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2 ダンジョン冒険の終了


 飛竜が僕たちに襲いかかろうとする。が――急に、その口を閉じて、Uターンして戻っていく。


「どうしたんだ? ――あ!」


 僕は胸元の海龍王の分体が光っているのを見た。

 キャルが口を開く。


「その子が守ってくれたんだよ」

「そうか。そう言えばマルヴラシアン、そんな事言ってたよね」


 水流に抵抗しているうちに、すっかり忘れてしまっていたが、40階層より下のモンスターは逆に襲ってこないって言ってたな。


「飛竜は海龍王の眷属――って事か。それで上級モンスターの方が、影響力が強いんだな」

「ありがとうね、マルちゃん」


 キャルが手元の亀に向かって笑いかける。


「え? マルちゃん?」

「だって、マルヴラシアンなんでしょ? マルちゃんでいいよね?」

「マー」


 亀が鳴いて返事をする。…どうやら気に入ったらしい。

 海龍王の分体――もといマルちゃんのおかげで、浮遊する間もモンスターは近づいてこなかった。しばらくは。


 さらに上に上がっていくと、恐らく30階層代に入ったのだろう。辺りが段々、不穏な空気になってくる。


 と、突如、黒い影の群れが、こちらにやってきた。


「ブリッツバットだ!」


 黒い飛翔する群れがこちらに近づいている。

 相当にマズい。あいつらに電撃をうたれたら、僕ではなす術がない。


けど、キャルは力場魔法で浮遊しているから、それ以外のことはできない。

 ここは僕が迎撃しないと。――と、思ってると、突如、手元のマルちゃんが、ごそごそしだした。


「なに? どうした?」

「マー」


 マルが急に鳴いたと思ったら、その全身から発光し始めた。

 それは七色の光で、僕らを中心に辺りに広がる。


 その光を受けると、ブリッツバットが急に退却していく。

 よかった。マルには眷属を従わせる以外にも、効力のある技を持っているんだ。


 さらに浮遊すると、懲りずにまたブリッツバットの群れがやってきた。

 ――と、思ったら、よく見ると大きさが違う。ブリッツバットより小さい。


「マルちゃん、頼むよ!」


 僕は声をあげたが、マルは全然何もしない。

 なんでだ? ピンチなんだよ、マルちゃん!


「あ……これ、エリナのだ」


 キャルが気づいたように、声をあげる。

 え? と思って見てみると、確かにエリナのコウモリのファントムだ。


「なあんだ、心配して損した」


 見ると、その一匹が口に光の玉を咥えて、顔の前を飛んでいる。


「これ、リンクか」


 額を差し出すと、コウモリは光の玉を額に押し込んだ。

 やっぱり、エリナのリンクだった。


“やっと見つけた、クオンくん!”


 エリナの念話が、僕の脳裏に届く。

 見ると、キャルもリンクを受けていた。


“丸一日帰ってこないから、心配したんだぞ。ファントムを使って、遠視で君たちを探してたんだ”

“そうだったんですか。エリナさんたちは大丈夫だったんですか?”


 僕はエリナに訊いてみた。


“足元が崩れて君たちは落ちたが、私たちはギリギリで落ちなかったんだ。そのどさくさに離脱して、しばらく負傷を癒してた。それで君たちを探してたところだったんだよ”

“そうだったんですか、心配かけました。――あ、もうそろそろ34階層に着きます”


 僕がそう念話で送っている間に、キャルの魔法で僕たちは竪穴を抜けた。

 眼下の34階層に、エリナとカサンドラ、そしてマリーの姿があった。


 僕らはゆっくりと地面に降りる。と、マリーが僕たちの元に走ってきた。


「無事でよかったわ、二人とも! もう、心配したじゃない!」


 マリーは駆け寄ってくるなり、僕とキャルをまとめて抱きしめる。

 凄い体格だから、凄い力だ!


「ちょ…マリー! 苦しいんですけど!」

「マリー――潰れちゃう…」

「あら! アタクシとしたことが!」


 キャルの悲鳴にようやく気付いたマリーが、僕らを解放する。

 けど、本当に心配してくれたマリーが、とてもいい人だと思った。


 エリナとカサンドラが、笑顔を浮かべてやってくる。


「お帰り、クオンくん、キャルちゃん」

「二人とも、無事でよかった」


 僕は二人に訊ねた。


「二人は負傷の方は大丈夫だったの?」

「うん。私たちは離脱して、いったんバーナードの店まで戻ったんだ。そこで治癒をしてもらった後に、一晩過ごして、これから君たちを探そうとしてファントムを飛ばしたところだった」

「タイミングがピッタリだったんですね」


 幸運だ。けど、僕らは一晩経ったなんて自覚はまったくなかった。

 多分、滝から落ちた後に、アーケルドンさんの処で寝てたんだろう。


「ところで、君、何か可愛い生き物を連れてるじゃないか」


 エリナが、僕が手に抱えてるマルちゃん――海龍王の分体に気付く。


「あ、なんというか……成り行きで連れてくることになって」

「か……可愛いな、ちょっと抱かせてもらえないだろうか」


 カサンドラが、心なし顔を赤らめて口にする。

 僕は海龍王を差し出すと、カサンドラがそれを両手で浮ける。


「マー」

「鳴いた! なんて愛らしいんだ! …しかし、これは亀なのか?」

「あ、それは海龍王なんだよ」


 キャルが何気なく言うことを、みんなニコニコして聞いていた。が――


「へ~、海龍王ね。……って、海龍王っ!? ちょっと、どういう事!?」


 一番、驚いたのはマリーみたいだ。

 僕らはかいつまんで、海龍王マルヴラシアンとの邂逅の話をした。


 マリーもカサンドラも、呆気にとられている。


「……海龍王に…会ったと……」

「しかも分体を連れてきた――って…。ちょっと! アナタたちはもう、規格外過ぎて何がなんだか判らないわ!」


 マリーはそう声を上げた後で、ため息をついた。


「まあ……もう驚きませんけど。けどクオンちゃん、その子が海龍王だってことは、もうこれ以上、人に言わない方がいいわね」

「そうなんだ」

「広まったら、明らかに狙われる対象になるわ。考えてもごらんなさい。海龍王の力が、自分のものになるのよ。欲しがる人は山ほどいるわ」


 僕はちょっと考えた。…いや、無理だろう。


「いやあ……ヒトのものにできるような存在じゃない――と、思ったけどなあ、僕は」

「クオンちゃんはいい子だから、そう思うかもしれないけど。けど、不届き者が沢山いるからね。用心してちょうだい」

「判ったよ、マリー」


 僕はマリーの賢明なアドバイスに感謝した。


   *


 そうして僕らのダンジョン探索は終わった。

 地上に戻り、マリーに別れを告げる。


「ありがとう、マリー。マリーのおかげで、なんとか初ダンジョンをうまく凌げたよ。サンダーチーターも捕獲できたし」


 僕の言葉を聞くと、マリーが微笑んだ。


「ブランケッツの実力が凄かったからよ。またダンジョンに来る時は、お声をかけてね」

「うん、そうするよ。それから――バーナードによろしく」


 僕がそう言うと、マリーは急に赤くなった。


「もう、クオンちゃんたら! ……からかわないでちょうだい!」


 バシン、とマリーが僕の肩を叩く。いたぁっ! と僕は悲鳴をあげた。



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