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第二十四話 キグノスフィア迷宮  1 宿屋にて


大陸の北部と南部を分けているラングール山脈。地図で見た感じだと大きく三層に連なる山脈から構成される大山脈だ。その北側のまさに『入口』の処に、カスカル山がある。


 そのカスカル山にキャルが昔、寄った村があるという。僕たちはブランケッツ号で、まずそこに向かった。


 スーに浮遊をやってもらい、キャルは空気抵抗をなくす形。僕はゴーグルをして、とにかく走った。


「信じられないくらい速いな! これなら、どのパーティーよりも先にキグノスフィア迷宮に着けるんじゃねえか」

「だと、いいけど……」


 ガドの言葉に、僕は短く答えた。その後で、言葉を続ける。


「むしろ警戒すべきは――待ち伏せている可能性。多分、バルギラはあの発表をすることで、絶対に僕らが動くことを予想してる。クエスト自体が、罠の可能性だってある」

「そうか。気を引き締めてかからねえとな」


 ガドが腕組みをして頷いた。けど、ガドやスーがいることが、どれほど心強いか――。相手は目的のために、シャレード族を全滅させるような奴だ。手段を選ばない、残酷な奴であることは間違いない。


「あ、この景色! 覚えがあるよ」


 キャルが声をあげた。

 僕は足を止めた。山の中腹に里がある。


「ふぅ……」


 一旦、足を止めると、脚がガクガクしてきた。此処は標高が1500mくらいだと言っていたが、とにかく山道、坂道だった。それを丸一日走っていたのだから、無理もなかった。


「クオンさん、大丈夫ですか? 少し、治癒しておきましょう」

「スーだって疲れてるのに、すいません」

「遠慮しないで。今は同じパーティーなんですから」


 スーがそう言って笑う。と、スーは僕の身体に治癒術を施してくれた。

 足の筋肉疲労がやわらぐ。


「今夜はこの村に泊まって、明日から攻略を始めた方がいいんじゃねえか?」

「そうだね、そうしようか」


 ガドの意見に賛成して、僕らは宿を探した。 


「こっちにあると思う。泊まった覚えがあるの」


 キャルが村の中を先導して歩く。村は小さいが、木造りの田舎風な宿屋が並んでいる。

 多分、ダンジョン探索をする冒険者を泊めるための宿場なのだろう。


「ここ……この宿屋で――わたし、お父さんを待ってた」


比較的小さな、古民家風の宿屋だ。僕らはその宿屋に入った。


「いらっしゃい。おや――」


 出迎えた宿屋の主人が、キャルを見て声をあげる。


「あんたは、以前にうちに泊まった娘さん。元気にしてたかい?」

「はい。あの時は、お世話になりました」


 店の主人は大きな口髭をたくわえた、人の好さそうなおじさんだった。


「二年くらい前かなあ、よく覚えてるよ。お嬢ちゃん一人で、お父さんを待ってたもんねえ」

「はい……あの時は、宿屋の人たちに励まされて…心強かった」


 キャルがそう言って微笑んだ。

 と、僕は気が付いた。


 二年前? 僕は前にキャルの話を聞いた時、キグノスフィア迷宮にお父さんが行ったと思われてから、すぐに捕まって奴隷にされたんだと思ってた。


 けど、そうじゃないんだ。

キャルとお父さんは、二年間も逃亡生活を続けてたんだ。


「それで、今日はお泊りかね?」


 店の主人の声で、僕は我に返った。


「あの、四人、泊めてほしいんですが」

「部屋はどうします? 雑魚寝の大部屋にするかい、それとも二部屋?」


 僕はみんなを見回して、口を開いた。


「二部屋でいいよね?」

「ああ、いいと思うぜ」


 ガドの言葉に、スーとキャルも頷く。おじさんは、相好を崩した。


「じゃあ、ご案内しますね」


 おじさんに導かれて、古い造りの階段を上がる。

 おじさんはその間に、僕らに言った。


「なんだか大きなクエストが発表されたとかで、何処の宿屋も準備が忙しくてね。うちではあんた達が一番乗りだよ」


 そうなのか。もう、情報が伝わっていて、もう少ししたらこの里は、冒険者パーティーでいっぱいになるのだろう。


「他の宿には、もう幾つかパーティーが到着してるってことですか?」

「みたいだねえ。ま、今日はゆっくりしていってください。それじゃあ、この部屋とこの部屋で。食事はどうします?」

「あ、お願いします」


 僕の言葉に、おじさんは相好を崩した。


「じゃあ、一時間後くらいがいいかな?」

「それで、お願いします」

「それじゃあ食堂は一階なんで、そっちに降りてきてください。大浴場も一階にあるんで、その間にでも、よろしければどうぞ」


 おじさんは部屋を案内して鍵を渡すと、階下に去っていった。

 僕は鍵を受け取ると、スーにもう一本を渡して部屋に入ろうとした。


 当然、僕とガドが相部屋のつもりだった。

 ――が、不意にキャルが口を開いた。


「あの……クオンと同じ部屋じゃ…ダメかな?」


 え? えぇっ!?

 驚いてると、スーが口を開いた。


「あ、わたくしは構いませんよ。ガドと相部屋で結構ですわ」


 えぇぇっ!? え~っ!?

 僕は驚きの顔で、ガドと視線を合わせた。


 ガドも驚愕に眼を見開いて――赤くなってる。

 ……僕もか? ど、どういう状況だ、これっ!


 と、スーが笑顔で口を開く。


「まあ、ダンジョンでよく一緒に野営もしましたし、慣れ親しんだ相手と相部屋の方が落ち着きますわね」


 そ、そういうものか?


「うん……なんか。昔のこともあるし、今日はゆっくりしたいから」


 キャルは落ち着くの? 僕は興奮して眠れないかもしれないけど!

 ――と、思ったけど、僕はキャルの顔を見て我に返った。


 不安を、押し殺してる表情だ。そうか……やっぱり、不安なんだ。


「――そうか。大丈夫だよ、キャル。僕がついてる」

「うん……」


 僕の言葉に、キャルがやっと微笑してくれた。

 ガドとスーが、僕らの様子を見て納得したように微笑んだ。


「それじゃあ、お風呂入ったら食堂で集合しようか」

「あ、ああ……」


 戸惑いがちのガドをよそに、僕らはそれぞれの部屋に入った。

 ベッドが二つ並べてあるだけの、簡素な部屋だ。

 

 僕はやっぱり、ちょっとそわそわした気持になって、キャルに言った。


「なんか……宿屋って初めてだね」

「そうだね。ちょっと…嬉しいかも」


 キャルがそう言って笑う。なんて可愛いんだ。

 僕は顔が赤くなるのを自覚しながら、言った。


「それじゃあ、お風呂に入ってくるよ。食堂で集合しようか」

「うん」


 僕はそそくさと、一階の大浴場に行った。

 大浴場、と言っても、小さな宿屋なのでそんな極端に大きなお風呂じゃない。

 けど、一日走った僕の脚を休めるのには、とってもいい湯だった。


「ふ~、やっぱりバネ脚でも疲れるんだな……」

「おう、クオン。先にいたか」


 真っ裸のガドがやってきた。

 いや、改めて見ると、凄い体格、凄い筋肉だ。


「……凄いガタイだね、ガド」

「そうか? けど、クオンも身体ができてきてるぞ」

「えぇ?」


 言われて僕は、自分の身体を見返してみた。……ホントだ。


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