ダンジョンからの帰還
ミスラムの修復が終わると、俺たちは森林の奥へ進むことにした。
みんなに回復ポーションを飲んでもらったので傷は癒えているけど、精神面の疲労は蓄積している。
またファイヤーバードが襲ってくるんじゃないか。
そういった緊張感が常にあり、誰もが口を閉じて周囲の警戒に力を入れている。ユミもミスラムを大盾にしていて、急に襲われても俺を守れるようにし、側を離れようとしない。体は震えてないので、怖がっているのではなく単純に警戒しているだけだろう。
歩いていると、トレントやフォレストウルフ、ポイズンスネーク、インセクトイーターといった魔物が襲ってきたが、どれも散発的だ。囲まれることもなく、少数だったので難なく撃退した。
何度か休憩を入れ、ようやく森林を抜けて岩場に出た。
草木は生えていない。荒れ地に大きな岩がいくつもある。近くに魔物はいないけど、遠くにはロックゴーレムの姿が見えた。生体センサーみたいなのがあるらしく、生物が近づけば自動で襲ってくる。逆に言うと離れていれば安全なので、俺たちは姿を隠す必要はなかった。
「こんな所に貴重な素材がある可能性は?」
「ミスリル銀鉱脈ほどじゃないけど、確定しているのはロックゴーレムだね。コアを奪い取れば、素材として流用できる」
ゴーレムのコアは製造原理が不明で、人類は一から作れない。魔物から取り除いた物を使い回している。ミスラムに使っているコアも同様だ。
そういった素材は結構あって、人類は分からない物を受け入れつつ、技術は進歩している。
「他にもコカトリスは、防具の素材になるらしいよ」
「ふーん。後は探さないとダメか」
「だね。とりあえず、ドローン二号に調査してもらおう」
マジックバッグから、ファイヤーバードに壊されたのと同系統のドローンを出した。
リモコンを操作して、空に飛ばして滞空させる。
「まだ持っていたんだ」
「一号があれば二号もある、ってね」
リモコンにあるディスプレイの映像を見ながらドローンを飛ばす。ファイヤーバードはいないはずなので、撃墜される可能性は低いだろう。
岩場を進むと大きな泉が見えてきた。
中心に小さな島があって、円柱の柱が並ぶ神殿らしき建物がある。
「なんだこれは?」
ディスプレイを覗き込んでいた信也さんに聞かれたけど、誰もわからない。
「地下に続く階段があるのかな?」
「もしくはお宝かも」
ダンジョンの最奥に到達した人類はいない。一説によると、試練を乗り越えた証として神から新しい力――スキルを授けてもらえるとも言われている。
他にも、異世界につながる、未来人からの褒美など、普通では考えられない報酬がもらえるとも噂されているのだ。
俺は信じてないけど、最奥に何かがあると期待している探索者は多い。
「調査する?」
俺が誠に聞くと、全員の視線が集まった。
みんなリーダーの判断を待っているのだ。
「神殿の中には入れるか?」
「やってみるね」
柱の間を縫って神殿の中に入ると、剣を地面に刺した騎士の彫像が並んでいた。高さは5メートルぐらい。数にして最低でも20個はありそう。
奥には扉があって侵入は難しそうだ。
「何かの宗教施設のように見えるな」
「ダンジョンなのに? 誰か人が住んでいたってこと?」
「わからん。俺は思ったことを言っただけだ」
そうだよね。誠は頼りになるけど、さすがに分からないよね。
ダンジョンを研究している人たちに聞いても同様だろう。
「他に通路がないかもう少し詳しく調べてみる……あっ」
彫像の1つが動き出した。ゴーレムだったんだ。ハエのようにドローンを叩き潰されてしまい、映像は途切れる。
「神殿に入るのは反対ーー!」
光輝さんの第一声は、皆の心を代弁した内容だった。
たった6人で、あんな大きいゴーレムと戦えるわけがない。素材も普通じゃないだろうし、複数パーティを率いたクランで攻略するレベルだ。
事前調査に来た俺たちじゃ、挑戦するのは無謀でしかなかった。
「私もよ」
「俺も反対に一票だ。天宮さんは?」
「同意見だね。誠、帰ろう」
「そうするか」
意見はまとまった。
魔物の種類がある程度わかり、ミスリル銀鉱脈が見つかっただけでも大きな手柄だ。神殿の奥に神霊を操っていた錬金術師がいるかもしれないけど、本格的な調査はもっと人員を投入してからにするべきだろう。
ドローン二号を回収してから、来た道を戻って川辺まで来た。
ミスラムを橋にして向こう岸に渡り、ラルクノアの様子を見に行ったら、ファイヤーバードが体を丸めて寝ていた。体が麻痺して動けないわけじゃなさそうだ。花の匂いか何かが好きなのかな。
近づくと襲われそうなので戦わずに放置すると、森林を抜けて草原、そして地上まで戻った。
「ふぅー! 無事に帰って来られたね!」
緊張から解放された光輝さんは喜んでいた。
ベテランでも未知の探索は大変だったんだろう。他のみんなも安堵の表情を浮かべている。
足取りは軽く、山小屋に戻るとクロちゃんの姿が見えなかった。
外で警備をお願いしていたはずなんだけど。
入り口には革靴っぽい足跡が残っていて、ドアが開きっぱなしだ。嫌な予感がする。
異変に誠たちも気づいたみたいだ。
信也さんが大盾をまえに構えて中に入り、誠、光輝さんが続く。
争う音は聞こえない。侵入者は帰った後なのかな。
狭い室内では足手まといになる俺たちは外で待っていると、誠だけが戻ってきた。
「何があったの?」
「知晴さんが簀巻きにされている。クロちゃんに解放するよう言ってくれないか」
俺たち以外の人間が来たら拘束しろと命令していたから、素直に実行したんだろう。
言うとおりに行動したので怒ることはできない。
ユミにはクロちゃんを怒らないようお願いして、山小屋の中へ入ってもらった。





