4 レスリングの成果
僕は腰を落として低く構え、ガドと対峙している。
ガドが手を伸ばしてくる。その手を前手で振り払う――と同時に、僕はさらに低く踏み込んでタックルに行く。
が、ガドがそれをさせまいと、こっちの脇を上げてくる。と同時に、ガドにがっちりとロックアップされた。ずん、とガドの重みが加わる。
「くっ」
僕は低く呻いた。ガドはここから、どう攻めてくるか?
ガドがロックアップした状態で、前腕を押し込んでくる。こっちが後ろに反らされ、身体が浮く。――と、その瞬間、ガドがタックルに来る!
僕は慌てて足を引き、上からガドを潰す体勢にがぶる(・・・)。ガドが伸ばした手が、僕の足をとろうとしてるのを、懸命に避けた。僕はガドの背中に乗った状態で、思い切り両腕でガドの身体を締め上げ、体重を乗せた。
少しガドが沈む。ここ!
僕はホールドを解いてガドのバックに廻り込む。が、ガドがその気配を察して、さらに僕と正対するように同方向に廻り込む。いや、逆に僕がバックをとられそうになってる!
後ろをとられた! ……が、実はそれは囮だ。
ガドが僕の腰に伸ばした手首を、僕は左手で掴んでいる。
左手を上に掲げ、右手をガドの腕の下に差し込む。
「――りゃあっ!」
そのまま身体を斜めに倒すようにしながら、身体を回転させて巻き込む!
僕の体重をそのまま地面に預けるように落とし、ガドと一緒に沈み込んだ。
「うおっ!?」
ガドが声をあげた。と同時に、僕の背中側へガドが前回りに落ちた。
――投げた。僕が、ガドを投げた。
僕は天を仰ぎながら、叫んだ。
「やったーっ!! 遂に、ガドを投げたぞ!!!」
「ハハハ! 遂に投げられたな。よくやったな、クオン」
僕は上半身を起こしてガドを見ると、ガドも身体を起こしてこっちを見ていた。
その口に、満足げな笑みが浮かんでいる。
「敢えてバックをとらせたように思わせといて、そこから投げか――いい技だったぜ」
「ありがとう! やっとガドから一本取れたよ!」
ガドとレスリング練習を始めて、ほぼ一ヶ月。毎日、午前中をトレーニングに費やし、僕は何十回となくガドとスパーリングした。無論、ガドとやって勝てるわけがない。――そう思っていた。
だけど、少しずつだけど、どういう戦術を使って相手を攻めるか、相手の攻撃をどう躱して守るか――そういう細かいところまでみっちり指導を受けながら、、僕は少しずつ自分が上達していくのを感じていた。
そして今日、初めてガドを投げることができたのだ。
……凄い充実感だった。
「やっぱり、クオンは戦いのセンスがあるぜ。切り替えが早くて、機転がきく。自分の戦い方みたいのにこだわってないから、変化が早いんだ」
「いや…、できることのない能なしだから、そうなっただけだよ。けど、ガドのおかげで、ディギアを使った時にも応用できそうな戦い方が増えたと思う。本当にありがとう」
僕は本当に、ガドに感謝した。
ガドはすると、にやりとした笑みを浮かべた。
「そいつを試してみるか?」
「え? それって、実戦的なやつってこと?」
「ああ。まあ、打撃はなしにして、気力、異能を使った勝負。どうだ?」
ガドが挑戦的な笑みを見せてくる。
僕はそれを見て、何故か心が躍る感触を覚えた。
僕はその逸る気持ちを抑えて、口を開いた。
「……いいよ。やろう」
「よし!」
僕らは深呼吸して立ち上がり、改めて対峙した。
僕はガドを見つめる。ガドも僕を凝視していた。
「おっと……雰囲気が変わったな、クオン。そうでないとな」
僕は答えない。もう、眼の前のガドに集中していた。
ガドが口を開く。
「ようし……じゃあ、行くぞ!」
ガドがすっと身を落とす。と、凄い速度でタックルにきた。
気力を使った速さだ。生身の時とは比べ物にならない速度だ。
が、見えている。僕はしかも、敢えてそれを受けた。
ガドが僕の足に組み付く。引き込む力――に抗して、僕は重化!
「う――動かねえ……」
ガドが僕の足元で、驚愕の声を洩らす。
ガドのタックルでは、僕を返せないことは判っていた。
僕はがぶって、ガドの背に乗る。――重化のまま。
「ぐぉっ!」
下でガドが一瞬呻くが、ガドは素早く僕の下から抜け出した。
さすがガドだ。判断が早い。
僕から距離をとったガドが、改めて対峙する。
判る……僕の重さに驚いている。表面上押し殺しているが、ガドの動揺が判る。
――落ち着いていた。
自分でも驚くくらい落ち着いている。ガドと異能なしでスパーリングしていた時とは、まったく違う。
僕は身を沈める気配をみせた。
と、すぐにガドがそれに反応して身を沈める動きをする。
が、僕はバネ脚ダッシュで横に飛んでいた。
「むっ!」
ガドが驚きの眼で、僕を追う。
僕はそこから身を沈めてガドの足を取りにいった。
足を捉える。――そして重化!
「ぐっ、うおおぉぉ――」
ガドが声を上げながら、気力を発して僕のタックルに耐えようとする。
が、僕はガドの足を捉えたまま、下に沈むようにガドの足に重さを乗せる。
一点に向けて、最重化!
「うあぁぁっ!」
僕は肩の当たってる場所から、ガドを押し込むように倒す。
そして――ガドの身体が横倒しに倒れた。
「……マジか――」
倒れたガドが呆然とした顔で、声を洩らした。
僕は身体を起こして笑った。
「マジです」
僕は唖然としているガドに向かって、もう少し言った。
「ここから膝を胸に乗せて重化する――のが、僕の大体の戦略」
「マジか……」
ガドが呆然としたまま身体を起こす。
「クオンの敵になった奴は……大変だったな」
「なにそれ?」
僕は思わず苦笑した。
「クオンが重量を操れるのは、頭では判ってたけど――これほどのものとはな……。正直、想像をはるかに上回る衝撃だぜ」
「そう? ちょっと嬉しい」
僕がそう言うと、ちょっと考えてたガドが言った。
「そうだ! これからは異能・気力なしスパーの後に、アリアリのスパーをやろう! オレもディギアを使ったクオンから一本取ることを試みることで、自分の技の底上げをしたい。どうだ?」
「いいよ! 僕も、実際の場での戦い方の訓練になる」
「ようし! これから頼むぜ!」
ガドが手を差し出してくる。握手の形じゃなく、これは――
「こちらこそ!」
バン! と僕は、親指を上にしてガドの手に手を合わせた。
ぐっとガドが手を握ってくる。僕もその手を握り返した。
* * *
二階は既に完成して、僕とキャルは二階の部屋に移っていた。
僕は窓を開けて、バルコニーに出てみる。夜風が気持ちよかった。
ふと気づくと、隣の部屋からキャルが出てくる。
「キャル……」
パジャマ姿だ。……なんて可愛いんだろう。可愛いすぎる。




