新しい素材(お金)が欲しいな
「これで放置ダンジョンを狙う人はいなくなったんだよね?」
「そうだ。ようやく限定開放ができる」
「具体的にどうするつもりなの?」
ダンジョンは探索者の免許さえ持っていれば入れる。国外だと例外はあるけど、少なくとも国内においては一般的な認識だ。
でも限定と付くのであれば話は変わる。例外的な対応をするだろう。
「探索者ギルドが品行方正なパーティをいくつか選んで、そいつらだけに探索の許可を出す。予定としては50名から100名ぐらいの規模になるだろう」
「騒がしくなりそうだね」
「これでも人数はかなり絞ったんだ。我慢してくれ」
眉を下げて困った顔をしていた。
知晴さんとしては手を尽くした結果なんだろうけど、なぜ苦労してまで人数制限をする必要があるんだ?
宿泊場所の問題があるとしても、解決する方法はいくつかある。
例えば森を切り開いてキャンプ場を作るとかだ。探索者は仕事がら野外での寝泊まりになれているし、食料も自前で用意させれば運営側の負担は軽くて済む。ラルクノアが手に入るかもしれないと分かれば、探索者もそのぐらいの不便は受け入れるだろう。
もちろん、人が増えれば静かな生活は遠のいちゃうから、俺としてはお断りしたいんだけどね。
「どうして人数を絞るの?」
「ラルクノアの出荷量を調整したいからだ。市場価値を維持しながら、錬金術ギルドと探索者ギルドは荒稼ぎするつもりだぞ」
群生地に生えているラルクノアを一気に売り出したら、価格は暴落するか。確かに調整は必要だし、そのための限定公開ってことね。
ようやく納得できたけど、次に新しい疑問が浮かんだ。
「限定になった理由はわかったけどさ、どうして錬金術ギルドはラルクノアを独占しようとしないの?」
面倒な調査を嫌がった探索者ギルドは、放置ダンジョンの管轄を錬金術ギルドに譲っていた。本来であれば独占可能な状況だったんだよね。
市場を調整するほど慎重に動いているのに、どうして探索者ギルドが入る隙を与えてしまったんだろう。
「ラルクノアほどのレア素材になると、独占する方が危険なんだよ」
「ん? どういうこと?」
「有力なところとは手を組んで分け前を与えておけば、妬んだ連中が手を組んで襲ってきても対応出来るってことだ」
「ああ、そういうことかね」
鈍い俺でも、ここまで言われればわかった。
錬金術ギルドだけが利益を独占すると、最悪の場合、探索者ギルドが敵に回る。
そうすると、どうなるか?
探索者が派遣されず、ラルクノアの採取が不可能になるだろう。また放置ダンジョンの管理権を返せと、うるさく言ってくるかもしれない。ロビー活動なんてされて法が変わったら最悪だ。
そういった面倒なことを回避するために、手を組んだらしい。
「俺は特別な依頼がない限り好き勝手していいんだよね?」
「その認識で問題ない。運営はすべて俺が担当する」
「これで心置きなく、錬金術で遊べるよ」
「マスター、よかったですね!」
静かに話を聞いていたユミが、喜んでくれた。
「そうだね。ダンジョン行商も再開できるだろうし、いろいろと準備しよう」
特に必要なのがファイヤーバード対策だ。倒すのは無理だとしても、安全に逃げる手段は確立しておきたい。
草原を走るバイクなんてのもよさそうだ。魔石を燃料に動かすものであれば、補給も容易だしね。
やることが山積みだ! 楽しくなってきたぞ!
「マスター、お金はどうするんですか?」
「あっ……」
半目でユミに見られてしまった。
俺が考えていたアイデアを実現するには、結構なお金が必要となる。知晴さんに多額の金を借りている今、新しく資金を工面するのは難しいだろう。
「渋谷にある部屋の家賃、光熱費の支払いも残っています。錬金術ギルドから出る少ない報酬は、それらで半分以上は使ってしまうので、別の方法でお金を稼がないと、行商の準備はできないかと思います」
あの可愛いユミが現実を突きつけてくる。
俺の心はボロボロだ。
人間という生き物は、どうして貨幣を発明してしまったんだろう。なければ、物々交換でみんな幸せになれたはずなのに。
そうだ! いいアイデアが浮かんだぞ! 俺が持っているものと交換すればいいんだ!
「ばーちゃんの倉庫に眠っている素材を売るか、物々交換すればいいんだよ! そうすれば準備はできる!」
すべての問題を解決する天才的な発想だな。
当然、ユミも賛同してくれると思ったんだけど、表情を見ると違いそうだ。
「マスター、あれは師匠が時間とお金をかけて集めたものです。気軽に手放すのはよくないかと……」
「必要なことだよ? 贅沢するためじゃないんだから、ばーちゃんも許してくれるんじゃないかな」
「ですが……なんというか……その……」
「ユミちゃん。裕真には、人の感情が分からないんだ。その辺にしておこう」
すんごく失礼なことを知晴さんに言われた気がする。俺だって人の心は分かるぞ。特にユミのことならね!
「金は俺が出してやるから、準備は進めていいぞ」
「いいの!?」
「限度はあるから、際限なく買うなよ」
「わかってるって。欲しいものをまとめておくから、後で見ておいて! 多くても数百万で済む話だから!」
悪いことがあった後には良いことが起こる!
まさか知晴さんがお金を出すと言ってくれるとは思わなかったよ!
「知晴さん、あまりマスターを甘やかさないでくださいね?」
「当然だな。裕真からリストをもらったら、ユミちゃんと相談しながら決めようと思う」
「お願いします!」
あれ? 俺にだけ決定権がなさそうな話をしているぞ。
使う本人に聞かなくていいのかなと思ったんだけど、ユミが入ってくるなというオーラを出しているので口は閉ざしておく。
変なことを言って怒られたくないからね。
悪いようにはならないでしょう。
やっぱり俺は人の心の機微が分かる男だな。





