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第二十二話 分断の予兆  1 密談


 カリヤが薄く笑ったのに対し、バルギラも笑みを返した。


「じゃあ、その件はお任せするが、もう一つ継続で頼みがあるんだ」

「なんだ?」

「レース・クエストで結局、サンダーチーターを捕獲してきたのは、ブランケッツだった。君の言うように、確かに彼らは優秀なパーティーのようだね」


 カリヤは面白くなさそうに、ワインを傾ける。

 バルギラはその様子を見て、言葉を続けた。


「ブランケッツはギルドマスターから有力情報を得ていた――そういう噂を流してほしいんだ」

「まあ、簡単な話だ。しかし、そんな話を信じるのか?」


 バルギラは薄笑いを浮かべたまま説明する。


「カリヤくん、この帝国に有徴族はどのくらいの割合でいると思う?」

「有徴族ってのは、あの猫耳とかの連中だろう。3、4割いるんじゃねえのか?」

「2割だ」


 バルギラは素の表情に戻って言った。


「そして国外からの移住者が1割。つまり足しても3割程度だ。残りの7割が原民。その半分は、その昔――レオンハルトが帝国を造る以前の貴族制の時代に、貴族家となんらかの関わりで仕事を持っていた人々だ。判るかね? レオンハルトは皇国の圧政から民衆を救うとうたって独立戦争を勝利したが、それに参加した人々はその後の貴族廃絶の動きで仕事も社会的地位も失ったのだ」


 カリヤは、そのバルギラの言葉の中に、本物の苛立ちを見た。


「冒険者の中にも、元貴族の家柄だが貴族家を廃絶されて下野した一族も多い。そういう原民の冒険者に私の存在感を浸透させるために、今度のレース・クエストを開催したのだ。……わざわざ、希少種のサンダーチーターを入手するのは困難だったよ」


「自分で放っておきながら、それを捕まえた奴に賞金を出す――か。政治ってやつは面倒だな」

「こういう印象が大事なのさ」


 バルギラの笑いに、カリヤはふと訊ねた。


「それで、そのサンダーチーターはどうするつもりなんだ?」

「どうしたっていい。もう用済みだからね」

「じゃあ、そいつは俺に貰えないか」


 カリヤは笑みを浮かべながら、バルギラに言った。


*   *   *


「ボス、ジェットが戻りましたぜ。重症です」


 手下の言葉に、カリヤは階下に降りて様子を見に行った。

 タンカに乗せられたジェットが横たわっている。その右脚が、膝から下がない。


「ボス……すいません。猫耳を捕らえきれませんでした」


 ジェットが口惜しそうに言った。

 カリヤは表情を変えることなく、それに答えた。


「ああ。捕まえるところまではよかったと、他の連中の報告も聞いている。ビヤルが暴走したのがまずかったろうが、原因は手裏剣女の透明化だ。あれに対応するのは難しい。お前を責めたりはしない」

「ボス……」


 カリヤの思わぬ言葉に、ジェットは涙ぐみながらカリヤを見つめた。


「しかし、お前に二つ――悪い話をしなきゃならねえ」

「…なんですか?」

「一つはお前の事だ。お前は頭も廻るし使えると思ったが、その足じゃあもう満足に働くことはできないだろう。残念だが、お前とはおさらばだ。多少、金はやるからどっかで暮らせ」

「ボス!」


 ジェットは悲痛な声をあげた。そのジェットに、カリヤはさらに言葉を続ける。


「もう一つは、お前が連れていた女だ。ザビーとかいったか?」

「ザ、ザビーがどうしたんです?」


 ジェットが不安の表情で訊ねる。カリヤは深刻そうな顔で答えた。


「身体が左半分が動かねえ。半身不随ってやつだな」

「そんな! 治癒士だったら治せるんじゃ……」

「ダンジョンから連れ出すのに時間がかかっちまって、部分的に神経が壊死しちまったらしい。俺の歯もそうだが、治癒術は回復できるものは回復させられるが、失ったものは戻せない。女の神経は、それにあたるそうだ」


 カリヤの言葉に、ジェットは呆然とした。


「そんな……」

「あの、クオンの仕業ときいたがな。あいつのタックルをくらって、岸壁に激突した。その時に背骨が折れて、神経も駄目になったんだろう」

「そんな! そんな…そんな――」


 ジェットは涙を流して、歯を食いしばった。喰いしばりすぎて口から血が溢れ、眼が真っ赤に充血した。


「畜生! 畜生、あの野郎! 絶対にぶっ殺してやる! オレが、オレが絶対に殺してやる!」

「ジェット、お前の身体じゃ無理だ。やめておけ。あいつの事は、俺たちに任せろ」

「嫌です! オレは――オレは絶対に、ザビーの仇をとる!」


 ジェットは歯ぎしりしながら、カリヤに叫んだ。

 と、カリヤはジェットの顔に自分の顔を近づけた。


「ジェット、そんなに奴を殺したいか?」

「ああ! オレは、クオンを殺すっ!」


 カリヤはジェットの顔からゆっくり離れると、ジェットに言った。


「ジェット、お前が組織に残り、ザビーって女も回復できるかもしれない手段がある。だが……運がなかったら、二人とも死亡だ。どうする?」

「そんな方法があるなら、オレは迷わずそれを選びます! ザビーだって、そうに決まっている!」


 カリヤは振り返ると、カザンに眼で合図した。

 カザンが奥から、台車に乗った鉄檻を持ってくる。

 その中には――サンダーチーターがいた。


「こいつは!」


 ジェットの驚きの声に、カリヤは応えた。


「こういう事もあるかと手に入れたんだ。安くはない。話は簡単だ。こいつの脚を、お前の脚にする。女には神経細胞を移植する。ドクロ! 成功率はどれくらいだ?」


 カリヤはいつの間にか近くに来たDr.ロウに訊ねた。

 生きてるのに骸骨みたいな外見のDr.ロウは、ヒッヒッヒと薄気味悪い笑い声をあげるとカリヤに答える。


「そうじゃのう、脚の移植は20%、神経の移植は30%くらいかのう。これでも、生きてる素材が手に入ったから、成功率は上がってる方じゃ」


 ヒッヒッヒ、とロウが笑う。

 カリヤはジェットを見る。


「どうするジェット? 失敗すれば多分、死ぬ。お前たちは、多少不自由な体だが、此処を出れば生きていくことはできるんだぜ」


 カリヤの言葉に、ジェットは迷う事なく叫んだ。


「やってください、ボス! オレは、前だってヒモグラの移植に成功してる。必ず生き延びて、クオンの奴を殺してみせます!」


 カリヤは黒マスクの中で、にやりと笑った。


「いいだろう、ジェット。お前の覚悟はよく判ったぜ。もしお前が移植に成功して生き延びたら――幹部入りだ」


 カリヤの言葉に、ジェットは眼を見張る。

 と、カリヤが自分の剣を引き抜いた。


「いいか。堪えろよ」


 そう言うと、カリヤはその剣を、ジェットの残っている左脚に振り下ろす。

 ――ジェットの絶叫が響きわたった。



○  〇   ○   〇   ○   〇   ○   〇



 朝起きると、なんかいい匂いがする。


「あ!」


 と思って、僕は跳び起きた。慌てて、キッチンに行くと、キャルが朝食を作っている。

 キャルが、振り返った。


「おはよう、クオン」

「お……おはよう…ございます」


 エプロン姿のキャルが朝陽に照らされて輝いている。

 なんて素敵なんだろう。なんて可愛いんだろう。


 は! 昨日、僕はキャルにほっぺに――


「クオン、昨日頑張ってたみたいだね。いい案できた?」

「う…うん。あ、ごめん、朝食まかせきりで」

「いいよ」


 そう言って笑うキャルが――可憐すぎる。眩しすぎる。清らかすぎる!

 そしてこんなにキャルのこと見ちゃう僕は…キャルを正視できない!


 ああっ、どうしたらいいんだ、僕は!


 と、その時、玄関から声がしてきた。……ガドの声だ


「お~い、クオンたちぃいるよな~!」


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