危機一髪
夜に魔物の襲撃があったけど、誠たちが撃退してくれたので俺は何もしなかった。
ただ騒がしくて何度か起きてしまい、熟睡はできていない。ちょっと寝不足な感じだ。一方でユミは元気いっぱいで、もう外に出て朝ご飯を作っている。
パンを軽く焼いてチーズとハム、目玉焼きを乗せる簡単なものだけど評判はいい。食後のコーヒーも用意していて、食べ終わった人から順番に飲んでいる。
「水をふんだんに使えるし、朝からコーヒー。マジックバッグは便利ねぇ」
フーフーと息をかけながら、熱いコーヒーを飲んでいるのは圭子さんだ。大量の水を持ってきたので、髪や体も洗えて満足しているらしい。
浄化薬を使えばダンジョン内の水も使えるようになるんだけど、「なんか嫌」という理由で提案は拒否されてしまった。万が一でも失敗すれば死ぬかもしれないんだから、気持ちは分かるけどね。
穏やかな朝食が終わると、テントを片付けて出発をした。
目的地はドローン一号が落とされた岩場だ。川岸を歩いて幅が狭い場所を見つけると、ミスラムを伸ばして細い橋を作った。
水中には魚の魔物が泳いでいるので、落ちたら生きて逃げ出すのは難しそうだ。
いつもどおり信也さんが先頭を歩いて渡りきると、圭子さん、光輝さんも続く。残ったのは誠と俺、ユミだけだ。
橋の幅は40センチぐらい。普通に歩けば問題ないけど、少しバランスを崩したら落ちてしまうサイズだ。ちょっとだけ怖い。
「マスター、一人で歩けますか?」
少女姿のユミに心配されてしまった。
僅かにある大人としてのプライドが刺激され、覚悟が決まる。
別に俺は運動が苦手なわけじゃない。普通に歩けば渡れるはずだ。
「もちろん。手本を見せるから、よく見ておくんだよ」
両手を広げてバランスを取りながら、ミスラムの橋を歩く。
思っていたよりも余裕があるな。これなら大丈――!?
急に風が吹いて体が揺れた。
バランスが僅かに崩れて立ち止まってしまうけど、落ちずに耐えた。
頑張ったぜと自慢げな顔をしようとして振り返る。
「マスター!!」
ユミがこちらに向かって走っていて、俺に抱きつくと勢いのまま飛んでしまい、向こう岸に着く。防具がなかったら背中に石が当たって大怪我をしていただろう。
何で飛ばされたんだろう。
体を起こしてミスラムの橋をみると、ファイヤーバードが通り過ぎていった。
どうやら狙われていたみたいだ。急上昇すると俺たちを睨んでいる。
「川から離れろ!!」
俺はすぐに動けなかったんだけど、ユミが抱きかかえて川岸から離れて森の中へ入っていった。一人残された誠は何かのポーションを飲みながら、全力でミスラムの橋を渡っている途中だったけど間に合わない。
上空からいくつもの火球が降り注いできた。
激しい爆発と共に何本もの水柱があがる。さらには川岸にある石も弾丸のように吹き飛んだ。
ユミのおかげで俺は木の裏に隠れてやりすごせたけど、他は大丈夫なのだろうか。声を出して確認したい。でも、上空でファイヤーバードが旋回していて、大人しくしてなければ追加攻撃がきそうだ。
息を潜めて動かず、ユミに抱きしめられたまま待つ。
どのぐらい待ったのか分からないけど、ファイヤーバードは俺たちを殺したと思ったのか、どこかへ行ってしまった。
「助けてくれてありがとう。ユミは怪我してない?」
「マスター、私は大丈夫です」
ヘルメットにいくつか汚れがついているので、石ぐらいは当たっていそうだ。無事だったのは防具のおかげだ。新調して本当に良かったよ。
「みんな、生きてる?」
他の人たちの生存確認をすると、近くから先に川を渡っていた三人が顔を見せてくれた。俺たちと同じように木の裏に隠れていたみたいで、防具は土で汚れているけど怪我はないみたい。
「誠は?」
退避は間に合っていただろうか。
気になって川岸の方に近づくと、肉の焼ける臭いが漂っていた。川に住んでいた魚の魔物が焼かれ、横たわっていた。
探しても誠の姿が見当たらないので、ミスラムの橋まで近づく。
運良く直撃しなかったけど、一部は飛んで半壊していた。余波だけでこれほどの威力があるのか。直撃したところは小さなクレーターができていた。
「どこにいるんだー?」
「ここだ……」
絶望的な状況でやや諦めかけていたんだけど……生きている!
声がしたところはミスラムの大きな欠片が転がっているところだ。ユミと力を合わせて持ち上げると、自慢のスーツにも穴が空いていて、ボロボロになった誠の姿が露わになる。
手足はくっついているけど、口から血が流れ出ていた。内臓を痛めたみたいだ。自力で動くのは厳しそう。
「誠を発見したよ! 移動させるの手伝って!」
他の場所を探していた信也さんたちが、すぐに来てくれた。
下敷きになっていた誠を引っ張り出し、俺が作った回復ポーションを飲ませると、すぐに怪我は治った。
「よく生き残れたね」
「耐熱ポーションを飲んでから、ミスラムだっけ。アイツの下に隠れたんだよ」
頭がいい! 盾代わりにして攻撃をやり過ごしたのか。それでも無傷とはいかず、余波でミスラムごと吹き飛ばされてしまったと。
「壊れたみたいだけど修理はできるのか?」
「コアは無事だから大丈夫だよ。元に戻してくるから、少し休んでて」
もし中に入っているゴーレムコアが破壊されていたら、形状を維持できずミスリル水銀に戻っているからね。
半壊した橋の根元に触れてミスラムに戻れと命令を出すと、周辺に散らばっている欠片が集まって、融合していく。
スライムのように動くので、ちょっとだけ気持ちが悪い。
あまり触りたくないなぁなんて思って再生を見守っていると、ユミに声をかけられた。
「一人じゃ危ないです」
「近くに生きている魔物がいないから問題ないって」
ファイヤーバードの攻撃に怯えたのか、魔物の姿は消えている。水生の魔物すら近寄ってこないのだ。
しばらくは安全だろう。
「それでもです。ちゃんとしてください」
そっと手を握られて、ようやくユミが震えていることに気づいた。
ファイヤーバードに襲われて怖かったんだね。早く気づくべきだった。
ごめん、と言う代わりとして、強めにユミの手を握る。
「マスター……」
「気にしなくていいよ」
「はい」
ユミが俺に寄りかかってきた。
体の震えは小さくなっている。少しは落ち着いたのだろう。今回は適切なフォローができてよかった。





