しょんぼりクロちゃん
一仕事終えた俺は魔動バイクを走らせて北の沼地エリアに来た。
カエルなどの魔物が多数出現する場所だ。沼地から突然現れることもあって、油断しているとやられてしまう。誠の護衛があったときすごく楽できたんだけどなぁ。あいつら、探索者ギルドの依頼を受けて北海道にいるんだよ。
もうすぐ帰って来るとは言っていたけど、本当なのかな。トラブルに巻き込まれやすい体質なので、ヤバイ敵に囲まれているんじゃないかなと思っている。俺の渡したポーションで乗り切ってくれることを祈るよ。
「マスター、クロちゃんが先行して魔物を倒したいらしいです。どうします?」
黒死蜘蛛と呼ばれるほど人間には恐れられているけど、魔物相手はどうなんだろう。得意の毒は効くのだろうか。
いやいや、その前に沼地を移動できるかも謎だ。泥に足を奪われないだろうか。心配はつきないけど、襲撃してきた探索者を無傷で捕らえた実績もある。
実力は確かだ。
本人と言っていいのか分からないけど、頑張るとはりきっているのだから任せても良いか。最悪死にかけても上級回復ポーションをぶっかければ傷は何とかなるしね。
「いいよ。即死だけしないよう言い聞かせておいて」
「マスター、ありがとうございます」
ユミが魔動バイクから降りると、しゃがんでクロちゃんに説明を始める。
「マスターからの許可が出ました。近づく魔物の排除が仕事ですからね。深追いは厳禁です」
言葉を理解しているため、クロちゃんは頭を何度も縦に振っている。
知能はどのぐらいあるんだろうな。小学生低学年ぐらいだろうか。ユミの反応を見る限り、もう少し高い気がしているけどわからない。
クロちゃんだけは未知の領域だ。
「……それと最後に重要なことがあります。即死はしないように。生きてさえいれば元に戻せるので、そこだけは本当に気をつけてください」
右手を挙げて了解の意思を見せたクロちゃんは、反転して沼地に向かっていく。
「大丈夫そう?」
「マスターが心配するのも分かりますが、あの子は賢いのできっちり仕事をしてくれますよ」
「期待しているよ」
お手並み拝見だね。ダンジョン行商はこういった楽しみもあるから面白い。
後部シートにユミを乗せると、ゆっくりと走らせて沼地へ入る。水陸両用なので壊れることはなく、また沼にタイヤが取られることもなかった。しっかりと前に進んでくれる。
速度を出しても問題なさそうだけど、泥が跳ねてユミの装備が汚れそうなのでファイヤーバードが襲ってくるみたいな事態が発生しない限り、ペースはこのままだ。
先行しているクロちゃんが、大型のトンボ――マーダーフライと遭遇した。
二匹だ。大きさは成人男性ぐらい。攻撃性の高い魔物だけど、かみつきぐらいの攻撃しかないので行動パターンは単純だ。
魔動バイクを止めて様子を見守ることにした。
「クロちゃん、やっちゃえー!」
ユミの声援を受けてクロちゃんが跳躍した。マーダーフライが噛みつこうとしたけど、体をひねらせて回避して、尻から糸を放出する。狙い撃ちしたんだろう、2匹とも透明な羽に絡みついてマーダーフライは落下していく。
ぼちゃんと音を立てて沼地に落ちた。
こうなってしまえば、何も出来ない。クロちゃんは糸をさらに出して簀巻きにしてしまった。
「あっという間に勝利したね」
「マスター、まだです!」
沼地の奥の方を指さしたユミ。視線を移動させるとワニが近づいていた。
こんな所にいるの!? 前には出てこなかったんだけど運が良かっただけかな。
クロちゃんも気づいているみたいなので声をかけずに見守っていると、糸で簀巻きにしたマーダーフライをワニに向かって投げた。
腹が減っているだけならこれで戦闘が回避できるかもしれないと僅かに期待したんだけど、すぐに裏切られてしまう。ワニはマーダーフライを無視してまっすぐ、こっちに向かっているのだ。
目的はクロちゃんじゃない。柔らかくて可愛いユミっぽいぞ。
これは宣戦布告されたな。腰にぶら下げていた絶刃を抜く。ヒヒイロカネとドラゴンパダーを使った刀身は赤く炎が揺らめいているように見え、吸い込まれそうなほど美しい。
空気すらも切ってしまうほど高い性能なので、ワニごときなら簡単に両断できるだろう。
「不届き者を殺してくる」
「マスター? え、クロちゃんの戦いは?」
「さっきの戦いで十分だよ。サポートお願いね」
「わかりました」
可愛いペットのお披露目を潰されて不満そうにしているけど、ユミを狙っているワニがいるんだから仕方がないじゃないか。また活躍の場を作ってあげると思いながら、魔動バイクを降りる。自動バランスモードが起動して、倒れることはなかった。
ワニの近くに淡い光を放つ青白い無数の蝶が出現した。ユミが使役している下位精霊の幽灯蝶だ。接触すると放電して痺れさせる。
驚いたワニはひっくり返ってしまった。
沼地の中を歩いてクロちゃんを追い越すと、ワニの頭を一突きする。抵抗なんて全くない。頭蓋骨すらも豆腐を切るような感覚で貫いてしまった。
改めて絶刃の威力を体感する。
こいつなら、鋼鉄の扉すらも斬れそうだ。
錬金術の素材を盗みたい放題だよね。しないけどさ。
「マスター、ちゃんと生死確認しましたかー?」
「今するー!」
やばい。忘れてた。ワニを蹴っ飛ばして様子を見るけど動かない。ひっくり返してもちゃんと脳天を貫いているのが分かった。
うん。とどめは刺せている。
死体の確認が終わるとクロちゃんが視界に入った。近くに簀巻きにしたマーダーフライを置き、頭を下げて寂しそうにしている。
活躍の場を奪ったから、しょんぼりしているのかな。
最近になって感情が豊かになってきた気が。これもユミが教育した成果なのかもしれない。
虫を操る人工精霊なんだから、あり得そうだよね。
「クロちゃんはよくやったよ。ユミの所に戻っていきなさい」
一瞬にして敵の魔物を倒したんだ。良い働きをしたというのは本音である。
俺の言葉を聞いたクロちゃんは、ユミに飛びついて抱きしめてもらっていた。頭を撫でてもらって無表情なのに嬉しそうに見える。
魔物との友情……親愛かな?
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