反撃の下準備
知晴さんが来た翌日に、誠たちは山を下りてしまった。
残ったのは三人と一匹だけ。少数で放置ダンジョンを狙っている侵入者を撃退しなければならない。
「作戦はあるの?」
こういったのは苦手なので、知晴さんに聞いてみた。
自信ありげな顔をしているから無策じゃないと思う。
「基本は山小屋の警備を強化して、ダンジョン内にクロちゃんを配置。待ち伏せするスタイルだな」
「そんなんで成功するの? 侵入された形跡があったダンジョンは他にもあるんでしょ?」
特別何とかに就任して知晴さんの管轄になったダンジョンは、どれも鍵が壊されていたらしい。
待ち伏せするにしても、侵入者は他の場所を選んでしまったら無駄になってしまう。もしかして知晴さんは、3箇所全部同じ対応をするつもりなのだろうか。
上手く連携が取れるかな。もしそうなら、結構心配になってきたぞ。
「侵入者はこのダンジョンを必ず狙う」
「どうして断言できるの?」
「俺がラルクノアを使って誘導するからだ」
貴重な素材があると伝えて、絞らせるのか。
盗まれたら大変なことになるだろうけど、相手の狙いが分かるから迎撃はしやすい。
一種の賭けみたいな感じだね。
「それは効果ありそうだ。必ず狙ってくると思う」
「だろ? そこで相談なんだが、警報装置や捕獲用の物を錬成できないか?」
「レシピはあるからできるよ。ただ素材がないんだよね」
「買いに行けば、俺たちの動きがバレるかもしれない。師匠の倉庫から取りに行くにしても、同じか……」
知晴さんは考え込んでしまった。
ユミが俺の横っ腹をツンツンと指で押してくる。言いたいことがあるんだろう。
しゃがんで目線を合わせ、小言で聞いてみる。
「どうしたの?」
「マスター、例の存在を教えてもいいのでは?」
「ユミはいいの?」
「はい。知晴さんは信用できる方ですから」
俺だけじゃなくユミも教えていいと思ったのであれば、隠すのをやめてもいいか。
立ち上がって、悩んでいる知晴さんに話しかける。
「転移門って知ってる?」
「確か師匠が研究してレシピまでは完成させたと聞いている。離れた場所を……って、まさか!?」
くわっと目を大きく開いた知晴さんが俺を見ている。
「俺が完成させたよ」
「そうか……あれを錬成しちまったか……」
喜び、驚き、困惑、恐怖、いろんな感情が混ざり合った複雑な顔をしていた。
口は止まったままだ。
待っていると、数分後にようやく再起動してくれる。
「できちまったもんは、しょうがない。ありがたく使わせてもらうぞ」
「いいよ。そのために教えたんだし。その代わり、誰にも言わないでね」
「当然だな。知っているのは誰だ?」
「俺とユミ、ばーちゃんぐらいだよ」
「誠にも言ってないのか。賢明な判断だ」
教えてしまえば、バレた時に巻き込んでしまう。信じてないのではなく、大切な人だから教えてないのだ。
そういった事情を知晴さんも理解してくれたのだろう。
「とりあえず転移門を使って探してくるよ。倉庫になら、何かあるだろうし」
「転移するところを見に行っていいか?」
「どうぞ」
錬金術師として興味があるんだろう。隠すことはないので、一緒に俺の部屋に戻ると転移魔法陣を起動させる。
空間が切り取られて、倉庫の景色が見える。
通り抜ければ転移完了だ。
「これが転移門か……すごいな…………」
なんと目に涙を浮かべながら感動している。
付き合いは長いんだけど、こんな姿を見るのは初めてだ。錬金術師として思うところがあるのだろうけど、俺にはいまいちピンとこない。
知晴さんは第二世代。魔力の問題はある程度解決しているだろうし、レシピさえあれば何とかなりそうな気がするんだけどなぁ。
「頑張れば錬成できるんじゃない?」
「俺には無理だよ。さすが裕真だ」
褒められて悪い気はしないけど、何で諦めているのか気にはなった。
そういえば錬金術スキルを使ったところを見たことがない。それこそ、ばーちゃんの弟子として住み込みで働いていたときから。もしかしたら触れて欲しくない過去とかあるのかな。
知晴さんに?
いや、ない、ない。きっと事務仕事ばかりしていて腕が落ちているだけだ。
「俺とユミは倉庫に行くけど付いてくる?」
「いや、俺はラルクノア発見の報告書を書く。そっちは任せた」
「はーい」
ユミと一緒に倉庫へ転移をした。
錬成された物を漁っていく。すぐに見つかったのは警報装置だ。家に侵入してきたら激しい音が鳴るタイプで、錬金術師の店ならどこにでも置いてある。また魔石で稼働する監視カメラもあったので確保しておく。
他には、透明の液体があった。特殊なゴーグルを着けると光り輝く。水たまりのように見せて踏ませると、跡が追跡できる優れものである。通称は蛍光追跡液。まんまだね。
「マスター、これも使えそうです」
ユミが見つけたのは粘着テープだ。対象がネズミではなく人間なのでサイズは大きい。
窓やドア付近に置いておけば、侵入者を絡め取れるだろう。
「それも使えそうだね。マジックバッグに入れておこう」
ばーちゃんの倉庫には何でもあるな。本当に使える物を譲ってもらえてありがたい。
今回も師匠の愛情を沢山感じたのであった。





