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2 ダンジョン野営


 僕がバーナードの色気にアテられてる間に、マリーが口を開く。


「そう。原民主義者は男が一番偉くて、女はそれに従うのが理想の社会――って考えてる。だからアタクシたちみたいのは、『異民』に括られてるのよ」

「だからオレも原民主義はちょっとね……まあ、客商売なんで、来る者は拒みませんけど。そこを拒んだら、それこそこっちが差別になっちまう」


 そう言うと、バーナードは軽く微笑んだ。

 と、エリナが口を開く。


「素敵だな、バーナード! いい店だよ、ここは。こんな地下深くにあって、まるでオアシスだ」

「うん……お茶も美味しかった」


 キャルも微笑む。

「また、来ます」と告げて、僕たちはバーナードの店を後にした。



   ♦   ♦   ♦   ♦   ♦   ♦   ♦   ♦



「ボス、ブランケッツがダンジョンに潜ったと連絡がありました」


 デカい机に座るカリヤにそう告げたのは、ジェットだった。

 この数日で、青臭い子供の影が無くなり、顔には凶悪な人相が浮かび上がっている。ヒモグラの因子の移植手術を受けたせいもあった。


「根回しの方はどうなってる?」

「各班のリーダーに金を渡して、遊び場で不満をぶちまけさせてます。周囲の冒険者から、同調の声が上がったという処もあるようです」

「フン、こんな工作みたいな事は退屈だと思ってるだろう?」


 カリヤはそう言うと、ジェットを見た。


「いえ。ボスの命令なら従います。それが必要な事だろうし、後々、意味を持つと思うんで」

 ジェットの言葉に、カリヤは満足げな笑みを浮かべた。

 ただし、その笑みは黒マスクの中に隠れてジェットには見えない。


「この前のザガルダ一家殲滅の際の、ヒモグラたちの動きはよかった。お前が指揮してたんだったな?」

「はい。仲間うちに通じるサインを覚えさせ、戦闘中に必要に応じてそれを出しました」

「お前、頭のいい奴だな。どうしてはぐれ者の組織に入った?」


 カリヤはジェットに訊ねる。ジェットは答えた。


「金がなくて、学校に行けませんでした」

「職人とか、そういう道もあったんじゃないのか?」

「頭ごなしに命令されたり、実力もない奴に先輩風吹かされるのが嫌で、大概、喧嘩になってました。そのうち、行く所がなくなったんです」

「なるほどな」


 カリヤは笑った。


「ジェット、お前、次の作戦の指揮をとってみるか?」


 カリヤの言葉に、ジェットはさすがに驚きの顔をみせた。


「オレが? ――幹部の方々がいるんじゃないんですか?」

「あいつらは能力は高いが、その分、からめ手がヘタクソだ。要は、頭が回らねえ奴らが多い。幹部たちを使ってもいい。お前が指揮をとってみろ」


 カリヤの言葉に、ジェットは顔を引き締めた。


「それで……作戦の内容は?」

「猫耳の拉致だ」


 カリヤは告げた。


「他の連中は殺してもいい。――殺せたら、だがな。目的は白い猫耳女を生きたまま攫うこと。ただし、お前も見ただろうが、あの猫耳が潜在能力を発揮したら、あのネラと対張るほどの魔力を出しやがる。ああなると、こっちも手がつけられねえ。何人使っても、幾ら使っても構わん。その辺のところをうまく考えて、さらって来い。…できるか?」

「判りました、ボス」


 ジェットは刺すような目つきで、そう返事をした。



○  〇   ○   〇   ○   〇   ○   〇



「此処からは、モンスターたちも手強いわよ」というマリーの言葉通り、26階層から下のモンスターは強敵だった。


 26階層で出たジャイアント・フロッグ――要は10mサイズの超巨大ガエルだが、それが三体同時に出てきたのには参った。身体がヌメヌメして斬りにくい上に、舌を伸ばして捕らえに来る。

 結局、カサンドラとキャルが焼きガエルにした。もちろん、食べてはいない。


 さらに27階層では、浮遊クラゲの群れが現れた。

 これは5mサイズのクラゲだが、空中とフワフワ漂っている。その飾りみたいな長く伸びた触手を広げて捕らえに来るところを、棒剣で斬ろうとした。


 が、その触手は切れずに僕に巻き付き、放電されてしまう。

 僕はそれで感電し、意識を失ってしまった。


 気づくとマリーに回復されていたが、マリー治癒術もできる霊術士だったのだ。

 そして皆も、この浮遊クラゲに苦戦していた。炎も電撃もきかず、触手は柔らかすぎて斬りずらい。カサンドラの剣も、触手をかいくぐって身体を斬るが、柔らかい胴体を斬っても、ほとんどダメージがなさそうだった。

 そこで、頭部の核を潰すことだけが、クラゲを倒せるとマリーが教えてくれる。


 僕はその辺にあった巨大な岩を軽化で持ち上げて、ジャンプし、落とす際に重化して一匹ずつ潰していった。空中にいる間の僕の防御は皆に頼んで、なんとかクラゲの群れを撃退できた。


「……ちょっと、疲れましたね」


 さすがにダメージもまだ残ってた僕は、そう本音を洩らした。

 マリーが頷く。


「実はもう夜に入る時刻よ。明るさが変わらないから判らなかったでしょうけど。この辺で安全そうな場所を探して、野営した方がいいと思うわ」

「そうだな、そうしよう」


 エリナが同意して、僕らは浅くて広い洞穴の中に野営することにした。

 此処は暗く、夜の雰囲気が出るので寝やすいだろうと思ったのだ。


 ラモンの店で買ったテントを張る間、カサンドラとエリナが料理の準備を始める。

 僕はキャルと協力して、テントを張った。


「あれ? もう一つ張るの?」


 一つ、大き目のテントを張った後で、ソロキャンプ用の小さいテントを僕一人で張ろうとした時、キャルが僕に訊いてきた。


「そうだよ。こっちは僕用」

「……クオン、一緒に寝ないの?」

「うん。そのつもり…だけど――」


 僕がそう言ってる間に、キャルの顔が不機嫌な感じになる。


「い、いけなかったかな? 僕一人で贅沢しすぎかな」

「贅沢とかじゃなくて――もういい」


 なんかキャルがそっぽを向いて、料理班の方に行ってしまう。

 なんか、怒らせたっぽい。


「クオンくん、キャルちゃんががっかりしてるじゃないか」


 そうエリナが、悪戯っぽく笑みを浮かべる。

 キャルがうつむいて後ろから、エリナの袖を引いた。


「私だって、がっかりだ。カサンドラもそうだろ?」

「いや……その…私は――」


 カサンドラは、何故か赤くなってうつむく。


「いや、そうは言っても、女性用のプライベート空間が合った方がいいでしょう?」

「そういう処が、クオンくんだよな」


 エリナがまた笑った。

 僕は肩をすくめて、さらに野営の準備を続けることにする。


 ラモン武具店で買った、野営アイテムをテントの周囲四隅に置いた。


「あら、いいものを用意したわね、感心、感心」


 マリーがそれを見て声をあげた。

 僕が置いたのは、魔導筒で自動感知する警報器だ。


 置いた場所から扇型に、240度の範囲内に何かが接近すると警報を鳴らし、微弱だけど電撃を放つ魔導具だ。ファフニールの研究施設に侵入した際、これの大型のものに引っかかったから、同様の物があるだろうと思って探し見つけたのだ。


 主人のラモンの話では、「これ自体は家屋に置いとくのが一派的で、あまり野営の時まで使う奴は少ない。なるべく荷物を少なくしたがるのが冒険者だからな」という事だ。

が、なにせ僕はカサンドラからもらった大型の収納珠があるので、荷物の量は気にしなかった。大事なのは、安全性。


 夕飯が終わると、それぞれ就寝の準備に入る。

 と、エリナが僕に声をかけた。


「なんだ、クオンくん。まだ寝ないのか?」

「あ、もう少し起きてます。なんか興奮したのかな、眠くならなくて」

「クオンちゃん。ちゃんと休まないとダメよ」


 マリーが僕にそう言う。僕は、判りました、と笑って答えておいた。


 しばらく一人で、燃える焚火を眺めていた。

 皆が寝静まり、静かな夜がやってくる。僕はまだ――独りで起きている。


「――クオンくん、考え事かい?」


 不意に背中から、エリナが声をかけてきた。


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