第二十話 ダンジョン混戦模様 1 サンダーチーター捕獲作戦
僕は思わずディアッドに怒鳴った。
が、その後、我に返った。
相手は身動きもできない負傷者だ。その相手に僕は――
「自分の不遇を、異民とかのせいにして憂さ晴らしか! 小さい男だな!」
え、エリナさん!?
「挙句が実力不足で、仲間もいなくてモンスターに返り討ちか! ザマぁないな!」
「ちょ、ちょっとエリナさん! 言い過ぎですよ!」
僕は慌ててエリナを止めた。
ホント、どうしたんだ、この人。最近、攻撃的すぎるって注意したばっかりなのに!
「私たちは力を合わせて、あのサンダーチーターを捕まえる。無徴族と、有徴族と、性的倒錯者と、異世界転生者の多様な私たちが、力を合わせてあんたのなしえなかった事をやる。……美しいのはどちらか――よく見てるがいい!」
エリナが踵を返した。
「エリナさん……」
「「「エリナ――」」」
僕たちは、エリナの決意に――うたれた。
憤りなんて小さいことと思えるほど、その志は気高いものだった。
歩いてくるエリナは微笑んでいる。
倒れたままのディアッドは、憎々しげに声をあげた。
「お前らごとき異民風情が、あのモンスターを捕まえられるはずはない! ……せいぜいあがけ」
エリナはもう振り返らずに、僕らに言った。
「さて、ああは言ったもの、どうしようかね?」
「考えてないのかっ!?」
カサンドラが声をあげた。
エリナが誤魔化し笑いを浮かべる。
「いや、それはほら、クオンくんとかカサンドラが考えるの得意じゃないか」
「……丸投げ」
キャルがぼそりと呟く。
と、僕らは思わず噴き出した。
「――なに、もう。アナタたちって、ホント最高ね!」
マリーが目を拭きながら笑い声をあげる。
僕らもひとしきり笑った。
「で、どうするつもりだ、クオン?」
カサンドラが僕に問う。僕は用意していた案を提案した。
「第一作戦は――『お肉で捕獲作戦』」
作戦の内容はこうだ。
1、まず、用意したお肉(10kgのブラック・バイソン肉)を、サンダーチーターの近くに置く。ちなみに、ジョレーヌの店で買ったモンスター図鑑によると、サンダーチーターが食べるのは、南方のビッグ・ガゼルなどを捕食するらしい。
が、その肉が手に入らないので、ブラック・バイソンで代用してみた。
2、そして肉を置いたら、僕とエリナが透明化して傍に潜む。僕の手には、用意した鉄のワイヤーで編んだ特別製の網がある。これは軽化すれば、僕は投網できるように訓練した。
3、サンダー・チーターが肉を食べ始めたら、キャルとカサンドラが力場魔法で足止めする。これは昆虫ヒーローを足止めした時と同じ。
4、動きが止まったサンダーチーターを、投網で捕獲!
「……以上が、『お肉で捕獲作戦』だけど」
「うん。いいと思う」
「いけそうだな!」
キャルとカサンドラの声を受けて、エリナが号令した。
「それじゃあ、作戦開始!」
まず僕とエリナが透明になって、肉を持って移動する。
「……クオンくん、少し訊ねたいのだが」
「なんですか?」
小さな声で急に訊いてきたエリナに、僕は顔を向けた。…透明で見えないけど。
「この肉――幾らした?」
「え。え……っと、確かキロ6200ワルドくらいですけど――」
「なにぃーっっ!」
エリナが大声をあげる。
僕は慌てて、エリナに囁いた。
「エリナさん、ダメですよ! 大声を出しちゃ!」
「そうは言ってもだな! 10キロで62000ワルドじゃないか! これでもし、サンダーチーターを捕まえられなかったら、純粋な出費だぞ!」
「……そういえば――ワイヤー網も、今回の作戦のために新調したんでした」
僕は隠しとくのもよくない、かと思って正直に言った。
「なあにぃっ! 幾らしたんだ!?」
「特注だったんで、10万ワルドです」
「があぁぁぁ――」
エリナの動揺の声が響く。僕は透明化が解けるんじゃないかと、ヒヤヒヤした。
「いや、クオンくん、作戦はいいが、肉は高級品じゃないか? 我々がたまに食べてるのだって、キロ2000ワルドはいかないものだろう?」
「いや、高級肉の方が食いつきがいいかと思って」
「動物は別に、脂身を求めてなーいっ!!!」
そうか、高級肉って脂肪が多い肉なのか。勉強になる。
……は、いいけど。
「エリナさん、声出し過ぎですってば」
「く~、こんないい肉を、チーターに喰わせるとは……」
なんかエリナが涙声で喋る。そうか、エリナは自分が食べたかったんだな。
けど作戦なので、そのまま地面に放置する。
そして僕らは、離れて待機。
――と、しばらくするとサンダーチーターがやってくる。
匂いを嗅いでいる。サンダーチーターは環境が変わって、ろくに食事が摂れなかったはずだ。腹がすいてるだろう!
サンダーチーターが肉に噛みついた。今だ!
キャルとカサンドラが、力場魔法を発動した。
「グ――グル……」
チーターが異変に気づいて、小さく唸る。
僕はそこで投網を収納珠から取り出す。これをサンダーチーターに被せれば――
「グルルル――ガアウォッッ!!」
その時、サンダーチーターが背びれを光らせて電撃を放った。
電撃は辺り一面に放射されて、辺りの岩壁に激突し反射する。
「きゃあっ!」
「くっ!!」
「うわっ!」
「ぐっ――」
電撃は、周辺で待ち構えていた僕らにも放射された。
凄まじい威力だ。僕らは思わず呻き声をあげた。
「ちょっと! みんな大丈夫!?」
遠くで作戦を見守っていたマリーが駆け寄ってくる。僕たちはしたたかにダメージを負っていた。
マリーの治癒を受けながら、僕たちは納得した。
「そうか……今まで倒れてたパーティーは、こうやってやられたんですね……」
「これじゃあ、まったく同じことだ」
カサンドラが口惜しそうに呟く。
僕は気を取り直して、新たに提案した。
「それじゃあ、第二作戦『ブランケッツ・アタック作戦』で!」
「結局、それかあ」
エリナが頭を手で抑える。
「いいから、行きますよ! みんな、ブランケッツ・アタックだ!」
「「「おう!」」」
それぞれポケットに足を入れて、アタック体制に入った僕らは、エリナの力で透明になってサンダーチーターに近づいた。
「行きます!」
僕は投網を投げた。サンダーチーターが、急に現れた投網に驚いて電撃を放つ。
「防御して!」
「「判った!」」
キャルとカサンドラが魔導障壁を張る。――が、二人分の魔導障壁をブチ破って、電撃が僕らを襲う。
「「「「ああぁぁぁぁっっっ!!!」」」
僕らは凄まじい衝撃に、一斉に悲鳴をあげた。




