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第二十一話  変わっていく世界  1 僕たちは空だって飛べる


「空を飛ぶって?」


 僕は驚いて横を見た。物凄く近く――キャルの息が僕の頬にかかるくらいの処に、キャルの顔がある。キャルが微笑んだ。


「だって、浮けるんだよ? もっと速度を出すだけ」

「大丈夫? 疲れない?」

「全然、平気。ね、やってみよ」


 キャルの物凄い近くにある微笑みに、僕はもうクラクラしていた。

 なんて可愛いんだろう。こんなの、抵抗できるわけがない。


「うん、じゃあやってみよう」

「うん! じゃあ、行くね!」


 ふわり、と僕らの身体が浮いた。

 僕はちょっと気づいて、キャルに言った。


「あ――一応、安全のためにコートのベルトを外側に巻いて。それから、海龍王の分体は僕が抱いておく」

「うん」


 キャルは僕のコートの外側にあるベルトを抜くと、自分ごと巻いた。

 背中にいるキャルの……密着度が、凄く上がった。


 振り落とされないための安全対策だけど――ちょっと恥ずかしいかも。


「それじゃあ、飛ぶよ!クオン!!」


 と、改めて宙に浮く。僕らはアーケルドンに別れの挨拶をした。


「それじゃあ、どうもお世話になりました!」

「さようなら!」


 と、いきなりグン、と身体が急上昇する。

 下からアーケルドンの声がした。

「さらばだ、愉快なヒトの子らよ!」


 みるみる小さくなっていく。凄い速度だ。

 僕たちは滝の傍を上昇していく。


 霧状の水分が僅かに顔にかかる。僕は下を見た。


「凄い、あっという間にこんな高さに――」

「ここ広いから、ちょっと飛んでみるね!」


 キャルがそう言うと、僕らは滝を離れて広い空間をビュンビュンと飛び廻り始めた。僕は歓声をあげた。


「凄い! ほんとに飛んでるよ、キャル!」


 不意に――ぎゅうっと、キャルの腕が僕の顔と首に巻き付いた。


「キャ、キャル?」

「わたしたち二人なら――何処へだって飛んでいけるよ、クオン!」


 そう言ってキャルが微笑む。

こんなに嬉しそうなキャルを見るのは――初めてかもしれない。


 ……こんな素敵な笑顔を、ずっと見ていたい。

 キャルに、ずっとこんな笑顔でいてほしい。


「そうだね! 僕たちなら、何処までも飛んでいけるよ!」


 僕は笑い返した。キャルが嬉しそうに笑った。


「ね。地上に戻ったら、本当の青い空を飛ぼうよ、クオン!」

「そうだね。……よし! じゃあ、帰ろう、キャル!」


 キャルは頷くと、滝の落ちる縁まで接近した。

 洞穴から噴き出ている滝の上方に、僅かな空間がある。

 僕らはそこへ、侵入していった。


 狭い空間だったが、僕らはそこを飛んでいく。

 しばらく進むと、やがてもう空気のある空間が水面すれすれの場所まで来てしまった。


「飛ぶのは此処までだね。どうする、クオン? 言ってたみたいに、岩盤を掘るの?」


 キャルが訊いてきたので、僕は考えてた事を言った。


「いや、水中を進んだ方が速く帰れると思う。――濡れるけど、平気?」

「大丈夫だよ。けど……水は凄い勢いだよ?」


 キャルの不安ももっともだ。


「水に潜って最大重化したら――多分、こっちの方が重い。流されないで、底を歩いていく」

「え? けど水の中だよ? 息が――あっ!」


 キャルも話してる途中で気付いた。


「そう。この海龍王の分体がいれば、水中を歩けるはずなんだ」


 僕たちは二人して、まだ掌サイズの亀を見た。


「この子で……大丈夫なのかな?」

「多分、大丈夫――だよ」


 僕も自信はなかったけど、そう答えた。で、亀を見る。


「お願いします。頼みます」

「マー」

「鳴いた! 可愛い!」


 キャルはご機嫌だったが、ふと我に返った。


「そうだ、水に潜るんなら、わたしが力場魔法で包めばいいんじゃ?」

「いや、キャルには水流を抜けた後、竪穴を昇ってもらわなきゃいけないから、魔力は温存したほうがいい」

「うん、そうだね」


 キャルが頷くと、僕はちょっと真剣な顔で言った。


「それじゃ…潜るよ」

「うん」


 キャルも真剣な顔で頷く。僕はゴーグルを装着すると、水の中に入った。

 冷たい。けど、それは問題じゃない。


 このまま水の中に入って、呼吸ができるのか?


 水の中に入る。と、顔に水が触れた。

 いやいやいや! これ、普通に溺れるよ! 全然、呼吸できませんけど!


 ――と、思っていたが、突然、顔の周りが光り始める。

 光は力場魔法のように、顔周りを包んで保護している。呼吸ができる。


 胸に抱えた海龍王の分体を見ると、こちらも身体全体が光っていた。


「キャル、大丈夫?」

「大丈夫。やっぱり、その子のおかげで息ができるんだね」

「そうらしい。じゃあ、このまま水底に行くよ」


 僕は最大重化した。足裏が水底に着く。

 体には激しい水流が常に僕を後ろに押し流そうとするが、僕らの重さは水流の力では流しきれない。


 激流の中を、僕は水底をゆっくりと歩き進んだ。

 キャルも背中にしがみついている。


 呼吸はできるが――重さのおかげで流されないにしても、これはキツい。

 水流の圧はかなり重く、それに逆らって前に進むのは大変だった。


 水底を歩きながら、たまに上を見る。

 空気のある処には、発光ゴケが生える。

 つまり、水面の上が明るかったら、空気のある場所に出たという事だ。


 水流に逆らって歩き進み――しばらくしたら、上の水面に明りが見えた。

 此処だ。此処で浮上する。


 けど、ただ重化を解いたら流される。横に向かって歩き、岸壁を探す。

 横の岸壁に手が届いた。


 僕はしゃがみこむと、岸壁を軟化して、手を突っ込む。

 少し上方に、もう一方の手を突っ込む。

 それを抜くと、穴ができた。これに足を入れる。即席の足場だ。


 重化のまま、足場を造りながら上に昇った。

 一瞬、凄い流れが来て流されそうになる。


「くっ!」


 僕はすぐに腕を肘より深く突っ込んで、流れに抵抗した。

 歯を喰いしばって、上に上がる。

 と、水面の上に顔が出た。


「やった、上だ!」


 僕はさらに岸壁を昇り、壁にへばりついた。


「ふ~っ」

「大丈夫、クオン?」

「大丈夫。やっぱり――上は僕らが落ちてきた竪穴っぽい」


 上を見上げると、暗黒の竪穴が広がっている。


「よし、それじゃあキャル、今度は魔法で浮いて行こう」

「判った」


 今度は軽化すると、キャルが僕らの身体を浮かせた。

 竪穴をゆっくりと上がっていく。


 しかしその途中、車ほどもあるトカゲ顔が飛んできた。


「飛竜だ!」


 飛竜は、僕らに向かって飛んできて――その鋭い牙をのついた口を開いた。


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