表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

135/239

4 レスリングの成果


 僕は腰を落として低く構え、ガドと対峙している。

 ガドが手を伸ばしてくる。その手を前手で振り払う――と同時に、僕はさらに低く踏み込んでタックルに行く。


 が、ガドがそれをさせまいと、こっちの脇を上げてくる。と同時に、ガドにがっちりとロックアップされた。ずん、とガドの重みが加わる。


「くっ」


 僕は低く呻いた。ガドはここから、どう攻めてくるか?

 ガドがロックアップした状態で、前腕を押し込んでくる。こっちが後ろに反らされ、身体が浮く。――と、その瞬間、ガドがタックルに来る!


 僕は慌てて足を引き、上からガドを潰す体勢にがぶる(・・・)。ガドが伸ばした手が、僕の足をとろうとしてるのを、懸命に避けた。僕はガドの背中に乗った状態で、思い切り両腕でガドの身体を締め上げ、体重を乗せた。


 少しガドが沈む。ここ!


 僕はホールドを解いてガドのバックに廻り込む。が、ガドがその気配を察して、さらに僕と正対するように同方向に廻り込む。いや、逆に僕がバックをとられそうになってる!


 後ろをとられた! ……が、実はそれは囮だ。

ガドが僕の腰に伸ばした手首を、僕は左手で掴んでいる。


 左手を上に掲げ、右手をガドの腕の下に差し込む。


「――りゃあっ!」


 そのまま身体を斜めに倒すようにしながら、身体を回転させて巻き込む!

 僕の体重をそのまま地面に預けるように落とし、ガドと一緒に沈み込んだ。


「うおっ!?」


 ガドが声をあげた。と同時に、僕の背中側へガドが前回りに落ちた。

 ――投げた。僕が、ガドを投げた。


 僕は天を仰ぎながら、叫んだ。



「やったーっ!! 遂に、ガドを投げたぞ!!!」

「ハハハ! 遂に投げられたな。よくやったな、クオン」


 僕は上半身を起こしてガドを見ると、ガドも身体を起こしてこっちを見ていた。

 その口に、満足げな笑みが浮かんでいる。


「敢えてバックをとらせたように思わせといて、そこから投げか――いい技だったぜ」

「ありがとう! やっとガドから一本取れたよ!」


 ガドとレスリング練習を始めて、ほぼ一ヶ月。毎日、午前中をトレーニングに費やし、僕は何十回となくガドとスパーリングした。無論、ガドとやって勝てるわけがない。――そう思っていた。


 だけど、少しずつだけど、どういう戦術を使って相手を攻めるか、相手の攻撃をどう躱して守るか――そういう細かいところまでみっちり指導を受けながら、、僕は少しずつ自分が上達していくのを感じていた。


 そして今日、初めてガドを投げることができたのだ。

 ……凄い充実感だった。


「やっぱり、クオンは戦いのセンスがあるぜ。切り替えが早くて、機転がきく。自分の戦い方みたいのにこだわってないから、変化が早いんだ」

「いや…、できることのない能なしだから、そうなっただけだよ。けど、ガドのおかげで、ディギアを使った時にも応用できそうな戦い方が増えたと思う。本当にありがとう」


 僕は本当に、ガドに感謝した。

 ガドはすると、にやりとした笑みを浮かべた。


「そいつを試してみるか?」

「え? それって、実戦的なやつってこと?」

「ああ。まあ、打撃はなしにして、気力、異能を使った勝負。どうだ?」


 ガドが挑戦的な笑みを見せてくる。

 僕はそれを見て、何故か心が躍る感触を覚えた。

 僕はその逸る気持ちを抑えて、口を開いた。


「……いいよ。やろう」

「よし!」


 僕らは深呼吸して立ち上がり、改めて対峙した。

 僕はガドを見つめる。ガドも僕を凝視していた。


「おっと……雰囲気が変わったな、クオン。そうでないとな」


 僕は答えない。もう、眼の前のガドに集中していた。

 ガドが口を開く。


「ようし……じゃあ、行くぞ!」


 ガドがすっと身を落とす。と、凄い速度でタックルにきた。

 気力を使った速さだ。生身の時とは比べ物にならない速度だ。


 が、見えている。僕はしかも、敢えてそれを受けた。

 ガドが僕の足に組み付く。引き込む力――に抗して、僕は重化!


「う――動かねえ……」


 ガドが僕の足元で、驚愕の声を洩らす。

 ガドのタックルでは、僕を返せないことは判っていた。


 僕はがぶって、ガドの背に乗る。――重化のまま。


「ぐぉっ!」


 下でガドが一瞬呻くが、ガドは素早く僕の下から抜け出した。

 さすがガドだ。判断が早い。


 僕から距離をとったガドが、改めて対峙する。

 判る……僕の重さに驚いている。表面上押し殺しているが、ガドの動揺が判る。


 ――落ち着いていた。

 自分でも驚くくらい落ち着いている。ガドと異能なしでスパーリングしていた時とは、まったく違う。


 僕は身を沈める気配をみせた。

 と、すぐにガドがそれに反応して身を沈める動きをする。


 が、僕はバネ脚ダッシュで横に飛んでいた。


「むっ!」


 ガドが驚きの眼で、僕を追う。

 僕はそこから身を沈めてガドの足を取りにいった。


 足を捉える。――そして重化!


「ぐっ、うおおぉぉ――」


 ガドが声を上げながら、気力を発して僕のタックルに耐えようとする。

 が、僕はガドの足を捉えたまま、下に沈むようにガドの足に重さを乗せる。

 一点に向けて、最重化!


「うあぁぁっ!」


 僕は肩の当たってる場所から、ガドを押し込むように倒す。

 そして――ガドの身体が横倒しに倒れた。

 

「……マジか――」


 倒れたガドが呆然とした顔で、声を洩らした。

 僕は身体を起こして笑った。


「マジです」


 僕は唖然としているガドに向かって、もう少し言った。


「ここから膝を胸に乗せて重化する――のが、僕の大体の戦略」

「マジか……」


 ガドが呆然としたまま身体を起こす。


「クオンの敵になった奴は……大変だったな」

「なにそれ?」


 僕は思わず苦笑した。


「クオンが重量を操れるのは、頭では判ってたけど――これほどのものとはな……。正直、想像をはるかに上回る衝撃だぜ」

「そう? ちょっと嬉しい」


 僕がそう言うと、ちょっと考えてたガドが言った。


「そうだ! これからは異能・気力なしスパーの後に、アリアリのスパーをやろう! オレもディギアを使ったクオンから一本取ることを試みることで、自分の技の底上げをしたい。どうだ?」

「いいよ! 僕も、実際の場での戦い方の訓練になる」

「ようし! これから頼むぜ!」


 ガドが手を差し出してくる。握手の形じゃなく、これは――


「こちらこそ!」


 バン! と僕は、親指を上にしてガドの手に手を合わせた。

 ぐっとガドが手を握ってくる。僕もその手を握り返した。


*  *   *


 二階は既に完成して、僕とキャルは二階の部屋に移っていた。

 僕は窓を開けて、バルコニーに出てみる。夜風が気持ちよかった。


 ふと気づくと、隣の部屋からキャルが出てくる。


「キャル……」


 パジャマ姿だ。……なんて可愛いんだろう。可愛いすぎる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ