3 ダンジョン案内人
マリーが広げて見せた新聞には、例の盛り過ぎイラストが載っている。
「いや……ゲットされても困るんですけど――」
「あれ? ……けど、もう一人、美しい剣士がいるわね?」
「新メンバーなんです」
僕はうっかり答えてしまった。
「カサンドラだ」
何故かカサンドラが名乗る。いや、名乗らなくてもいいのに!
と、マリーは新聞を読み始める。
「カサンドラって――そう! 青霊鳥密猟事件でブランケッツと戦闘になって、その後殺されそうになって、助けられた可哀そうな隊長さんじゃない! え? ブランケッツに入ったの? ビッグニュース!」
「ちょっと、あまり騒がないでください!」
僕がそう制止すると、マリーはにっこりと笑った。
「そうね、まだあまり知られてないことですものね。けど、こんな事を知ってしまったら、つい誰かに話したくなるものよ。だって、今、話題のブランケッツなんですもの!」
「ああ! もう、頼むからこれ以上、話をややこしくしないで下さい。……判りました。案内を頼みますから、なるべく騒がないで」
僕が観念してそう言うと、マリーはご機嫌な顔で微笑んだ。
「ありがとうございまーす! この『ゴージャス』マリー、中層30階層までは責任をもって案内しまあす!」
中層30階? …って、地下迷宮って、そんなに深いのか?
「え? ダンジョンって、地下何階まであるんですか?」
「大体どの迷宮も50階層くらいまであるけど、マルヴラシアン迷宮も同じくらい。ただし、45階層より下は禁足地――立ち入ってはいけない龍王の棲む領域ね」
「なるほど……」
僕らが感心していると、マリーは声をあげた。
「さあ、それじゃあ心躍るダンジョン探索に出発!」
僕らは互いに顔を見合わせると、思わず苦笑した。
*
――が、ダンジョン入口付近の洞穴は、この中にまで商店が入りこんでいる。
そして外より狭いので、ほとんどショッピングモールの中のような状態だ。
「到底、モンスターとか出るような状況じゃないな」
「うむ」
僕の言葉に、カサンドラが頷く。と、マリーが言った。
「それじゃあ、アタクシの案内のしどころね。アナタたちは、今、何ランク?」
「この前、Cランクになった…ばかり」
「そう。じゃあ、いきなり11階層まで行っても大丈夫かしら?」
「そんな事できるんですか?」
「近道を使うのよ」
マリーはウィンクをした。……いや、ちょっとまだ慣れないんだけど。
マリーは一階層の商店街めいた雑踏を抜けて、隅の方の細い通路に入っていく。
迷宮、という名に相応しく、岩石の通路は荒々しい岩肌を見せて曲がりくねっている。僕はふと、疑問に思ったことを訊いた。
「そういえば――迷宮の中なのに、いやに明るいんだけど?」
「ほとんどの場所に発光ゴケが自生してるからね。昼間の陽の下と、さほど変わらない明るさでしょう? けど逆に、迷宮の中にいると夜が判らない。だから疲れたら野営するのを忘れないことね」
マリーはそう言いながら、歩を進める。
「此処、このスロープを滑り下りて頂戴」
そう言ってマリーが指し示したのは、ポカンと空いた竪穴だ。
覗き込むと、下が真っ暗で着地点が見えない。
「だ、大丈夫なの?」
「大丈夫! このスロープを降りたら、そこは11階層の地点。こういう抜け穴を『ワープホール』って呼んでるんだけど、こういう処も知ってるのがアタクシたちの商売秘訣ってわけ」
マリーはにっこりと笑う。と、口を開いた。
「それじゃあ、誰から行く?」
「じゃあ、僕から行きますよ」
僕はそう言うと、穴の中に身体を入れた。
「これ、滑り台の要領で滑ればいいの?」
「そうよ。あまりお尻をつけてると、お尻が焼けちゃうかも」
マリーは最後、何故か嬉しそうに言った。
「なるほど。みんなは浮遊して進むのがいいってことね」
僕にはそういう力がないので、何か工夫しないと。
僕は傍の天井からぶら下がっている鍾乳石を手にした。
軟化して、それを根元からもぎとる。
「え? アナタ、今、なにしたの?」
ちょっとマリーに答えるのも面倒なので、黙ったまま作業する。
鍾乳石を軟化しておいて、ナイフで半分にする。
その円柱を半分にしたものに、足を置く。
軟化して足を沈め、足形を作った。
「これでいいかな?」
要は簡易版、鍾乳石スキーだ。
「エリナ、一応、リンクしといて」
「判った」
エリナが額に指をあててリンクをくれる。僕は皆に言った。
「じゃあ、行ってくる」
「うん。気を付けてね」
キャルが少し心配げに僕を見る。
ああ、なんて可愛いんだろ。僕は思わず、笑みを返した。
「判ってる、大丈夫だよ」
僕はそう言うと、スキーの要領で、竪穴を直滑降した。
「ひょーおうっ!」
かなりのスピードだ!
ちなみに止まる方法は考えてない。何故なら
「硬化!」
最終的に、ガアンッ! と僕は岩壁にぶつかった。
いや、僕でなければ死んでたかも。それくらい凄い勢いの衝突だった。
けど、とりあえず大丈夫だ。念話で連絡しとこう。
“こっちは大丈夫。そのまま降りると凄い速度で落ちるから、スピードに気をつけるように皆に言って”
“判った、言っておく。じゃあ、キャルちゃんが行くぞ”
しばらく待っていると、穴の中からキャルが飛び出してきた。
「きゃあっ!」
やっぱりスピードがつきすぎている。僕は全身をゴムの弾力に変化させる。
そこにキャルが僕の腕の中に飛び込んだ――みたいな格好だ。
「――大丈夫?」
「う、うん」
すぐ間近にあるキャルの顔に、僕は内心ドキドキしながら訊いた。
キャルが少し顔を赤らめて頷いた。
“次はカサンドラだ”
エリナの念話が届く。と、少しするとカサンドラが穴から飛び出してきた。
カサンドラなら大丈夫かな――と、思ったが…
「わああぁぁっ!」
カサンドラが着地しようとして躓く。思い切り転びそうになるのを、僕はまた全身で受け止めようとした。飛ばされないために足元を重化しておく。
が、宙に浮いたカサンドラの胸が、僕の顔を強打する。
別に柔らかくない。鎧を着てるから。
というか、完全に硬い。
「す、すまない! 思ったより、速かった――」
「大丈夫? 足が怪我してなければいいけど」
胸の処で横を向いて、僕は抱えているカサンドラに訊いた。
「た、多分、大丈夫だ」
カサンドラが顔を赤らめて、横を向く。
「じゃあ、降ろすね」
カサンドラを降ろすと、カサンドラはそっと足を地面につけた。
「大丈夫そうだ。……ありがとう、クオン」
「うん、よかった」
まだちょっと顔を赤らめているカサンドラを見てると、なんか意外な気がした。




