3 秘密と約束
僕らはギルドの交換所に行って、ガールドに収納珠を見せた。
「こんにちは、ガールドさん。この中に、捕獲したサンダーチーターが入ってるんですけど」
女子プロレスラーと見紛うばかりの身体つきをしたガールドさんが、僕の言葉に眼を開く。
「おや、ブランケッツじゃないか。なんだい、今度はサンダーチーターかい」
「はい。レースクエストの対象です」
ガールドはにやりと笑った。
「あんたたち、レースクエストの目標をゲットしたのかい? やるなじゃないか!」
「それで、とりあえず鉄網にかけた状態で、捕獲して、そのまま収納してきたんです」
僕がそう言うと、ガールドは腕組みをして僕に訊いた。
「収納した時、気絶してたのかい?」
「はい」
「なら、大丈夫だ。生態用の収納珠は、収納時の状態を維持する。そのまま出してみな」
僕は収納珠から、鉄網に入ったままのサンダーチーターを出した。
サンダーチーターはまだ眠っている。
「じゃあ、麻酔薬をうって、電撃を無効化するアイテムをつけとくよ」
「睡眠の魔法とかないんですか?」
「ないこともないが、精神や神経に干渉する魔法は上級魔法だからね。しかも通じる/通じないの二択で、相手が抵抗できたらまるきり効果ゼロ。あんまり得策じゃないんだよ」
「なるほど」
僕は納得した。と、ガールドが僕らに交換書をくれる。
「まあ、あんたたちは中々のパーティーだよ。よくやったね」
「ありがとうございます。――サンダーチーターのこと、よろしくお願いします」
「ああ、責任もって、バルギラ公爵に届けるよ」
僕らは礼を言って、交換所からギルド本所に移った。
受付の美人エルフ、ミリアさんに交換書を渡す。
「あ! ブランケッツさんがレースクエストを制したんですね。おめでとうございます!」
「ありがとうございます」
その瞬間、周囲の冒険者たちにぶわっと、何か空気が伝わった感触がした。
「じゃあ、賞金を出しますが――どうしますか? 口座に入れておきますか?」
僕ら後ろの三人の顔を見た後で、ミリアに訊ねた。
「い…1000万……ですか?」
「はい! 1000万ワルドです」
僕らは顔を見合わせると、ごくりと唾を呑んだ。
「そうしてください、お願いします」
僕らはそう頼んだ。
「バルギラ公爵にお届けして、それから賞金の授与になりますので数日かかるとは思いますが、報酬はちゃんと入りますのでご安心ください」
「はい! 判りました!」
僕らは緊張と歓喜の混ざった顔でそう言うと、ギルドを後にした。
必要な買い物を済ませると、僕らは家に戻った。
……なんか、みんなそわそわしている。
エリナが口を開いた。
「あ~、色々あったが……みんなご苦労さまでした!」
「うん…色々あった…気がする」
「まあ、間違いなく、みんな頑張ったな!」
ここは……最後に僕がシメるべきところか。
「じゃあ、賞金1000万ワルドに――かんぱーい!」
「「「カンパーイ!」」」
僕らは楽しく夕餉をいただき、ご機嫌な夜を過ごした。
いや、ちゃんと寝ましたよ、各部屋で。一緒には寝てません。
僕はリビングだったけどね。
翌日は疲れをとる意味もあってお休みにし、各自、好きに過ごすことにした。
朝食を食べた後、庭になんとなく出ていた僕の処に、キャルが来た。
「クオン、なにしてるの?」
「うん、ちょっと木材にする木を見てたんだ。どうしたの?」
キャルがちょっと恥ずかしそうに微笑んだ。
「ね、約束覚えてる?」
「約束って……空を飛ぶこと?」
キャルは嬉しそうに頷いた。
「ねえ、今から飛んでみようよ。お天気もいいし」
「いいけど…キャルは疲れてない?」
「平気!」
キャルが嬉しそうに笑う。
「じゃあ、行こうか!」
「うん!」
キャルに僕のコートの裾ポケットに、両足とも入れてもらう。
軽化! と、キャルがすぐに浮遊魔法を使って、僕らは浮いた。
「じゃあ、行くね、クオン!」
キャルがそう掛け声をかけた瞬間、僕らの身体は大空に舞い上がった。
「うわわわわ――す、すごいよ、キャル!」
「うふふふ」
キャルが嬉しそうに笑う。
僕らは森の上空に上がり、山裾をギュンギュンと旋回した。
「気持ちいいね! クオン!」
「うん、そうだね!」
風に純白の髪をなびかせながら、キャルは自由きままに空を飛び廻った。
遠くにオーレムの街が見える。
陽射しが明るく、僕らは太陽の光を浴びながら大空を駆け抜けた。
「あの山の真ん中に、明るい色の処がある」
「花畑かな?」
「行ってみるね」
キャルがそう言うと、グン、とスピードが上がって、僕らは風を切った。
山の中腹に高原といっていい平野があった。
そこの一角に白、黄色、ピンク、赤などの様々な色を付けた花が咲き誇っている。
「わぁ……」
キャルはため息とともに、降下していった。
こんな場所があるなんて知らなかったな。誰からも聞いたこともない。
飛んできたからあっという間だったけど、結構な高度の場所だ。歩きだと大変だから誰も来たことがないのかもしれない。
「綺麗だね」
「うん……凄く素敵」
僕らは降り立って、しばらく花の中を歩いた。
緩やかな風が、キャルの純白の髪をなびかせている。
凄く綺麗だ。そして可愛い……
僕は思わず、ぼうっと見惚れた。
「クオン?」
「……あ、いや、なんでもないよ」
「あそこに岩がある。ちょっと座ろ」
「うん」
僕らはちょうどベンチみたいに吸われる大岩を見つけると、そこに座った。
僕のすぐ隣――ほんとに、腿と腿がくっつくくらいに、キャルが座ってくる。
ど…どしたのかな。なんか、凄く積極的な気が……
と、キャルが微笑みかけてくる。その可愛さに、また僕はぼうっとなった。
「凄く素敵な場所……。みんなも連れてこようかな――けど……少し、秘密なのもいいね」
キャルがそう言って笑う。秘密かあ――二人の秘密。
そう思った時、僕は僕の秘密を想い出した!
「あ、あの……僕、キャルに言わなきゃいけない事があって――」
「なあに?」
「その……滝つぼで溺れた時……キャルに人工呼吸したんだ」
「人工呼吸って?」
こっちの世界では、あまり人工呼吸って浸透してないらしい。
「その……口から直接、口に息を吹き込んで肺を活動を促すんだけど…」
「それって……口と口って――こと?」
キャルが首を傾げて訊ねる。僕はもう、顔から火が出そうだった。
「ご、ごめん! その…緊急時で仕方なく! 断りもなしに、そんな事したけど――その! 悪気というか、やましい気持ちがあったわけじゃ――」
僕の言葉を聞きながら、キャルはじっと僕を見つめていた。




