3 石切場にて
驚いている二人に、僕は言った。
「一ヶ月は二人を有給で雇います。その後の事は、後で考えましょう。50万ワルドくらいでどうですか?」
「なに、二人で50万もか!? いいのか、クオン!?」
「いや、一人50万ですよ」
僕がそう言うと、ガドが慌てて声をあげた。
「バ、バカ! 相場ってものがあるだろ! 大した事しないのに、そんな稼ぎに慣れたらこっちが堕落する! 二人で50万でも十分すぎるほどだ!」
「そうですよ、クオンさん。いくらレース・クエストの賞金があるとはいえ、大判振る舞いすぎます。……クオンさんのお心遣いは、とっても判りましたから」
スーが微笑しながら言う。キャルがこそっと呟いた。
「クオンは、お金のこと気にしないタイプ……」
「い、いや、あの――き、気にする時は、気にするからね!」
僕の狼狽ぶりを見て、何故か三人が大笑いしていた。
* * *
僕は増築計画を見直すことにした。
ガドを相手に、設計図を描き直しながら案を練る。
「この際だから、ゲストハウスを作ろうと思うんだ」
「おぉ、それって別宅みたいなものか」
「いや、離れという感じで」
外に出す階段のさらに先に、ゲストハウスを描く。ついでに、広いバルコニーはゲストハウスの天井を使うことにした。それを大きめにとって、下にブランケッツ号を置くスペースをとる。
「おぉ、クオンって絵上手いんだな!」
「というわけで、ガド、手伝ってよ」
「おう!」
――というわけで、パーティーハウスの増築計画が始まった。
材木造りから始めて、ガドに伐採を手伝ってもらう。
「おぉ、木の伐採はファイアージャッカル事件以来だな。あの時はランスロットが切る役だったけど、今度はオレが切る役だな」
「木を倒すのは、僕が軽化してから倒すんで、思い切りやっちゃってね」
ガドは文字通り、伐採用具である斧を振る。正直、軟化してなくても切れるんじゃないかと思うような迫力だが、やはり連携でやっていく。必要な木材があっという間に揃ったので、枝落しをしてキャルを呼んだ。
「じゃあ、キャルお願い」
「じゃあ、木材と葉っぱ、一緒に乾燥させちゃおうか」
「え? できるの?」
「うん、できると思う」
そう言うとキャルは、大きな力場空間で木材と枝葉を包みこみ、その中で熱風を回転させた。
「おぉ! すげぇなあ、キャル!」
「うふふ」
笑ってるけど、確かに凄い。明らかに前と比べて、キャルの魔力は上がってるし、操作力も上がってる。それにしても、やっぱりキャルは可愛い。
「じゃあ、キャルに乾燥を頼んでる間に――僕らは基礎になる素材を取りに行こうか」
「基礎? あ、ゲストハウスのか。どうするんだ?」
「うん、ちょっと考えがあって――スーにも頼もう。ブランケッツ号で行かないと」
そしてブランケッツ号にガドとスーを乗せて、僕はブランケッツ号を引いた。
「は! はえぇっ!」
ガドが驚きの声をあげる。
スーにブランケッツ号を浮かせてもらっているけど、風よけを作る人がいないから、風圧をモロに受けてる。その分、実は速度は落ちてるはずなんだけど…
「風が当たるから速く感じるだけだよ」
「いいえ、やっぱり以前より速いですわ」
スーがそう言う。そう言えば、前はゴム脚ダッシュの時だったか?
今はバネ脚ダッシュだから、確かに速いかもしれない。
と、僕らはマルヴラシアン迷宮にやってきた。
「なに!? ダンジョン? こんな処に何の用だよ?」
「うん、ちょっとある人を探すんだけど――」
そう言って歩いてると、僕は目指す人を見つけた。もちろん、マリーだ。
「あ、マリー、久しぶり」
「あら、まあ、クオンちゃん! それに、ガドとスーじゃない!」
「二人とも、知り合いなの?」
僕はガドとスーに訊いた。ガドが笑いながら答える。
「まだ新人冒険者の頃に世話になってな。それに、マリーは有名人だから、知らない奴はいないよ」
「そうですわね。お久しぶりです」
スーも微笑む。と、マリーの方が驚きの声をあげた。
「なに、変わったメンバー構成ね? これでダンジョン攻略するつもり?」
「ううん。そうじゃなくて、岩石が欲しいんだ」
「岩石?」
マリーはマッチョな身体をくねらせて、首を傾けた。
「このダンジョンが岩石だらけだったのを想い出してさ、どっか石切していい場所ないかな?」
「あるわよ! 今、ちょうどバーナードが保管庫を作ってるところなの。これは喜ぶわ」
マリーが一階層の奥へと僕らを案内する。と、バーナードが奥の方で、岩場を削って形を整えようとしていた。
「お、クオンにガド、それにスーか。どうした?」
相変わらず渋いバーナードに、事情を説明すると、バーナードが喜んだ。
「ありがたい! 此処ら近辺は涼風が吹いてくる場所なんで、保管庫を作ろうと思ってたんだ。ただ、岩石が硬くて難儀しててな、手伝ってくれるんなら大助かりだ」
「えと、どのくらいの広さが必要なんです?」
僕がそう問うと、バーナードが苦笑しながら言った。
「そりゃあ、広ければ広い程いいが。しかし時間も労力もかかるしな。ある程度の広さでいいよ」
「じゃあ、このくらいで切り出しますね」
僕はそう言うと、鉄鞭スコップを取り出した。軟化させた鉄鞭を1mくらい伸ばすと、それを解く。そうすると、鉄の棒が出来上がった。
それを軟化させた岩壁に差し込む。
「え?」
バーナードが驚いてるのよそに、僕はブロックくらいの大きさの格子状に、石壁を切っていく。ある程度切れたら横を手で削り出して、今度は横から鉄鞭を差し込む。それを一気に下まで下げる。
「ガド、石のブロックができてると思うから、取り出していって」
「お、おう」
驚きながらも、ガドはブロックを取り出していった。
石ブロックが山のように積み上がり、逆に取り出した空間が部屋状になる。
「このくらいの広さでどうです?」
僕が訊くと、バーナードは驚きを隠しきれずに声をあげた。
「どうもこうも……充分すぎるよ。ありがとう――いや、クオンは凄いな」
「役にたててよかった。じゃあ、これを運ぶか」
僕はブランケッツ号を収納珠から出して、石を荷台に乗せた。
「こんな重量じゃ……運べないだろう」
「あ、大丈夫です。バーナードさん、ありがとう。また、ダンジョン攻略の時は、お願いします」
僕はそう言うと、ブランケッツ号を軽化して担いだ。
「じゃあ、二人も乗って。帰ろうか」
「お、おぅ……」
ちょっと唖然としながらも、ガドがブランケッツ号に乗る。と、重量がぐん、と増える。
「ちょっと、ガド! ちゃんと同調して!」
「あ、そうか。軽くなる~、軽くなる」
すると重量がなくなって、僕はブランケッツ号を引けるようになった。
苦笑しても渋いバーナードと、マリーに別れを告げて、僕らは帰路についた。
家に帰ってくると、ガドが感心したように言う。
「いやあ……判ってるつもりだったが、クオンの異能は凄いな」
「便利だよね。これでこの石を基礎にするから、寸法とって積んでいこう」
そう言って、僕とガドは二人で石積みを始めた。と、ガドが不思議そうな顔をして言う。
「なんだ、クオン? 重たそうに運んでるじゃないか」
「重たいよ。だって、軽化の能力使ってないもん」
「なんで使わないんだ?」
僕はガドに答えた。
「鍛えるため。それが、午後からガドに頼みたいトレーニングとも関係するんだよね」




