5 レース・クエスト
「レース形式のクエストって、何?」
僕はガドに訊ねた。ガドが説明しようとして、スーを振り返る。
スーがにっこり笑って口を開いた。スーの方が説明がうまい、って事か。
「普通は一つのパーティーがクエストを受注したら、他のパーティーはその邪魔をしません。クエストが出てることを知らずにモンスターを討伐してしまった場合などは例外ですが、知ってて他パーティーのクエストを横取りするのはマナー違反です。最悪、ギルド登録をはく奪されます」
スーは指をたてて、まずそう話した。
「ですがレース形式のクエストとは文字通り競争で、誰が、どのパーティーがクエスト完了しても構わないのです。依頼者は一番最初の完了者に、報酬を出します。これは緊急性の高いクエストが多く、報酬額が高いので、数多くのパーティーがこの報酬を目指してクエストに挑むことになります。パーティーはそこで競い合いますが――ひどい時には、他のパーティーを妨害するために攻撃したり戦闘になったりすることがあります。ちょっと危険土が増すんです」
「で、そういうレース・クエストが発注されたって事なんだね? ボルト・スパイクは受けるの?」
スーの話を聞いた僕は、ガドにそう訊いた。
ガドが不敵な笑みを浮かべる。
「おう! 今回のクエストの報酬は、1000万ワルド! 中々の大金だからな。オレたちも参加することにしたぜ」
「そうなんだ」
「それで、ブランケッツはどうするのかな、ってランスロットが言ってたんだよ」
僕はキャルの顔を見た。キャルは少し首を傾げる。
「ちょっと判らないけど……あんまり他のパーティーと戦ったりするのも嫌だし……僕らはいいかな」
「そうか。まあけど、ある種、お祭りみたいなもんだからな。クエスト内容だけでも、ギルドで確認するのも悪くないぜ」
ガドの言葉に、僕は頷いた。
「うん、見てみるよ、ありがとう」
「おう! オレたちはその準備があるからな。じゃあな!」
そう言うと、ガドは手を挙げて去っていった。
後ろを歩くスーが、少し歩いたところで振り返り、ちょっと礼をした。
「……なんか夫婦みたいだね」
「そうね、お似合いの感じ」
キャルが微笑む。
僕らは思わず、笑い合った。
*
ギルドに行くと、やはりそのレースクエストの事で話はもちきりだった。
僕らは受付のミリアのところに話を聞きにいった。
「こんにちは。なんか、レース・クエストが出てるって聞いたんですけど」
「あ、クオンさんにキャルさん。今日はエリナさんは一緒じゃないんですか?」
「書店でなんか話してます。後から合流しますけど」
美人エルフのミリアは、相変わらずの美貌で笑顔を浮かべた。
「まあ、エリナさんらしいですわね。それで、レース・クエストにブランケッツも参加しますか? 一応、参加登録もしてもらう方が把握しやすいですけど」
「そもそもですが、どんなクエストなのか知りたいなって思って」
僕の言葉に、ミリアはにっこり微笑んだ。
「はい、じゃあご説明いたしますね。今回のクエスト内容は、Bランクモンスター、サンダー・チーターの捕獲、です」
「サンダー・チーター…ですか」
いまいちピンとこないが、Bランクというからには、それなりのモンスターなんだろう。
「はい。サンダー・チーターは本来、南域に住むのでこの地域では大変珍しいモンスターですが、最近、マルヴラシアン迷宮で、その一匹が確認されました。どういう経緯でそこまでやってきたのかは不明ですが、依頼主はこれを生きたまま捕獲した者に1000万ワルド+必要経費を出す、と言ってます」
「へ~、そうなんですか。依頼主さんは、サンダー・チーターを保護したいんですね?」
「そういう事です。依頼主さんは、バルギラ公爵です」
あ。あの人ね――
僕は裁判所の動乱の時に会った、年齢不詳な水色の髪の人を想い出した。
「サンダー・チーターはその魔石が魔能を発揮するので、乱獲されて今は絶滅寸前の魔獣なんです」
「魔能? っていうと?」
「サンダー・チーターは走る時に稲妻を全身に帯びたまま、凄まじい速さで走るのです。サンダー・チーターの魔石は持った者に、魔力の有無と関係なくその力を発揮するので、レアアイテムとして極めて珍重されました。この発見されたサンダー・チーターも、そのまま放置しておけば誰かに狩られてしまいます。バルギラ公爵はそれを危惧して、報酬を出す代わりにサンダー・チーターを生きたまま捕獲したい、と考えてレース・クエストを発表したんです」
「はあ……なんか、いい人そうな行動ですね」
僕がそう言うと、ミリアはちょっと声をひそめた。
「――と、いう表上の理由ももちろんありますが、現在、バルギラ公爵は太守代理を務めてます。その名前を浸透させるのに、お祭りになるようなレース・クエストを出した――と、いう見方もできますね」
「ミリアさんが、そんな事言っていいんですか?」
「ここだけの話。ナイショですからね」
そう言って、ミリアは悪戯っぽくウィンクした。
……ちょっと、刺激が強すぎると思います
「それで、このクエストはCランク以上の冒険者が条件なのですが――」
「あ、それなら僕らは無理ですね。僕らはまだDランクだし」
「――ブランケッツはCランクの昇格になりました」
え? びっくりしてミリアを見ると、にっこりと微笑んでいる。
「青霊鳥の密猟の真相究明として、特別措置としてギルドマスターが決断されたのです。というわけで、ブランケッツもこのレース・クエストを受けますか?」
「そう……ですね――」
僕は傍のキャルを見た。
「サンダー・チーター……できたら、保護してあげたいね」
「そっか、そうだよね。じゃあ、ブランケッツも参加の方向で」
「はい、判りました。ただ、サンダー・チーターの目撃情報は、中層以降です。結構、深い場所まで行くことになりますよ」
ミリアの言葉に、僕は笑って返した。
「無理だったら、諦めて帰りますよ」
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『これからの事、話したく 御足労いただけると有難き B』
そんな手紙を持ってカリヤの処へやってきたのは、ハルトとオレンジ髪をツインテールにした少女であった。
「バルギラ様がお話をしたいと言っておられる。カリヤ――」
真面目な顔をしたハルトが、言葉の最後で不可解だという表情に捉われた。
「――様…?」
(操霊架の効果か。俺に従う気持ちがあるのが、自分でも不思議をいったところか)
「フン。どうやら、俺を敬う気持ちが出てきたらしいな。そこの女は誰だ?」
カリヤはツインテールの少女に訊ねる。
「はい、カリヤ様、ワタシはポートと言います。以後、お見知りおきを」
「フン、この前、バルギラをテレポートさせた奴だな。ハルト、まさか俺に独りで来いと言ってるんじゃないだろうな?」
カリヤはハルトに言った。と、ハルトが応える。
「はい、カリヤ様。バルギラ様は連れの者一人ならば、ポートが連れてこれるので帯同して構わないと仰ってました。それと――」
「なんだ?」
「私のことは、今後コードネーム『チェンジ』でお呼びいただければ、と思います」
ハルトは跪くと、カリヤに向かって頭を垂れた。
カリヤはにやりと笑った。
「そうか。ちなみにカエデはなんていうコードネームなんだ?」
「カエデは『マルチ』でございます」
「一つ訊くが、お前たちは俺とバルギラの命令、どちらを優先するんだ?」
ハルト――チェンジは、少し困った顔をしたが答えた。
「申し訳ありませんが、その場合はバルギラ様でございます」
(チッ、ギュゲスの野郎、完全にバルギラの言いなりだったんじゃねえか)
カリヤは心の中で毒づいた。だが切り替えて、すぐに声をあげる。
「ネラ、一緒に来い」
「うん、わかったよ」
「じゃあ、この二人だ」
「じゃあ、あたしに気持ちを同調させてください。お二人を移動します」
ポートがそう言って、並んで立った二人の腕に少し触れる。
と、次の瞬間、二人は夜の森のなかにいた。眼の前には一台の馬車があった。




