ん、じゃあ明日な、クオン」
すっかりご機嫌のスーは、ガドの腕に捕まって部屋に戻った。
ガドは苦笑しながら、僕にそう言うと部屋に入っていく。
「僕たちも、寝ようか」
「うん」
僕はキャルに言って、一緒に部屋に入った。
……と、途端にドキドキしてきた。
今までだって、一緒に寝たことあるし……二人きりの夜もあったし――
けど、ドキドキする!
「じゃあ、僕、こっちのベッドで寝るね」
「うん」
「おやすみなさい」
「おやすみなさい」
僕はそう言うと、灯りを消して布団に潜り込んだ。
……ね、寝れない! 隣にキャルがいるかと思うと――
そんな事を思いながら、僕は一人布団の中でもじもじしている。
と、不意に声がキャルの声が聞こえてきた。
「ね、クオン……」
「……なに?」
「そっち、いっていい……?」
え? えぇ!?
「う、うん」
僕が答えると――キャルがごそごそと隣のベッドから出てきて、僕の隣に入ってきた。
どうしたんだろう? え? 僕、どうしたらいいの?
なんか迷ってると、キャルがすぐ傍に寄ってくる。
キャルは僕の胸のところに、頭を寄せた。
……キャルの呼吸が、胸にあたる。
キャルの手が、僕の身体に触れた。
「クオン……」
「な…なに……?」
僕はもう、動悸がして――喉が渇いてきた。
「お願いがあるの……」
「……なに?」
僕が問い返すと、キャルが震える声で言った。
「もしわたしが怪物みたいになって……見境なく人を殺すようになったら……わたしのことを…殺して――」
「何を言うんだ!」
僕は我に返って、キャルの頬を両手で掴んで、その顔を見た。
キャルは……涙を滲ませている。
「お願い……」
「そんな事にはならない! 絶対に!」
僕は真剣に言った。そんな事は、絶対にしないし――キャルにもさせない。
「キャルにそんな事させない! 誰よりも早く呪宝を見つけて、バルギラなんかに負けないでいくんだ! キャル――僕を信じて!」
「クオン……」
キャルの眼に涙が溢れて――零れ落ちた。
僕はキャルを抱きしめた。
「大丈夫だよ、キャル……僕はキャルのこと、絶対に守る」
僕は強い決意で、キャルを抱きしめた。
僕の強い決意が伝わるように、キャルの細い身体を抱きしめた。
キャルが――僕の身体を抱きしめ返す。まるで…しがみついてるみたいだった。
「うん……クオンのこと…信じる――」
僕は不意に――出会った時のことを想い出した。
この世界で、キャルと二人きりだ。そんな風に感じた。けど……今はそうじゃない。
「僕だけじゃない。ガドとスー、それにエリナさんやカサンドラも……みんなキャルの味方だよ。僕らが絶対に、君を守る」
「うん……ありがとう…」
キャルが顔をあげて、涙が晴れた笑顔を見せた。
そしてまた、僕の胸に顔を埋める。
僕らはそのまま――抱き合って眠った。
* * *
翌朝、僕らは準備を整えると、食堂へ集合した。
「――よし、それじゃあ出発しようか」
「おう!」
ガドが威勢よく声をあげる。
……結局、あの後、二人はどうしたんだろう? ちょっと気になる。
「うん、いい朝ですわね。頑張っていきましょう」
スーはすっきりした顔をしている。と、キャルが口を開いた。
「スー、よく眠ったの?」
「ええ。もう、ぐっすり」
「そっか……わたしも」
キャルが何故か照れくさそうに言った。
と、ガドが僕にそっと囁いた。
「スーはな、呑むだけ呑んだら、すぐに寝るタチなんだ」
僕とガドは顔を見合わすと、お互いに苦笑した。




