5 増築計画と……二人っきりの夜
カサンドラが驚きの顔から、少し赤らめた嬉しそうな顔になった。
「私のために――家を増築する、と?」
「うん。何にしろキャルとエリナは共有部屋だったわけだから、この際だから個室にするのもいいんじゃなかなって。どうだろう?」
僕の提案に、エリナが口を開く。
「ちょっとキャルちゃんと離れるのは寂しいが……私も実は、執筆するのに個室が欲しいな、と思ってたところだ。大賛成だよ」
「うん。わたしも……自分の部屋がもてるなんて、嬉しい!」
キャルも嬉しそうに、そう言った。
よかった。これなら、頑張れる。それで、キャルの印象を挽回するんだ!
カサンドラは――と、見ると、何故かうつむいている。
と思ったら、顔を上げて口を開いた。
「――うん。決心がついた。私は少し、此処を出ようと思う」
「「え?」」
僕とキャルが驚きの声をあげた。エリナは静かにカサンドラを見ている。
「いや、戻ってくるぞ! その……帝都のおじ様の処に行って剣術の特訓、そして魔法の師匠に改めて特訓をしてもらおうと思ってる」
「じゃあ、その間に増築するとして――どうして、そんな事?」
僕の問いに、カサンドラが答えた。
「この前の戦いで――私はあの赤目ゴーグルの魔法になすすべもなく制圧されてしまった。やはり、私は『黒炎のガントレット』の力に頼っていたんだ。その事を痛感した……。このままでは、ブランケッツの中で私は足を引っ張ってしまう。改めて修行して――出直してくる!」
「いや……ちゃんと正規の戦闘訓練受けてるのはカサンドラだけだし、カサンドラ最強でしょ」
僕は思わず本気のツッコミを入れた。
けど、カサンドラはごく真面目な顔で口を開いた。
「いや……クオンとエリナには異能があり、それだけでも戦闘を多角的にする力がある。そしてキャルの魔法力は、潜在力はとんでもない力だ。このままでいれば、私が足を引っ張る存在になるのは間違いない」
カサンドラは微笑して、僕らに言った。
「私もブランケッツの一員になった以上、もっとみんなの力になりたいのだ」
「カサンドラ……」
僕はちょっと驚いた。
いつも強い存在だと思っていたカサンドラが、そんな事を想ってたなんて。
「いいんじゃないか」
エリナが口を開いた。
「カサンドラが思うままに、やってみたらいい。と、私は思う」
「うん、わたしも。けど……わたしも負けないように頑張らなくちゃ」
今度はキャルがそう言って微笑んだ。
カサンドラも笑い返す。
「ありがとう。一ヶ月――一ヶ月、待っててくれないか。きっと、強くなって帰ってくる」
「うん、判ったよカサンドラ。…応援する。増築しながら待ってるよ」
僕がそう言うと、エリナが突然、声をあげた。
「そうだ! 良い事を思いついたぞ! カサンドラ、私もその帝都修行について行く!」
「――は?」
「いや、カサンドラに気力を使った剣技を習おうかと思ってたのだが、カサンドラが行っちゃうのなら、私もその師匠に教わるのがいいだろう」
な、何を言い出してるんだ、この人は?
……けど、エリナは笑ってはいるが、ごく真面目に言ってる風だ。
「判った。おじ様に頼もう」
「うん、助かるよ、カサンドラ。で、カサンドラが魔法修行してる時は、私は執筆に取り組む。うん、これで行こう」
エリナは既に心が決まったようで、一人でうんうん、と頷いている。
いや……もう、本当に突然だなあ。
「――と、いうわけでだ。クオンくんと、キャルちゃん、留守番を頼むよ」
え? えぇ?? ……それって、この家に僕とキャルが二人きりってこと…?
「うん、判った。頑張ってきてね、エリナもカサンドラも」
キャルは微笑んで、了解してる。
え~!? そ、それでいいわけ?
* * *
「じゃあ、行ってらっしゃい!」
と、キャルが手を振る。エリナとカサンドラが、馬車の窓から手を振り返す。
ブランケッツ号で街まで来た僕らは、二人のオーレム行きの旅準備を揃えるのを手伝い、馬車で旅立つ二人を見送った。
「行っちゃったね…」
「うん!」
……あれ? なんか、キャルがちょっとご機嫌?
「あ……増築用の資材とか、食料とか買って帰ろうか」
「うん!」
やっぱりご機嫌? まあ、いいけど……
僕らはそれから買い物をして――
「ね、カフェ寄っていこ!」
「う、うん」
キャルに言われるがままにカフェに入り――
僕はコーヒー、キャルはカフェ・ラテを頼む。それで僕はチョコケーキ、キャルはレアチーズケーキを頼んだ。
「キャルは、前と違うものだね」
「うん。こっちも食べてみたかったの」
そう言ってキャルが嬉しそうに微笑む。
……なんて可愛いんだ。
僕はまた、ぼうっとなってキャルに見惚れていた。
と、キャルが笑いながら言う。
「どうしたの? あ、こっちが一口欲しいの?」
そう言ってレアチーズケーキの皿を差し出す。
僕は我に返ると、慌ててレアチーズケーキを一口つまんだ。
「じゃあ、帰ろうか」
と言って収納珠からブランケッツ号を出そうとすると(大型収納珠なので、ブランケツ号自体が収納できる)、キャルが言った。
「ね、飛んで帰ろうよ。そっちの方が速いし」
「え? ああ、うん。いいけど……」
少し街から離れ人目につかない処で、僕らは空に飛び立った。
「うん。やっぱり風が気持ちいいよ!」
「そうだね!」
終始、ご機嫌なまま僕らは家に帰ってきた。
――やっぱり、二人きりだ。なんか、ちょっとドキドキする。
それで二人で夕食を作る。鳥の香草炒めに野菜スープ。テーブルに香ばしい匂いが並んだ。僕らは料理を自画自賛しながら、夕食を食べた。
片付けも終わると、夜になってくる。
キャルは……部屋に戻らない。
「あ、僕はリビングで寝るつもりだから」
「そうなんだ……」
なんか……言葉数が少なくなって、眼を合わせなくなった。
キャルと二人きりの夜だ。
ど、どうしよう? いや、どうもしませんけど! けど――ドキドキしてきた。
と、ふと気づくと、キャルが傍に来て座っている。
「……二人だね」
キャルが顔を赤らめながら言った。え? え? いや……そうだけど……
「そう…だね」
「一ヶ月――二人きりなんだよ?」
キャルがそう言って、僕をそっと見上げた。
少し瞳が潤んで見える。ピンクの唇がなんだか――艶っぽい。
うわ! うわ、うわわわ――これ…
いや、そもそもだけど――エリナも、僕らを二人きりにして大丈夫? とか思わなかったのか?
いや。キャルもあの時、普通に二人を送り出してたけど……
僕を信用してるって事だよね?
その信用を裏切ったりできないし!
「……あ、あのさあ、実は二階を作ろうかと思ってるんだ」
「え? 」
キャルがちょっと不機嫌な顔で、僕を見た。




