2 陽動で疲労
僕らはひどいダメージのなか、撤退した。
「……さすがBランクモンスター…半端ないな」
「いや、あれはBランクを越えてるぞ」
エリナの呟きに、カサンドラが続ける。
「チーター、強いの……」
「キャル、大丈夫?」
「クオンこそ、大丈夫?」
「うん」
見つめ合う僕とキャルの間に、マリーの声が割って入る。
「ちょっと! そこで和んでる場合じゃないわよ! 全然、通じる気配がないじゃない!」
治癒術を施してくれながら、マリーが声をあげる。
僕は考えた。作戦の練り直しだ。
「――よし、今度は『陽動で疲労作戦』で行きましょう!」
僕は作戦の概要を皆に話した。
「うん、いいと思う」
「いけそうだな!」
キャルに続いて、カサンドラが声をあげる。
……あれ? この流れ、最初でやったよね?
「ちょっと! それ失敗するフラグじゃないんですか!?」
「よし、作戦開始だ!」
エリナが僕の躊躇を振り切って声をあげた。
まず、カサンドラとキャルに、サンダーチーターから距離をとって、別々の場所に待機してもらう。基本的に、サンダーチーターの稲妻の圏内には入らない、のが基本だ。
そしてエリナ単独で僕の背に乗ってもらい、透明化してもらう。無論、僕はエリナを軽化して移動する。
まずキャルの方に移動して、キャルを抱きかかえる。
キャルが顔を赤らめるが、すぐに透明化される。
そこで魔法の届くギリギリの処まで来たら、キャルが魔法を放つ。
「爆炎花!」
赤い花のような炎が発射されると、サンダーチーターの手前で爆発する。
「ガアオウゥゥッッ!」
サンダーチーターが怒って発射先を見るが、その時には僕はキャルを連れて移動している。と、サンダーチーターの顔の周りで、エリナのコウモリファントムがちらつく。
「ウガッ、ガアオフゥッ!」
鬱陶しがるサンダーチーターを後目に、僕はキャルを岩陰に降ろす。
と、すぐさまバネ脚ダッシュでカサンドラの元へ行く。
カサンドラも同様に抱きかかえる。
と、カサンドラも赤くなるが、やはりすぐに透明化される。
カサンドラを射程限界まで連れていくと、カサンドラも爆発魔法を放った。
「爆裂弾!」
サンダーチーターの背後から、すぐ近くで火炎弾が爆裂する。
「ギャアオゥッ!」
サンダーチーターが攻撃した者を見極めようと振り返るが、その顔の周りにはコウモリが飛び交っている。サンダーチーターが電撃を放ってコウモリを消した時には、僕は既にカサンドラを別の場所に連れていた。
これを何往復かした。サンダチーターは可哀そうだが、姿の見えない敵に翻弄されて怒っている。
「グルルル………ガァッッッ!!」
遂に怒りが爆発し、全方位に向けての電撃が放射された。
しかし僕らは既に、安全圏に離脱している。
全方位電撃をは何発か放つと、さすがのサンダーチーターにも疲れが見えてきた。
「よし、そろそろ行きましょう」
僕はエリナに声をかけて、キャルとカサンドラを回収した。
改めて三人一組のアタック体制になる。
僕たちはサンダーチーターに接近した。
「キャル、お願い!」
「重力圧!」
キャルの力場魔法がのしかかり、サンダーチーターが一瞬潰れる。
が、さすがの体力で、サンダーチーターが身体を起こそうとした。
しかし、足止めはされている。
そこに僕は収納珠から取り出した投網を投げた。
「みんな降りて! 重化!」
僕の合図で、皆が僕から離れる。
と同時にサンダーチーターにかかった網を、僕は一気に重化した。
「グワアオウッ!!」
網に捕らえられたサンダーチーターが、必死の抵抗で全身から電撃を放った。
その電撃は、投網を持っている僕に伝わってくる。
「くっ――ぐああぁぁぁっ!」
凄まじい衝撃だ。このまま受けてたら死んでしまう。
が、そこでカサンドラが剣を抜いてサンダーチーターを打ち付けた。
「当気剣!」
気力の使い方では、斬ることなく衝撃だけを相手に与えることができる。
身動きできないサンダーチーターに、カサンドラの一撃が直撃した。
「グル……グ………」
サンダーチーターが沈黙し、倒れる。
と、それを見届けて、僕も倒れこんだ。
「クオン、大丈夫!?」
「大丈夫、アタクシに任せて!」
キャルの声の後に、陰で待機してもらっていたマリーがやってきて、僕に治癒術を施してくれた。
僕は心配そうなキャルに笑ってみせた。
「大丈夫だよ、キャル。なんとかね」
「よし。サンダーチーターは完全に昏倒したな。じゃあ捕獲するよ」
エリナはそう言うと、預けておいた収納珠に投網ごとサンダーチーターを収納した。と、エリナが、にっと笑った。
「じゃあ、ミッション終了ってことでいいかな?」
「「「はい!」」」
僕らの声を聴いて、マリーが苦笑する。
「アンタたち、本当にやっちゃったのね。やるじゃないの!」
そうして僕らは――帰途についた。
*
「僕らがサンダーチーターを捕獲したってこと、他のパーティーに伝えなくていいんですかね? きっとまだ探してるパーティーもいると思うんだけど」
僕の言葉にマリーが笑いながら答える。
「本当にクオンちゃんは真面目ねえ。他のパーティーなんかどうだっていいと思うのが普通なのに」
「いや……それはちょっと――」
普通という基準が判らない。
「バーナードの店にいって、そんな話をしたらいいわ。そういう話は次第に広がるものだから」
「なるほど」
そんな話をしながらダンジョンを歩いていると、不意に視線の先に違和感を感じた。岩壁ばかりのダンジョンで、色合いが派手すぎる。
想像はしていたが、それは倒れている人だった。
「誰か倒れてる!」
僕らは慌てて、その倒れてる人に近づいた。
うつ伏せになってるのを起こすと、若い女性だ。魔導士っぽい格好をしている。
「ちょっと! 大丈夫ですか!」
見ると、服もあちこち破けて、顔に泥がついている。どこか負傷してるようだ。
「う……ん…」
女性は意識をとり戻したようで、うっすらと眼を開けた。




