5 第二のワープホール
「此処が次のワープホールよ――と、言ってもこの二つで終わりだけどね」
マリーが指さしたのは、大きな竪穴だった。
しかしさっきのとは違い、今度は全くスロープがない。
マンホールみたいな、ただの穴だ。
「……これが何処まで続いてるんですか?」
「21階層。そこから先はワープホールのようなものはないし、掘られてもいない。まあもっとも、30階層から先はアタクシはガイドしないと決めてるので、あんまり関係はないけど」
マリーはそう言うと笑ってみせた。
「それで、此処からはこのワイヤー縄梯子で降りていくのよ」
そう言ってマリーが指さしたのは、鉄ワイヤーで組まれた縄梯子だった。幅は50cmくらいか。先はずっと下まで降りていて、闇に消えている。
「この梯子を一人ずつ降りていくのだけど、その間にもモンスターは襲ってくる。空中から襲うのもいるし、穴の外壁から襲って来るのもいるわ。梯子を下りる時は、魔法にしろ霊力結界にしろ防御に専念するのは難しい。しかも防御だけしていては、モンスターを倒せない。――此処は近道だけど、とても難関よ。どう? 通常ルートで降りる?」
マリーが何故か、ちょっと得意気に言ってるけど、僕はみんなに訊いた。
「それじゃあ、アタック体制で降りようか?」
「うん、そうだな」
「じゃあ、わたしは魔導障壁を張るわ」
「エリナが警戒と防御を担当した方がいいだろう。下降の方は、私に任せてくれ」
そんな感じであっさり打ち合わせが終わると、マリーが慌てた様子で声を上げた。
「ちょっと、ちょっと! アナタたち、本気で此処を降りていくつもり? Bランクパーティーでも苦戦するし、近道とはいえ下に着くまでに半日かかるパーティーもいるのよ? アナタたち大丈夫なの?」
「ええ、まあ……。マリーさえ大丈夫なら、このまま降りるけど?」
「アタクシ?」
マリーは意外だという顔で、僕を見た。
僕はマリーに近づいて、手を出した。
「それじゃあ、この手の上に手を出してもらえます?」
「え……ちょっとクオンちゃん、見かけによらず大胆ね!」
「違いますってば!」
やれやれ。僕はわけも判らず両手を出しているマリーの両手を下から握った。
「あら、まあ……」
「顔赤らめるの、やめてもらえます? ――で、僕がマリーを持ち上げます。最初は抵抗して『自分は重い』って思ってください」
「え、ええ……」
マリーがまだ重い。僕はさらに言った。
「今度は僕が軽くします。『自分は羽のように軽い』とか思ってください」
「ええ、まあいいけど――」
同調した。と、その瞬間に両手からマリーを持ち上げる。
「え? えぇっっ!?」
「こんな風に、僕に同調してもらえると、身体を軽くできるんです。同調してる感じ、掴めましたか?」
「あ、ああ――クオンちゃんとつながってる感じね」
「そうです。じゃあ、今からフォーメーション組むんで待ってください」
僕はみんなを振り返って言った。
「それじゃあ、アタック体制で」
「「「おう!」」」
エリナが左、カサンドラが右、キャルが後ろのポケットに足を入れて乗る。
既にみんな同調してる。僕は軽くなったみんなを乗せて、マリーの方へ向かった。
「それじゃあ、マリーも行こうか」
「え、えぇ!?」
混乱してるマリーを、僕は膝からすくってお姫様抱っこ状態にする。
「え……ちょっと、そんな――」
マリーが顔を赤らめる。…割れ顎に口髭マッチョだけど、なんか乙女っぽい。
「うん、いいよ。同調できてる。この状態だと、みんな羽くらいの重さしかないんだ。これなら軽い力場魔法で、操作できる――という仕掛けなわけ。それをキャルが魔導障壁で防御して、周囲をエリナさんが警戒してる。で、カサンドラが力場魔法で移動してくれる。――カサンドラ、ゆっく下に降りてもらえる?」
「承知した」
僕ら全体が浮いて、竪穴の真上に来る。
そのままゆっくりと、僕らは一体となって降りていった。
「ウ、ウソでしょ! アタクシ、宙に浮かんでるわ!」
「これなら、結構早めに降りられるでしょ」
僕は間近にあるマリーの顔に笑いかけた。
マリーが顔を赤らめて、僕を見つめた。
「クオンちゃん、アナタって……本当に凄いわ!」
「いや、僕だけの力じゃないから。みんなに協力してもらって、初めてできる事だからさ」
僕がそう言うと、周囲に何か影が走った。
「お、ブリッツバットだな」
エリナが声をあげた。周囲をブリッツバットの群れが飛んでいる。
近づいてくるのもいるが、キャルの魔導障壁に阻まれる。
「ちょっと、撃退しておくか」
エリナの手裏剣が鋭い動きで、ブリッツバットを切り刻んでいく。
降下が進むと、ブリッツバットは追ってこなくなった。
「ね? 僕は何もしてないんだよ。みんなあっての事」
「クオンちゃん……」
マリーは何故か目を潤ませている。
「アタクシ……アタクシよりも逞しい殿方に抱っこしてもらうのが夢だったけど――まさか、こんな美少年にそうしてもらえるなんて…夢みたい」
いや、そんなキラキラした眼で言われても。
「今日は――特別だから」
不意に、僕の後ろからキャルの声がする。
振り返ると、ちょっとキャルが膨れていた。
……いや、膨れてるキャルも可愛いな。
と、マリーが笑顔になる。
「そう。この位置は特別なのね。今日はアタクシが独占しちゃってゴメンナサイ。けど、ちょっといい気分を味合わせてもらったわ」
マリーはそう言うと、朗らかな笑みを浮かべた。
「みんな、もう地面が見えたぞ」
力場魔法を使っていたカサンドラが口を開く。
最後にふわりと着地し、僕らは地面に降りた。
「ウソ! 本当にもう着いちゃったの? まだダンジョンに入ってから二時間足らずよ? こんな時間で21階層に来るパーティーなんかいないわ!」
「そうですか」
マリーが声を上げるので、僕はとりあえずそう答えた。
「アナタたちってば、ほんとに規格外ね。けど、ここからは近道はなし。それじゃあ、本格的にダンジョンを案内するわ」
「よろしくお願いします」
僕らは揃って頭を下げた。
歩きながらマリーは説明する。
「大まかだけど、50階層は冒険者ランクと大体あってると言われてるわ。1~10階層がEランク、20階層までがD,30階層までがC、40階層までがB、それより下はAランク以上――ってところね」
「なるほど、それでマリーさんは30階層までの案内を頼めるんですよね? ところで、サンダー・チーターはどの辺に現れたんですか?」
僕が訊くと、マリーは少し驚いた顔をした。
「あら、アナタたちもサンダーチーターのクエストに来たの?」
「いえ、まあ見つけられたら、いいかな――くらいで」
「この前、サンダーチーターが見つかったのは、34階層。その時、見つけたCランクパーティーが捕獲しようとして、全員がボロボロになってやられて、サンダーチーターに逃げられたわ」
「サンダーチーター、強いんですね」
Cランクパーティーといえば、僕らもそうだけどボルト・スパイクだってそうだ。
あのクラスのパーティーでやられるなんて、かなりの強敵だ。
「そうねえ、本来、海辺の生物じゃないから、このマルヴラシアン迷宮にいることはない生き物――という事も関係してるでしょうけど。パーティーの方も、対策なんか取れてなかったでしょうしね」
「海辺の生き物――のモンスターが多いってことか……」
「そう、こんな風にね!」
マリーが声をあげると、いきなり巨大な蜘蛛の分霊体が現れた。
そのファントムが、少し先の地面を攻撃する。
と、まるで絨毯をひっぺ返すように、そこから一枚の大きな布が持ち上がる。
その大きな布に見えたものーーは、超巨大なエイだった。




