新しいダンジョン行商スタート
山奥にある埼玉ダンジョンが限定的に解放された。
俺とユミは用意された小屋で生活をしている。知晴さんは気を使って床に隠し扉を作ってくれたようで、地下室まであった。転移門はここに置いていて、頻繁にばーちゃん家と行き来している。その際にご飯もご馳走してもらっているので、食費が浮いてラッキーだ。
ばーちゃんはユミを孫のように思っているのか、会うたびに甘やかしているので、迷惑をかけている感じはしない。むしろ恩返しをしていると思っている。
今後も遠慮なく、お邪魔させてもらおう。
「マスター、準備はできましたか?」
ばーちゃんのことを思い出していたら、ユミに声をかけられた。
頭にはドラゴンの皮で作ったヘルメットをかぶっていて、防御性能の高いワンピースを身につけている。背負っているマジックバッグ型のリュックには、「各種ポーション販売中」という登りまであって、一目で行商人だと分かるスタイルだ。
そう、今日から俺たちのダンジョン行商が再スタートする!
慣れてないダンジョンへ入るため、俺だけじゃなくユミもそわそわして落ち着きがない。
商品は売れるだろうか、新しい素材は手に入るだろうか、無事に帰れるだろうか。
いろんな気持ちがめぐっているけど、表に出すことはしない。ユミが不安がっちゃうからね。
何があっても無事に帰る。その覚悟さえ持っていれば、どうとでもなるもんだ。
「もちろん! ユミのほうこそ忘れ物ないよね?」
「はい。マスターのお菓子までちゃんと持っていますよ」
俺じゃなく、ユミが食べたいだけなんだけどね。
大人なので分かっていても、あえて指摘はしない。よくできましたと頭をグリグリと撫でると、手を離したら髪を直し始めた。
「マスター、たまに私を子供扱いしますよね……」
「嫌だった?」
「そうじゃないんですけど、成長しているんですよ」
途中で止まってしまった胸に手を当てて、自慢げに言っている。
肉体的ではなく精神的な成長を言っているのは明白だ。
認めてしまったら遠くへ行ってしまいそうで少し寂しい。だが俺をしっかりサポートして支えてくれているので、確実に成長しているのは間違いなく、否定するなんて気持ちにもなれなかった。
「ああ、知っているよ」
だから認めるのではなく、気づいていると伝えるだけに留める。
これが俺の限界であり、器の小ささを証明させられたように感じた。
「外へ行こうか」
表情から内心を見透かされたくなかったので、返事を待たずして小屋を出た。
玄関先に止めていた魔動バイクにまたがる。エンジンをつけると静かに起動した。スロットルを回せばオフロード仕様のタイヤが回転して、すぐにでも走り出すだろう。
車体が沈んで、後ろに重みを感じた。
ユミが乗ったみたいだ。
「クロちゃん行くよ~!」
名前を呼ばれると屋根から飛び降りてきた。背にはミスラムが乗っていて、魔動バイクでの移動中に運んでくれる手はずとなっているらしい。
スロットルを軽く回して魔動バイクを走らせる。
自転車ぐらいの速度で山小屋まで移動すると、知晴さんの姿が見えた。
「おはようございますーー!」
後ろに乗っているユミが挨拶すると、手だけでこっちに来いと合図を送ってきた。
内容が気になったので寄り道をすると決めて、近づくと魔動バイクを止める。
「これから行商か?」
「うん。埼玉ダンジョンで初営業をするんだ」
全体を管理している知晴さんからは許可を得ているので、中止しろとは言われないだろう。呼び止めた理由が知りたくて黙って待つ。
「今日は沼地方面に行っている探索者は少ない。東側に行った方がいいぞ」
なんと探索者の居場所を教えてくれた!
お客がいないところで商売をしても無駄足になるだけだから助かったよ。
「どうして東なの? ここに来る人ってラルクノア目的だから、北にある沼地を目指さないなんて不思議だね」
「他にも群生地がないか、改めて再調査することになったんだよ。しばらくは東や西側に人を派遣させる」
ダンジョンには傾向というのがある。
渋谷であれば洞窟系なので薬草周りの素材は、ほぼ出てこない。鉱石や武具などは手に入るけどね。また出現する魔物もトレントといった植物系を見ることはなく、ゴーレムやアンデッド、生物系が多い。
俺が拠点にし始めた埼玉ダンジョンはフィールドによって動植物や魔法生物などが出現し、素材は植物がメインだから、ラルクノアや他に貴重な薬草があるんじゃないかと探しているのだろう。
可能性は低いけど、第二のミスリル銀鉱脈を発見することもあるだろうしね。
「おー、それはいいことを聞いたよ。しばらくは西か東に行って商売してくるね」
「それがいい」
「うん。それじゃまたね」
「気をつけろよ!」
返事の代わりにユミが手を振ると、俺たちは魔動バイクを走らせてダンジョンへ入った。
疑似太陽の光が降り注いでいる。風もあって心地がよい。ダンジョン内は天気や気温が一定なので、いつきてもほどよい暖かさなのが助かる。
「マスター、東側にいきます?」
「そうしよう」
ユミはリュックに刺していた登りを伸ばして、遠くからでも見えるようにしてくれた。
周囲に魔物の気配はない。
風よけのゴーグルをつけてから、スロットルを回してアクセルを全開にする。
静かにだけど、ものすごいスピードで走り出した。
新しい場所、新しい道具、新しい仲間と一緒に、今日から行商を再開するんだ。
過去最高の売上を狙っていくぞ!
2章終了です!
読者様の応援でカクヨムのドラゴンノベルス小説コンテストの中間を突破しました。
この場を借りてお礼申し上げます。
最終結果は9月頃らしいので、それまでは更新を止めたいなと考えています。
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