追い詰められた村田
侵入者たちを捕まえた後、知晴さんは錬金術ギルドに電話をしている。どうやら錬金術ギルド長と話しているみたいで、朝になるとやってくるらしい。ラルクノアも狙われていたんだから当然だよね。
今は深夜1時頃なので、到着まで時間はかかる。
後始末は知晴さんにまるっとお願いして、俺とユミは先に寝かせてもらおう。
一緒に戻ると荒れた部屋が出迎えてくれた。ベッドはひっくり返っていて一部は壊れている。床には木片や服などが転がっていて、すぐには寝られない状況だ。
「マスター、どうします?」
「うーん。悩ましいね」
ベッドを修理してたら朝になってしまう。片付けにも時間はかかる。
俺の眠気はマックスで、ヤル気は全く起きない。ユミも目をこすっているから同じだろう。
動くのすら面倒だ。転移門でばーちゃん家に行って寝ようかなとも思ったけど、戻ったときにギルド長とご対面するのは避けたい。
「ミスラムをベッドにして寝ようか」
床に落ちていたタオルケットを拾うとミスラムを長方形の形にして、ある程度の柔らかさを維持させる。これでウォーターベッドのような感触になった。ただ通気性がまったくないので、寝心地はよいとまで言えないけど、一晩ぐらいなら我慢できる。
残念なことにミスラムベッドは1つしかないため、眠くなってウトウトし始めたユミを寝かせる。
俺は適当な場所で横にでもなるか。
離れようとすると腕を引っ張られた。
「マスター、一緒です」
半分寝かけているのにワガママな子ではあるが、俺はユミのお願いに弱い。
断るなんてできなかった。
「寝苦しくなるよ?」
「いいんです」
「そっか。わかったよ」
ユミの横で仰向けになる。暖かくなった体が触れて体温が上がる。
隣で静かな呼吸音を聞きながら目を閉じると、すぐに意識が遠のいていく。
襲撃されたというのに心安らかに眠ることができた。
* * *
「お前、襲撃されたばかりだというのに、よく寝られるな……」
呆れた声が聞こえたので重い瞼を上げると、知晴さんの顔が視界いっぱいに広がった。寝起き一発目に太った中年男性はキツイ。新手の嫌がらせだ。
「何しに来たの?」
「はぁ……。寝て記憶もリセットされたのか? ギルド長の木島さんが来たから、すぐ降りてこい」
もうそんな時間なんだ。早いな。寝不足気味の体を起こすとユミを見る。すやすやと寝ていたので、体を揺らして声をかけることにした。
「朝だよ。ギルド長が来たみたいだから外へ行こう」
「マスター、おはようございます」
目をこすりながら起きてくれた。寝起きはよいタイプなので、体を伸ばすとすぐにミスラムベッドから降りる。
「知晴さんもおはようございます」
「おはよう」
俺の時とは違って笑顔で返事してた。ロリコンか? だったらユミを近づかせるわけにはいかない。
ミスラムベッドから飛び降りて、二人の間に入る。
「待たせたらマズイ相手なんでしょ。早く行こうよ」
「……そうだな」
クロちゃんは部屋で待機するようにお願いしてから寝癖を整えて山小屋を出ると、ヘリコプターが目に入った。
近くに初老の女性がいる。ばーちゃんみたいなオーラがあるし、彼女がギルド長の木島さんなんだろう。
隣には顔面蒼白の中年男がいて、取り囲むように革鎧を着た男が五人いる。腰には剣がぶら下がっていて、見た目からして探索者だ。
地面には侵入者の10名が拘束された状態で転がっている。一人を除いて意識を失っているようだ。虫に群がられたショックで目覚めてないのだろう。精神がおかしくなってなければいいんだけど……。
「木島さん、朝早くからお呼び立てして恐縮です」
「気にするな。私とお前の仲じゃないか」
ギルド長と知晴さんが悪役みたいな笑顔を浮かべながら握手をした。
すぐに手を離すとギルド長の木島さんは、中年の男性を見る。
「私のラルクノアを村田が狙ったのは本当かね?」
「ご、誤解だ! 宇田川は嘘をついているっ!」
分かりやすく動揺していた。
やりとりを見る感じ、村田さんってのが俺たちを狙った主犯のようだ。
知晴さんは、一人だけ意識を残している男の髪をつかむと、無理やりに顔を上げさせる。
「正直に話せば命は助けてやる。お前の借金だって肩代わりしてやる」
「本当か!? 嘘ではないだろうな?」
「別に断ってくれてもいい。信じる、信じないはお前に任せる」
口調が荒い。これは知晴さん、ガチで切れているな。
俺ですら数回しか見たことがない態度だ。
こうなったら手はつけられないから、ユミの耳だけ塞いでおく。教育上、よろしくない言葉を使いそうだからね。
「…………わかった。言うよ。俺は村田に頼まれて天宮裕真の暗殺とラルクノアを盗み、群生地を焼き払うためにここへ来た」
え、俺の命が狙われてたんだ。ターゲットは知晴さんだと思っていたからビックリした。
ユミの耳を塞いでいてよかった。聞かれたら、大暴れしていたところだよ。
「こいつの足には蛍光追跡液がついていて、ダンジョン内に入ったのは確定です」
知晴さんが一言補足を入れた。
動かぬ証拠ってヤツだよね。村田さんがそんな命令してないと言っても、誰も信じないだろう。
「だ、そうだ。反論はあるかね?」
「この男は嘘をついている! 俺はそんな命令していない! 証拠はないだろ!」
おお。必死なわりに村田さんは頭が回る。
僕らを襲い、ダンジョンへ侵入した証拠まではあるけど、依頼主とのつながりは今のところなにもない。
知晴さんは、どうやって証明するつもりなんだろう。





