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2 ボルト・スパイクの解散


 玄関からガドの声がして、僕らは出迎えた。


「朝早くに、ごめんなさいね」


 後ろのスーが細い眼をさらに細くして謝る。笑ってるようにしか見えない。

 ……は、いいんだけど、どうしたんだ?


「どうしたの、ガド? こんな朝早くに」

「朝飯食ったか? 美味いパン持ってきたんだけどよ!」


 見ると、手にパンが入った紙袋を下げている。


「ちょうど今から朝食にしようと思ってたんだ、まあ入って」

「一緒にご飯にしよ。多めに作ったから大丈夫」


 そう言うとキャルは、スープと野菜炒めをガドとスーの分まで用意した。


「「それじゃあ、いただきます」」

「なんだそりゃ?」


 ガドの不思議そうな顔に笑うと、僕らは朝食にした。

 ガドが持ってきてくれたパンも美味しい。


「このパン美味しいね。…で、どうしたの? これ食べさせるために来たんじゃないでしょ」 

「いやあ……あ、レース・クエストおめでとう! さすがブランケッツだな!」


 ガドがそう言うので、僕は礼を言った。


「ありがとう。そういえばボルト・スパイクはレース・クエストに参加してたの? 途中で会わなかったけど」


 僕がそう言うと、ガドが急に深刻な顔で野菜炒めを食べる手を止めた。

 そして、ガドは言った。


「実はな……ボルト・スパイクは――解散したんだ」

「えぇっっ!?」


 僕は思わず、パンを落としそうになった。

 キャルも驚いた顔をしている。


「う…そ、でしょう?」

「いや……本当だ。それで、オレたち二人、どうしようかと相談して、ブランケッツと合同クエストでもこなして、少し落ち着くまで頑張ろうという話になったんだ」


 ガドはごく真面目な顔でそう言った。スーを見ると、スーも深刻な表情で視線を落としている。


「けど……どうして解散なんて。だって、レース・クエスト受けるって言ってたじゃないか」

「最初はオレたちもそのつもりだったんだ。けど――あのディアッドって奴がもってきた情報が、事の発端だった」


 ディアッドって、あの原民主義者のディアッド? なんで、そんな処に出てくる?


「バルギラ公爵が、開都護衛隊というものを作るために、人員を募集してる――って、話は知ってるか?」


 ガドに言われて、僕は首を振った。


「バルギラ公爵は、帝国軍とは別に開都護衛隊という軍を作ろうとしてる。ちょっと見は私兵みたいだが、バルギラ公爵は太守だ。太守が組織する以上、これは正式の軍隊――しかも、特別部隊だ」

「……それが、ボルト・スパイクとどういう関係が?」


 僕の問いに、ガドは答えた。


「ランスロットとミレニアが――この開都護衛隊に入隊した。だから…ボルト・スパイクは解散になっちまったのさ」

「そんな!」


 ガドは僕の声に苦笑してみせた。……本当に苦い想い――というのは、こういうものか、と思うような苦笑だった。


「ランスロットとミレニアはな、元貴族の家柄の出身なんだ。ランスロット・ブロックナー。ブロックナー家は旧皇国での名門貴族だった。皇帝軍と最後まで戦い、そして敗れた――僅かに生き延びた一族は辺境まで落ち延び、そこで暮らしているが、家系に誇りを持つブロックナー家はランスロットに最高の教育環境を与えた。魔法、剣術――ランスロットもそれによく応えた。が、学校では『皇帝の反逆者の末裔』ということで教師からも差別され、友人もできなかった。ランスロットはそれでオーレムに来て冒険者になった――と、いうわけだ」


「それで、ガドやスーと会って、パーティーを組んだ、と。ミレニアは?」

「ミレニアも近い境遇ね。ミレニア・スピアーズ。スピアーズ家は魔法の名家だけど、やっぱり皇帝軍と戦った側。ランスロットとミレニアがコンビを組んでいて、そこにわたくし、そしてガドが加わったの」


 僕はちょっと疑問に思った事を訊いてみた。


「ガドとスーは、貴族の家柄じゃないの?」

「オレたちはそんなんじゃねえよ! オレはガド・ヤーゴ。バリバリの鍛冶屋の倅だ」

「わたくしはスー・ラ・スーラ。実家は仕立て屋でしたわ」


 スーがにっこりと笑う。僕は疑問が出た。


「なるほど。けど、二人が貴族の家柄である事と、その開都護衛隊とかいうのに、何の関係があるの?」

「バルギラ公爵は元々が皇国の貴族だったんだが、その開都護衛隊では原民重視――特に、元貴族の家に関わる者を重用する……という情報が出たんだ。ちなみに、その話をランスロットにもってきたのが、ディアッド・ローダンだ。ローダン家も旧皇国貴族の家柄で、ランスロットとは似た境遇ということもあり面識もあった。ディアッドは自分が開都護衛隊に入隊希望するが、お前はどうかと誘いに来たんだ」


 あの原民主義者のディアッドの誘いを――ランスロットが受けた?

 あんな差別主義者の誘いに、どうしてランスロットが?


「口にしなくても判るぜ、ランスロットらしくない――ってんだろ? オレもそう思うよ。だがな……ランスロットは冒険者をやりながら、内心、忸怩たるものがあったと思うぜ。あれだけ高い能力があるのに、帝国の軍隊試験でランスロットははねられた。旧抵抗勢力だ――という理由でだ。そんな口惜しい想いを抱えながら、ランスロットは冒険者をやっていたんだ」


 そうだったのか……ランスロット。

 だけど、ランスロットに何か誇りとか善意、志というものを感じる理由が判った気がした。ランスロットには、元貴族の誇りと教養があったんだ。


「……本人も相当に迷ったみたいだった。そりゃそうだよな。オレたちから離れて、軍へ入るというんだから。『すまない』って謝られたよ。けど、『俺は、自分の代で家を再興したい』……そんな事を言っていた」

「ミレニアはね、ランスロットを支えたいって」


 スーがそこに付け加える。そしてちょっと息を吐いた。


「そう言われては、止められないでしょ?」


 スーも苦さを含んだ笑みを洩らす。


「なんだか……悲しいね。そんなに家って大事かな? わたしは、家とか一族より、自分の幸せが大事だと思う」


 キャルが不意に、そう口にした。スーがそれを聴いて微笑む。


「そうですねえ、そういう考え方――というか、感じ方もありますね。大事なものは人それぞれで、自分の生き方は自分で選ばなきゃいけない。二人がそう決断した事――わたくしたちは尊重したいと思ってるのです」


 スーの言葉に、僕らは全員、深い息を吐いた。

 確かにそうなのだろう。……だけど、切ない話だ。


「と、言ってもだな。あいつらだって、入ってみたはいいが、ちょっと合わない処だって判って、戻ってくるかもしれねえ。そんな時のために、ちょっと様子見をしようと思ってるのさ。けど、それまで稼ぎなしってわけにもいかないから、ブランケッツと合同クエスト――を頼むか、と思って来たわけだ」


 ガドはそう言うと、僕の顔を見た。

 やっぱり、そうは言っても、ランスロットたちが戻ってくると願ってるんだな。

 だって、新しいメンバーも探さないで、待ってるんだよ。


「なんか……ガドがいじらしい…」

「うん。身体はおっきいけど、可愛いんだね…」


 僕とキャルが思わず涙ぐみそうになると、ガドが顔を真っ赤にして怒鳴った。


「とにかく! そんな訳でブランケッツを頼ってきたわけだ。ぶっちゃけ、パーティールームも解約しちまったから、軒先でいいから貸してもらえないかと思ってる!」

「……軒先借りてどうするの?」

「テント張るに決まってるだろ!」


 ガドは胸を張って答えた。僕はため息をつくと、ガドに言った。


「そんな事させられるわけないでしょ、自由に家は使って。ただ、寝る時はスーはカサンドラの部屋で。ガドは僕とリビングでね」

「おお、いいのか! ありがたいぜ」


 ガドは嬉しさ丸出しで、にっかり笑った。うん、やっぱりガドはこういう天真な表情の方が似合うよ。


「ただしね、ブランケッツは今、休止中なんだ。合同クエストはできないかも」

「なにぃ!? ――はっ! そういえば、エリナとカサンドラの姿がない! ま……まさか…ブランケッツも――」

「「解散してません!」」


 僕とキャルが声を合わせて言った。


「二人は帝都に修行に行ってるんだ。一ヶ月後にはパワーアップして帰ってきます」

「そ、そうなのか。いいなあ」

「……というわけで、合同クエストはできないけど――二人を雇います!」

「「えぇ!?」」


 ガドとスーが、今度は驚きの声をあげる。


「実は、この家を増築しようと思ってました。ガドはその手伝いと――僕の練習相手になってください。スーは……家事を手伝ってもらえます?」


 僕の提案に、二人は目を丸くした。



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