(裕真視点+ユミ視点)平和な時間
畑仕事で汗を流してしまったので、山小屋にある温泉へ入ることにした。
俺は男湯の脱衣所で服を脱ぎ、タオルを持って洗い場まで移動する。シャワーはないので湯おけで温泉をくんで、頭や体にかけていく。
温度が高いので肌がヒリヒリする。耐えきれなくて「あちちっ」と言いながら変な踊りをしてしまった。
子供の皮膚は大人より薄いと聞く。ユミは我慢できるだろうか。
木で作った簡単な壁の向こう側に女湯があるので、一応声はかけおくか。
「お湯は熱いから気をつけるんだよ~」
「マスターもです! 少しずつ慣らしてください!」
逆に心配されてしまった。俺が子供みたいじゃないか。大人ぶりたい年頃なんだろうな。
備え付けのシャンプーで髪を、石けんをタオルにつけて体も洗う。また熱いお湯で流してさっぱりした。
せっかくだから温泉に浸かろう。
そーっと足を入れると肌がピリピリした。熱くて逃げ出したくなるけど、我慢して体まで一気に入れる。動くと痛いので座ったまま動かない。あ、ユミのアドバイスを実践するの忘れちゃった……ま、いっか。
しばらくすると体が慣れてきたので、力を抜いて天井を見る。木の板が視界に入った。黒い汚れが目立っていて時間の経過を感じさせてくれる。温泉を作ったときは、すごく大変だったんだろうな。
「疲れたぁ~」
ダンジョン探索に畑仕事と続いて、疲労が溜まっていたみたいだ。温泉に入って体が温まると、頭がふわーっとして気が緩み、眠くなってくる。口までお湯に浸かってしまう。
うとうとしていると、壁の向こう側からユミの声がした。
「マスター、寝たら危ないので、早く出てくださいね」
のぞき穴から俺の姿を確認しているんじゃないだろうか。そう思えるほど的確な言葉である。
眠いという欲望に抗って立ち上がると、体が重く感じた。
温泉を出て脱衣所で体を拭く。
全身がぽかぽかとして暖かい。夏であるため外は暑く、服を着ると少し汗が出てしまった。
脱衣所を出てもユミの姿はなかった。まだ温泉に浸かっているのだろうか。
待とうかと思ったけど体がダルいので一人で部屋に戻る。ベッドに座って窓から外を眺めると、知晴さんの姿が見えた。資料を見ながら空いた土地を歩いているようだ。
新しく建築する場所を調べているのかな。
襲撃者がいつくるか分からないと言っていたクセに、一人で出歩くなんて不用心だね。
部屋で待機させていたミスラムに俺とユミ、知晴さん以外の人を見つけたら捕らえるように命令すると、窓から放り投げた。これで何かあっても大丈夫なはずだ。それでもダメなら、自分で何とかしてもらおう。知晴さんだって錬金術師なんだから、護衛用の道具はいくつか持っているはずだ。
気になることはもうない。
夕方までには時間があるから、お昼寝するのも悪くはないな。
ベッドの上で横になる。
少し暑くて寝苦しいけど、今はそれが気にならないほど眠い。
意識が薄れてくるとドアが開いた。ユミが入ってきたみたいだ。
「マスター?」
睡眠と覚醒の間にいるみたいで、体に力が入らない。横になったまま返事をしたつもりだったんだけど、言葉にはならなかったみたいだ。
濡れた髪を揺らしながら、ユミは首をかしげている。
「おねむみたいですね」
タオルケットをお腹に掛けてくれると、ドライヤーの音がした。髪の毛を乾かしているようだ。
うるさいのに眠気は飛んでくれない。
虫をテーマにしたオリジナルソングを聴きながら、ついに眠ってしまった。
* * *
髪を乾かし終わったので振り返ると、マスターはぐっすりと寝ていました。
無防備な寝顔をさらしていて悪戯をしたくなってしまいます。
指先で頬を押してみると、柔らかい感触が返ってきました。クセになりそう。何度も押してみるけど起きる気配はないですね。
連日動き続けていたせいでしょうか。
私は人工精霊になったからか、まったく疲れてはないんです。
畑仕事も一段落したので暇で少し困りました。
夕食を作るにしても早すぎるし、虫さんに新しいお願いをしようかな。
「みんな集まって」
窓を開けてからお友達に声をかけると、山に住んでいる虫さんたちが飛んで来ました。ものすごい数なので、外にいた知晴さんは驚いて山小屋へ逃げています。
部屋の中にも入って来ているので、マスターが起きていたら卒倒しているかもしれません。寝ている間にしかできないことなので、今のうちに終わらせなきゃ。
「前に言ったこと覚えている?」
マスターや私、知晴さんを守るようにお願いしていたんだけど、「わかんない」「人間を襲う」「何それ?」みたいに、さまざまな感情が返ってきた。やっぱり魔物じゃないから知能が低く、覚えている個体は少ないみたい。
もっと単純な命令にして、改めてお願いしておかなきゃ。
「外から人がきたら教えてね」
このぐらいのお願いなら一応は分かってくれるみたいで、みんなから返事がありました。
二度目のお願いだから覚えてくれる子は多いと思う。
「みんなありがとう。絶対に忘れないでね」
お礼を言ってから解散のお願いをすると、虫さんたちは一斉に帰ってくれました。これでマスターが起きても大丈夫そうです。
まだ眠っているマスターを見ると、何も知らず眠ったまま。幸せそうで、私は嬉しくなりました。
この生活をずっと続けていきたい。
だからこそ、マスターを狙う侵入者は絶対に許さない。
悪さをするなら虫さんのエサになっちゃいますからね。





