4 サンダージェット
「オレに頼みたいトレーニング?」
首を傾げるガドに、僕は言った。
「この前、激流に流されて思ったんだ。重化して水底を歩いたから進むことはできたけど……重くて流されないにしても、先へ進むのは僕の力だ。そういう時、結局、僕の基本的な身体能力がキーになる。もっと生身の自分を鍛えなきゃダメだって思ったんだ」
「いい心がけだ!」
ガドは突然、胸を張った。
「やはり、男は! 冒険者は! 肉体を鍛えなきゃあいかん! いざという時に頼れるのは、己の肉体だ! それを鍛えておくに越したことはない!」
あまりの熱量にちょっと苦笑が出るけど、ガドが真剣なのはよく判った。
「それで、いいトレーング方法とかあるかな、と思って」
「あるぞ! とっておきのがな!」
ガドが確信めいた笑みを浮かべる。
と、その時、スーがやってきた。
「二人とも、お昼ごはんにしませんか?」
「あ、はい。――じゃあ、家の続きは明日。ご飯にしようか」
「おう!」
家に入ると、スーが作ってくれたらしいサンドイッチが並んでいた。
僕らはあまり作らないメニューなので、新鮮な気分だ。
木材を乾燥させ終わったキャルもやってきて、声をあげた。
「凄く美味しそう!」
「キャルもありがとう、ご苦労様」
僕がお礼を言うと、キャルは微笑んだ。
「ゲストハウスの方も、凄く順調そう」
「うん、ガドがやっぱり仕事量が凄いから。助かるよ。これならゲストハウスの方は、建物だけなら一週間でできちゃうかも」
僕がそう言うと、ガドが驚きの声をあげた。
「なに、そんなに早くできるもんなのか?」
「まあ、異能を使うから普通のペースじゃないし、ガドもいるからなおさらだね」
僕がそう答えると、スーがお茶を持って現れる。
「それじゃあ、皆さん、ご飯にしましょうか」
「うん、それじゃあ――」
「「いただきます」」
僕とキャルが声を合わせたのに対し、ガドとスーがポカンとしている。
僕ら笑いながら、また、いただきますの由来を話してランチにした。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦
ジェットは眼を開けた。ひどい激痛に苦しんだ後に、死ぬかと思うような吐き気、頭痛――それがひどくて意識を失っていたが、ジェットは眼を覚ました。
「ジェット!」
女の声がする。ザビーの声だ。
が、眼の前に現れた女は、ザビーではなかった。
「ジェット、よかった! 起きたんだね!」
「お前は……ザビー…?」
ジェットは身体を起こしながら、その女をよく見た。
よく見るとザビーだった。ただし、髪の色や雰囲気が変わっていて、最初は判らなかったのだ。
ザビーは抜けるような金髪になり、眼の中央部から黒い線が走っている。
それはチーターの顔の模様そっくりだった。
「ザビー…顔が変わってるぞ」
「あんたもだよ、ジェット」
ザビーは手鏡を持ってくると、ジェットの前に差し出した。
ジェットは鏡の中の自分を見つめる。
ジェット自身も金髪になっており、眼の中心部から黒い線が頬に向かって流れていた。肌の色が以前より白くなっており、気付くと肩周りなどにはうっすらと毛が生え、しかも黒の紋様がついていた。
シーツをめくって、脚をみてみる。
サンダーチーターの脚が、自分の膝から下についていた。
「オレは……手術に成功したのか。そうだ! ザビー――お前も、動けるよになったんだな!」
ジェットが訊くと、ザビーはジェットに抱きついてきた。
「ジェット、よかった! アタシ……心配したんだよ。アタシだけ助かって、ジェットが死んだらどうしようって」
「バカ、オレが死ぬわけないだろ」
ジェットは抱きついてきたザビーの頭を撫でてやった。
ザビーが胸の中で、ジェットを見上げる。
「ジェット…凄くカッコよくなったよ……」
「お前も綺麗だぜ、ザビー」
二人は互いに見つめ合うと、くちづけた。
ザビーがうっとりとした表情で、ジェットの胸に頬をあてた。
「ねえ……アタシたち同じ獣になったんだよ。もう、一心同体だよね」
「そうだ、ザビー。オレたちは一心同体だ」
ジェットは笑ってみせた。ザビーは幸せそうな顔でジェットを見上げると、二人はもう一度キスをした。
「――気が付いたようだな」
「ボス!」
抱き合ってる二人のところに、カリヤが現れる。
ザビーが慌てて身を離した。
「早速だが、お前の力を見せてみろ。ザビーの方は、さっき確認した。ザビーは――相当の速さで走れるぞ」
「そうなのか?」
ジェットは驚いて、ザビーを見た。
「うん。尋常じゃないくらい速いよ。パワー自体も上がってる。もうその辺の奴なんかメじゃないくらい。きっと――ジェットはもっと凄くなってるよ!」
ジェットは頷くと、ベッドを降りた。
カリヤに連れられ、三人は庭へ出る。カリヤが言った。
「走ってみろ」
カリヤに言われて、ジェットは走った。
瞬時にジェットの姿がいなくなる。その後には、電撃の残留が走っていた。
瞬時に一回りして、ジェットは戻ってきた。
「ボス、信じられない速さです。もう、オレに追いつける奴なんかいない!」
「確かに、悪くないな。――おい! ヒモグラーを10人ほど呼んでこい!」
集められた男たちが、庭に散らばるとヒモグラーに変異する。
「お前たち、ジェットを倒してみろ。倒せた奴は、昇格させてやる」
「「「おお!」」」
ヒモグラーたちは威勢のいい声をあげた。
「ジェット、お前の力をみせてみろ。まあ、殺さねえ程度にな」
「判りましたよ、ボス」
ジェットは微笑すると、その場から消えた。
光の線が走る。居並ぶヒモグラーたちの間をすり抜け、電撃は走っていく。
「ギィッ」「グアッ!」「ゲヶッ!」
ヒモグラーたちは奇声をあげて、電撃の衝撃に倒れていく。
その電撃に対応できて反撃しようとした者も、ジェットの横蹴りに吹っ飛ばされた。
3分もかからずに、ヒモグラーたちは全員、地面に倒れ込んだ。
カリヤが笑いながら言う。
「いいぞ、ジェット。お前は今日から幹部だ」
「ありがとうございます、ボス。オレは今日から『サンダー』ジェットと名乗ります」
ジェットが不敵に笑った。それを見たザビーが声をあげる。
「ジェット、カッコいいよ! 最高だよ!」
「バカだな。お前は『サンダー』ザビーだぞ」
そう言われたザビーの顔が、喜色に赤らんだ。
カリヤが薄笑いを浮かべる。
「フン、いいペアだな。お前らに……さっそく頼みたい仕事がある」
「なんでも言ってください、ボス」
ジェットはザビーの肩を抱きながら、不敵に笑ってみせた。
○ 〇 ○ 〇 ○ 〇 ○ 〇
昼休憩が終ると、僕とガドは庭に出た。
「それで、とっておきのトレーニング法って?」
「それはなあ……レスリングだ!」




