2 カリヤの采配
呆れ顔のカリヤに、ネラは悪戯っぽくそう言った。
「単純な戦闘力以上――いや、以外かな? 何か特殊な秘密があの猫耳にあって、バルギラは自分の目的のために、それを欲してる」
「バルギラの目的って何だ?」
カリヤの問いに、ネラは三日月のように口を開いた。
「フフ、それはバルギラの野心次第だね。それがカリヤの野心と結びつくかどうか――」
カリヤは不意に真面目な顔をして、ネラに問うた。
「お前は……何が目的で俺と組んでいる?」
「ボク? ボクに興味が沸いたの?」
「ああ」
カリヤは短く答えた。ネラは微笑む。
「ボクはねえ――ぶち壊したいのさ。何もかも! カリヤみたいな最低の野心家の傍にいれば、きっとこの世界をぶち壊すきっかけがある。そう…思ったんだよ」
ネラはそう言うと、屈託のない微笑を浮かべた。
「……お前、笑顔とセリフが合ってねえぞ」
カリヤは面白くなそうに言った挙句、ふっと笑った。
「いいだろう。思い通りにさせてやるぜ、好きなだけぶち壊させてやる」
カリヤの言葉に、ネラは眼を妖しく輝かせた。
*
アジトに戻ったカリヤは、グレールを呼びつけた。
「グレール!」
「お呼びですか、ボス」
眼鏡をかけた鋭い目つきのグレールがやってくる。
「金だ」
カリヤは収納珠をテーブルの上に置いた。
グレールはそれを取って、ボタンを押す。と、テーブルの上に50億ワルドの札束が現れた。
「こ! これは――」
冷静な顔のグレールの表情が、驚愕に変わる。
「当面の運用資金だ、お前が管理しろ」
「は、はい」
グレールは金を元の収納珠に戻した。
「今、構成員はどのくらいいる?」
「……およそですが、100人前後かと」
「そいつらに金を渡して、豪遊させろ」
「は、はい?」
不思議そうな顔をするグレールに、カリヤは言った。
「金がある処には人間が集まる。男も女もだ。それでもっと構成員を増やせ」
「は、はい」
「あと遊ぶ時に、一つ条件を入れろ」
「なんでしょうか?」
カリヤはグレールの問いに答えた。
「ブランケッツという冒険者パーティーは、ギルドに『ひいき』されてる――という話をするんだ」
「『ひいき』……ですか?」
「そうだ。リーダーは転生者でチートの能力を持ってる。猫耳もいる。今の世の中は、移民や先住民を優遇しすぎている――と不満をぶちまけさせろ」
「判りました。では、そのように致します」
グレールは頷く。
「ところでヒモグラーは何人になった?」
ヒモグラーとはドクター・ロウに移植手術を受けて、ヒモグラ人間になった者のことである。いつからか、そう呼ばれるようになった。
「元のゼノンの部下の志願者が増え、現在15人です」
「よし、そいつらはグループのリーダーだ。そいつらに普通の構成員を配置しろ、人員配置はお前に任す。そしてヒモグラーのリーダーはジェットだ」
「ジェット? あの若造ですか?」
グレールが眉をひそめるのに、カリヤは鼻で笑ってみせた。
「あいつは使える。やる気があるし、頭も回転も速い。あいつをリーダーにすることで、やる気があれば若くても組織の中で上にいけると判らせるんだ」
「なるほど。そうすればヒモグラーに志願する者が、さらに増える――という事ですね?」
グレールは察したように頷いた。カリヤが薄笑いを浮かべる。
「どうだ、お前もなるか?」
「いえ、私は遠慮しておきます」
グレールは丁寧に答えた。
○ 〇 ○ ○ 〇 ○ 〇 ○
「……え? これが――ダンジョン?」
僕らは戸惑っていた。
なんか『地下迷宮』というから、鍾乳洞に入る小さな洞穴みたいのをイメージしていたのだ。
しかし眼の前に広がるのは、宮殿がその中にすっぽりと納まりそうな、崖に空いた超巨大な大穴だった。
「だいぶ……イメージと違うわね」
エリナも辺りを見回して言う。
無理もない。この穴周辺には店が立ち並び、露店も数多く出ている。
そしてその前の通りには、人、人、人の波。ほとんどが冒険者風の格好だ。
「これは賑やかだな――ダンジョン街、と言ったところか」
カサンドラもそう言ってため息をついた。
確かに賑やかだ。通りには新聞売りが声を上げてるし、客の呼び込みもいる。
あれだ。観光地に行くと「~名物いかがですかあ」と声をかけるやつだ。
……ダンジョンも一種の観光地化している。
「――お兄さんたち、ダンジョン攻略は初めてかしら?」
不意に声をかけてきた主を見て、僕は驚いた。
明らかにマッチョな体つきだが、何故かタンクトップみたいな薄着で、しかも口髭が生えてるのに女性言葉。これは――
「よかったら、アタクシがダンジョン攻略をレクチャーしてさしあげますわよ」
その屈強な男性は、色気たっぷり――を意識してか、ウィンクをした。
「い……いや、結構です……」
「そう言わずに、恐がらないで。アタクシは可愛い冒険者を見ると、ムラムラと手を出し――じゃない、貸したくなる性分なの。ね?」
ね? とか可愛く言われても、もう僕は恐怖で顔がひきつっていた。
「いえ、あのお構いなく――」
「オカマいなく――なればいいと仰るの、あなた!? まあ、可愛い顔してなんてひどい事を仰るのでしょう! アタクシ、もうすっかり傷つきましたわ!」
「いや、そんな事言ってませんてば」
焦る僕の後ろで、突如、エリナの爆発的な笑い声が弾けた。
「アッハッハッハァ! いや~、オネエさん、キャラ濃すぎでしょう。もう、サイコーだな!」
「エリナさん、笑ってないで助けてくださいよ」
「いやあ、あまりにも面白くて、見入ってしまった。ところで、オネエさん、何者?」
エリナの質問に、口髭マッチョはバッと距離をとると、胸に片手をあててポーズを決めた。
「よくぞ聞いてくれましたわ! アタクシは『ダンジョン案内人』、人呼んで『ゴージャス』マリー!」
ビシィッ! と、何故か横を向いて、額に指をつけるポーズをとる口髭マッチョ。
…ああ、マリーさんなのね。はいはい。
「それで『案内人』というからには商売なんだろ? つまり営業だ、怯えることはないよ、クオンくん」
「まあ、趣味と実益を兼ねてますけどね。アタクシは好みのタイプにしか声をかけないから」
何故か誇らしげに、隆々とした胸を張ってマリーが言う。
と、不意にキャルが僕の手を引いて、僕の前に出てくる。
「クオンは……ダメだから」
キャルがマリーを睨む。
「まあ、可愛い子猫ちゃん! ――ん? 美少年に猫耳ちゃん、眼鏡美人……って、もしかしてアナタたち、『ブランケッツ』?」
「そうですけど」
なんか嫌な予感がする。と、マリーは懐から新聞を取り出してみせた。
「やだ、アタクシったら! すっかり、今や話題のパーティーをゲットしちゃうなんて。さすが、アタクシ!」




