6 サンダーチーターとの遭遇
「判った、君がリーダーだね」
エリナは一番ガタイのいい鎧の剣士に近づいて、治癒術を施し始めた。
女魔導士がそれを見て、安堵の息を吐く。
「ありがとう、助かるよ……。うちの治癒士が霊力切れで、身動きがとれなくなってたんだ。サンダーチーターとは、34階層の北西で遭遇した」
「そう。貴重な情報ありがと。あなたもやられてるわね、見せて」
そう言って、エリナは女魔導士に治癒術を施し始めた。
「いいのか? お前たち、これからサンダーチーターの捕獲に挑むつもりなんだろう。霊力や気力は温存しておくべきだぞ」
「貴重な情報は、治癒力以上に重要だから」
エリナは澄ました顔でそう言った。
女魔導士はエリナの顔を見て微笑んだが、ふと我に返った。
「あんた、今、話題の『ブランケッツ』の、『手裏剣』エリナじゃないのかい?」
「今、話題かあ。いい方で? 悪い方で?」
「……両方かな。確かな実力者だ、って言ってる連中もいれば、ギルマスと癒着してる、なんて揶揄する奴もいる。まあ、注目されるパーティーが嫉妬されるのは、珍しい事じゃないけどね」
女魔導士がそう苦笑まじりに言う。
と、エリナは急に僕らを振り返ると、大きな声をあげた。
「癒着してラクして儲けられるんだったら、なにもこんな地下迷宮に来て戦ったりしないよなあ、クオンくん!」
え? 僕? そんな急に僕にふられても――
「さっきなんか、このクオンくんはなあ、白熊の化物に氷漬けにされかけたんだぞ。癒着でラクしたいよ、ホント!」
「え、えぇ……?」
僕がなんとも言えないでいると、カサンドラが笑い声をあげた。
「まったくだ! さすがエリナ、スカっとした事を言うな!」
「ウフフフ……」
キャルまで笑ってる。仕方ないので、僕も笑った。
「どこかに、そんなウマい話、転がってないですかね……」
「まあ、しょうがないので、サンダーチーターでも捕まえよう!」
エリナはそう言うと、治癒を終わったらしく立ち上がった。
「それじゃあ、我々は先へ行く。情報提供、感謝する」
「あ……」
僕たちが立ち去りかけると、女魔導士が声をあげた。
「あの……ありがとう。ブランケッツはいい連中だって――判ったよ」
「――騙されてるかもしれないぞ? ご用心、ご用心」
エリナは振り返って笑った。
それから踵を返して、僕たちは先へ進む。
けど、エリナが少しも喋らない。
しばらく先へ進んだが、僕はちょっと気になった。
「あの……もしかしてエリナさん、怒ってます?」
「そりゃ、怒るだろう! まったく身に覚えのない事で、いらぬ疑惑を受けてるんだぞ。腹も立つだろう」
そうかあ、エリナさんは怒ってるのか。僕は――どうも、ピンと来てない。
「いやあ…なんか、あんまり自分の事という意識がなくて。……ホントに癒着なんて、バカげた話を信じてるんですかね?」
「バカな奴は、信じたい話を信じる。話がバカげてるかどうかは問題じゃない」
エリナは真面目な顔をして言った。
「それに、噂が人を殺すことだってあるんだぞ。あまり楽観しないほうがいい」
「じゃあ、どうするんですか?」
「……それは、これから考える」
エリナはむっつりと言った。と、マリーが雰囲気を変えるように声を上げる。
「はいはい、そろそろ34階層よ。気を引き締めて」
「判った」
カサンドラが厳しい目つきで答える。いや、見習わないと。
僕らは迷わずに北西へ進む。と、行く先でやはり、負傷してるパーティーがいた。
一組じゃない、三組いる。僕らはその横を通り過ぎて、先へ急いだ。
突如、轟音がした。
「戦闘してる」
「行きましょう!」
僕の声にマリーが応えて、僕らは駆け出した。
狭い通路の先に、開けた空間がある。そこで――サンダーチーターと、一人の剣士が戦っていた。
サンダーチーターは、チーターという名前からイメージするものより大きかった。
と、言っても虎くらいの大きさだ。しかし、その動きは虎じゃない。
サンダーチーターは稲妻を全身からほとばしらせながら、空間を眼にもとまらぬスピードで駆けている。
駆けた後に、サンダーチーターの残した稲妻が滞留する。空間は、電撃が渦巻いていた。
その稲妻そのもののようなサンダーチーターの動きに追いつく速度で、剣士が戦っている。金髪の剣士、あれは――
「ディアッドだ」
バーナードの店で会った、金髪で灰色の瞳で――原民主義の男。
だが、その戦闘力は、確かにBクラスだと思わせた。
駆けるサンダーチーターに負けない速度でディアッドが並走する。
ディアッドが剣を振ると、サンダーチーターが前脚の爪を振って、それを弾き飛ばした。
「ガアアォウッ!」
サンダーチーターが咆哮をあげる。
と、その背中から、凄まじい電撃が放射された。
「ぐあぁぁぁっ!!」
ディアッドが呻き声をあげて倒れる。
サンダーチーターが足を止めた。
サンダーチーターはその頭頂部から、背中にかけて恐竜の背びれのように金色のギザギザが並んでいる。その背中のギザギザから、一気に凄まじい電撃を放射したのだった。
「う……ぐぅ…」
倒れたディアッドが小さな呻き声をあげる。
ディアッドは気力で防御していた。にも関わらず、サンダーチーターの電撃波、それをうち破ってディアッドを負傷させたのだ。
サンダーチーターの攻撃は、Bランク冒険者の防御力を上回る。
これは確かだ。しかも電撃とか、僕には全く対処法がないやつだ。
迂闊に近づいても、逆にこっちがやられるだけなのは間違いない。
そう思ってる間に、サンダーチーターは前脚の爪を振り上げた。
その爪はギュン、と伸び、まるで刀のような鋭さを持っている。
ディアッドは動けない。その爪が、ディアッドに振り下ろされた。
「――お前……何をしている…」
僕は棒剣で、サンダーチーターの爪を受け止めていた。
呻いたディアッドに、僕は何と答えていいか我ながら迷った。
「さあ……なんでしょう?」
「ふざけてるのか……」
「ふざけてるつもりは――ないけど!」
僕はサンダーチーターの爪を弾き飛ばした。
飛び退いたサンダーチーターが、こちらを見て唸り声をあげる。
「グルルルル……」
と、サンダーチーターは身体を翻して、その場から飛び去っていった。
僕はディアッドの方を、改めて向いた。
「ふぅ……大丈夫ですか?」
まだロクに動けないディアッドが、こちらを睨む。
「助けたつもりか? 私は……異民の助けなどいらん!」
「ああ、そうですか。判りました」
なんて人だ。負傷してもまだなお、人を差別することを止めない。
正直、こういう人とは仲良く話せない。
「あの…余計なお世話かもしれないけど、治癒できる人とせめて組んだ方がいいんじゃないですかね? それじゃ」
僕が立ち去ろうとした時、ディアッドがまだ声をあげた。
「――お前たちのせいで! ……美しい国が、醜くなっている」
僕は振り返った。
地面に座り込んだままのディアッドは、汚らわしいものを見るような目つきで、こちらを見ている。
愕然とした。人として――まったく理解ができない。
「美しい国ってのは、あんたみたいな差別主義者だけの世界か! そんなのは最低の――クソ醜い国だ!」




