4 魔龍大戦と九大龍王
「仕方なく……だったの?」
「そ、そう! 命がかかってたから、仕方なく!」
僕の動揺判りすぎの返答に、キャルは少しうつむいて横を見た。
「…けど、助けてくれたんだよね? ありがとう」
そうお礼を言ってるけど、なんかどちらかというと…むくれてる感じ?
「あ…うん……」
「仕方なく、だよね?」
キャルがちら、とこっちを見る。
「そ、そう。仕方な――」
あれ? これ強調すると、僕がキャルにその――キスしたがってないみたい?
え? いや、そりゃ、素のままでキャルとキスできるなら、そんな幸せなこと――
って、そんな事、正直に言えるかぁっ!
「――くもない、というか…その――」
キャルがちょっと微笑む。
「帰ろっか」
そう言うと、キャルはピョンと岩から降りた。
あれ……怒らせた? いや、怒ってない? どっち? っていうか、何が原因でどう怒ってるの? いや、僕、どうしたらよかったんだろう??
「あ~、うん…」
僕も岩から降りる。キャルがポケットに足を入れて、軽化。
帰りはなんかキャルもそんなにはしゃぐ事なく、普通の速度で帰ってきた。
戻ってくると、エリナとカサンドラが海龍王の分体――もとい、マルを相手にじっと見つめている。マルは何か食べている。
「どうしたの、二人とも?」
「いやあ、龍王って何食べるんだって話になって、色々あげてみたんだよ。そしたらさあ――」
「どうでした?」
エリナに訊くと、カサンドラが苦笑気味に答えた。
「なんでも食べる」
「あ、はあ……」
「どうやら、人間の食べるものでいいらしい。今度は一緒に食べる事にしよう。――私たちも昼食にするか」
エリナの話に同意すると、カサンドラが手早くパスタを作ってくれた。
トマトソースで海産物を煮込んだものだ。カサンドラは料理が上手い。
「ところで、九大龍王っていうんですよね? 海龍王マルヴラシアン、それからキャルと関係のある氷龍王―――なんだっけ?」
「キグノスフィア」
キャルがちょっとムッとした感じで口にする。あ、ヤバい。また怒らせたかも。
「え、え~と、氷龍王キグノスフィア、で、あと7体――」
昼食が終った後、改めてカサンドラが話を続けてくれた。
「魔龍王ガイノトラキス
炎龍王バルグレイブ
嵐龍王ハイゼルヴァーン
光龍王レイムランサー
森龍王ノーストリーナ
水龍王トリームレスタ
砂龍王デザールゲネブ ――だな」
「確か……魔龍大戦とかと関係あるんですよね?」
「うむ。その昔、ルワイス皇国がノズトラール島を出発して、このスマーク大陸へ進出してきた。それ以前から大陸への進出者はいたが、国を挙げての進出は降天歴156年のことだ。そして大陸北部を支配下においた皇王ラウシェードが神聖皇帝を名乗って、神聖帝国ルワイスを築いた」
「その時、元々大陸にいたのが先住民で、それが有徴族とかの種族ってことでしたっけ」
それを確か、『異民』と呼んで、『原民』主義者は差別しているんだよね。
あの…ディアッドとかいう奴が、それだったわけか。
「そう。このオーレムは、ラウニードのファーテップに次いで、移住者が作った街だ。その神聖帝国ルワイスの分裂を招いたのが、444年に勃発した魔龍大戦だ」
「国の分裂なのに、龍王がからんでくるんですか?」
僕の問いにカサンドラは頷いた。
「当時、神聖帝国ルワイスには双子の皇帝がいた。兄皇リダシャールが本国に、そして大陸のアルサマード地域の都市レギリーンに、弟皇ルドシャールがいた。この弟皇を魔龍ガイノトラキスが唆し、大陸の本国に対する戦争が始まった。これが魔龍大戦だ」
「魔龍王ガイノトラキスは……なんでそんな事をしたんです?」
「色々な説はあるが、人間を分裂させ、弱ったところを竜族が地上支配をする――のが目的だったと言われてる。結果、大陸北域の東側が、真聖皇国アルサマードを名乗って独立した」
「魔龍王ガイノトラキスはどうなったんですか?」
僕の問いに、カサンドラは難しい顔をした。
「真相は判らないが、魔龍王は封印され、467年に魔龍大戦は終結する。その時、龍王と竜人族、人間族との間でかわされた協定が『千年協定』だ。千年間は互いに不干渉でいる――という協定が締結された。龍王たちはそれぞれに巣穴にこもり、その痕跡が『ダンジョン』となった。龍王の眷属として生み出された竜人族は南方へ移動し、海を渡って南方の竜大陸ドラゴニアへ渡った」
「じゃあ、氷龍王キグノスフィアや海龍王マルヴラシアンがヒト族にからんでるのって、ちょっと異例なんですね」
僕の言葉に、カサンドラは深く頷いた。
「そうだな。だから私はとても驚いたんだ。まあ、これくらい小さな事ならば、協定違反にならない――というギリギリのラインなのだろうがな」
「そう言えば――海龍王は全ての龍王がヒト族に親切じゃない、って言ってました」
僕の言葉に、カサンドラは応える。
「魔龍大戦時、ガイノトラキスと結託してアルサマード側についた龍王と、戦いを収めようとする『調停者』側についた龍王がいる。そして、この人間の戦いに不干渉を決めた龍王もいた。
アルサマード側は、魔龍王ガイノトラキス、水龍王トリームレスタ、砂龍王デザールゲネブ、だな。
そして調停者側に、炎龍王バルグレイブ、光龍王レイムランサー、海龍王マルヴラシアン。
中立側に、嵐龍王ハイゼルヴァーン、氷龍王キグノスフィア、森龍王ノーストリーナ。――という勢力図だったようだ」
「ふ~ん、どうも話を聞くと、調停者側は人間に好意的? のような」
エリナがそう口を挟んだ。
「一般的にそう言われてるな」
「だから、マルちゃんも人に懐くのね」
そう言うと、キャルはマルを抱き上げる。マー、とマルが鳴いた。
「で、キグノスフィアは中立だったけど、キャルの一族に龍水晶をくれた、と」
「ふ~む、龍王とヒト……色んな処でドラマがありそうだな――」
エリナは好奇心を露わにしながら、そんな事を呟いた。
「しかし、龍王がその分体をヒトに預けた――なんて話は聞いたことがない。クオン、これは大変なことで、歴史的な事態かもしれないぞ」
「そんな風に言われても……なんか、あのお爺さんみたいなキャラで、かる~い感じで『連れていけ』って言われたもんだから――」
……いや、あの時、マルヴラシアンはなんて言ったっけ?
「――『ヒトの在り方に触れておくのも必要なことじゃ』 ……そう言ってた」
キャルが、そう話した。あ、そうだ。そう言ってた。
カサンドラが、真面目な顔をして口を開く。
「ヒトの在り方が悪い、と判断したら、海龍王はヒトの敵対者になるかもしれない、という事ではないか?」
「え?」
僕は驚いて、カサンドラの顔を見た。そして、事の重大さに、ようやく気付く。
――それって、僕らがヒト族代表ってこと?
「あっはっは! 責任重大だな、クオンくん!」
エリナが笑いながら、そう口にする。
「わ、笑いごとですか!」
「だって、しょうがないだろう。まあ、君はありのままでいればいいさ」
エリナの言葉に、カサンドラとキャルがこちらを見る。
「そうだな……私たちは私たちなりに生きていくしかない。それをどう判断するかは――龍王次第だ」
「けどきっと、クオンなら、大丈夫」
僕は、二人の言葉に勇気を貰った気がした。
そうだ。僕らは必死に生きてきた。それしかできないし、これからもそうするしかない。
「そうですね……肩肘張らずに――なるべく楽しく生きていきましょう!」
「うん。それが一番だ! ……で、まとまった金が入ったが、当座どうする?」
エリナの言葉を聞いて、僕は考えてたことを話した。
「それなんですけど、ちょっと時間をかけて、この家を増築しようと思うんです。カサンドラも増えたことだし」
僕の提案に、カサンドラが驚きの表情を見せた。




