魔動バイクがパワーアップ
魔動バイクがパワーアップした。正確に言うと、ミスラムが大きくなったので本体にくっつくほか、先端に角を付けることができるようになったのだ。
走らせながらスピードを上げてポイズントードを串刺しにする。
衝突のショックもミスラムの体が吸収してくれて、ハンドルを取られずに済んだ。遠距離から毒を吐かれたけど、バイクに備え付けたシールド機能で防ぐ。攻防一体の最強魔動バイクの完成だ!
「マスター、スピード出しすぎでは!?」
「バランス機能もあるから大丈夫だって! もっと出すよ!」
沼地を越えて平原を歩いているオークがいたので突き殺す。さらに魔動バイクを半回転させて角から外した。
自信作が思った通りに動くのはすごく楽しいね!
魔物を何匹も殺していきたい!
「マスタ~~」
後ろから弱々しい声が聞こえたので振り返ると、顔を真っ青にしたユミがいた。酔ってしまったみたいだ。
後ろの方が遠心力は強いからね……。テンションが上がっていたので暴れ過ぎちゃったみたい。これは反省しなきゃ。
「ごめんね。落ち着いたからダンジョンを出よう」
返事をするのも厳しいらしく、ユミは俺の体をギュッと抱きしめて顔を埋めた。
急いで出口に向かうと数名の探索者とすれ違う。ポーションを売ってくれと言われた気もしたけど、ユミの体調が悪いから本日は休業だ。無視して地上まで出てしまった。
* * *
ダンジョンを出たら魔動バイクの電源を切ると、二人とも降りて歩くことにした。ユミはマジックバッグ型のリュックを背負っていて、俺は魔動バイクを手で押している。
「マスターに虐められました」
頬を膨らませて俺を見上げている。睨んでいるつもりなんだけど、かわいさが抜けてないから怖くはないんだよね。
「ゴメンって。調子乗りすぎた。お菓子あげるから許してくれないかな」
「……緊急時以外は止めてくださいね」
「うん」
腰につけているマジックバッグからチョコバーを取り出して渡したら、機嫌が治ってしまった。この子、チョロすぎないだろうか。知らない人についていかないか心配になるぐらいだぞ。
例えば目の前に歩いている青年とかそうだ。清潔感があってちょっとカッコイイ。彼が……ん? 睨めつけながら、俺の方に来てないか?
「天宮裕真君だね?」
「そうだけど、誰だっけ」
名前を知っているってことは、どこかであったことがあるのかな。
ユミやクロちゃんが警戒しているけど、知り合いならケンカになることはないんじゃないかな。
「俺の名前はXXXだ」
「そうなんだ」
聞いても思い出せない名前だった。親しくない人なんだろう。
「興味がなさそうって顔だな!」
「仲良くない人なら、当然じゃない?」
「……ぐっ」
正論を突きつけたらようやく喋るのを止めてくれた。一方的に怒っているみたいで面倒だったから助かったよ。
「家に帰りたいから、早くどっか行ってくれないかな」
「なんだって! この俺が声をかけてやったのに!」
あ、思わず口に出しちゃったみたいだ。さらに怒っている。もういいや、無難に終わらせるんじゃなく、雑にあしらおう。
「声をかけて欲しいなんて思ってないから、どっかに行ってくれないかな? 暇な君と違って俺は仕事帰りで疲れているんだよ」
「この俺が……ひま……だと……っ?」
爆発寸前の怒りを抑えているのか、プルプルと体が振るえている。プライドが高いのかな。襲ってきそうな気配があるんだけど、クロちゃんが俺の前に出てくれたことで状況が変わる。
魔物を見て一瞬だけ怯えた顔を見せたのだ。
もう攻撃なんてする根性はないだろう。
前へ出そうになったユミを手で止めておく。
「俺は天宮を越える男だ! 覚えておけ!」
クロちゃんに怯えた男は、逃げていってしまった。あっちは下山するコースだから、しばらくは戻ってこないんだろうな。静かになるから助かるよ。
「マスター、塩を持っていますか?」
「ないけど何に使うつもり?」
「師匠からムカつく相手には塩をぶつけるといいと聞きました!」
ぶつけるのは違うんじゃないかな?
攻撃になっちゃうよ。
「悪い運気を払うためだから、玄関に巻くだけでいいんだよ」
「そうなんですね。ナメクジみたいに死ぬのかと思っていました」
「人間は皮膚があるから、塩だけじゃ殺せないよ」
「残念です……」
これでユミが人間に塩をぶつけることはなくなるだろう。ちゃんと教育できている俺は偉いな。
邪魔が入ったけど、移動を再開して俺たちが住む小屋に戻った。
玄関に魔動バイクを置いていると、ユミは裏にある畑を見に行ってしまう。ずっと気になっていたんだろうね。
シート代わりにミスラムを魔動バイクにかけてから、ユミの行った場所に行く。
回復ポーションの原料になるブルーボルド草の群生ができていた。他にもイエローボルド草まである。
順調に育っていることもあってユミは嬉しいようで、手を挙げてクルクルと回っている。
先ほど会った男のことなんてすっかり忘れていそうだ。それは俺も同じだけどね。
名前どころか顔すら覚えてなかった。





