面倒なことは、まるっと他人に任せたい
夜の警戒は誠のパーティが交代制で担当してくれることになった。
俺とユミはお客様扱いである。
これは気を使ってくれたわけじゃなく、経験が不足している人間に任せられないから決定したことだ。俺が何度もダンジョンで野営をしたことがあれば、ローテーションに組み込まれていたことだろう。
その代わりに晩ご飯の用意を担当することになった。
凝った料理はできないため、マジックバッグから取り出した鍋に水と野菜、肉を適当に入れ、タレを混ぜる。後は火を入れて沸騰するまで待ったら完成だ。
炭水化物も欲しいだろうと思って、締めのうどんも用意しているから、物足りないってことにはならないはず。
地上から持ってきた炭に火を付け、網の上に鍋をのせると、ソファになったミスラムに座った。
隣にはピッタリとくっつくようにユミがいる。
「マスター、大変なことになりましたね」
俺が管理しろと言われたダンジョンに、ラルクノアにミスリル銀鉱脈と貴重な素材が立て続けに見つかったのだ。
情報を公開したら、人が多く訪れることになるはず。そうなったら俺は錬金術をする暇がなくなるだろう。畑だって管理できない。自由時間が完全に奪われるのだ。
ユミは、そういった未来を想像して言ったのだろう。
「面倒なことは知晴さんに、まるっと投げて解決してもらおうかな」
管轄は違うけど、探索者ギルドと錬金術ギルドは兄妹みたいな関係だ。支部長権限で圧力をかけて、管理者を別の担当者に変えてもらえないかと考えていた。
「そんなこと可能なのでしょうか?」
「今回ばかりは難しいかもね~。ダメだったら逃げちゃおっかな」
俺のポーションを買いたがっている誠には悪いけど、錬金術を取り上げられてしまうのであれば、場所にはこだわらない。外国へ行ってもいいし、モグリとして活動するのも悪くはない。
ユミには苦労をかけてしまうだろうけど、きっと理解はしてくれるはずだ。
「マスター、もし外国に行くなら南がいいです」
「どうして?」
「おっきい昆虫さんが沢山いそうだからです!」
「それは素晴らしい理由だね。逃亡先は南にしよっか」
想像してみたら悪くないように思えた。
言語の壁は、翻訳ツールを使えば何とかなるだろう。それにユミは頭がいいから、数ヶ月で覚えてしまうかもしれない。
制度が整ってない国もあるため、無許可でポーションの販売ができる場所もあるし、お金は稼げる気がする。最悪は転移門で、ばーちゃん家と行き来すれば生活には困らない。どうとでもなるだろう。
「ぶっそうな話するなよ。裕真は日本にいてもらわないと俺が困る」
呆れた顔をしながら、誠が俺の前に立った。
「だってさー。絶対、面倒なことになるじゃないか」
「そうなる前に鍵を壊した犯人をみつければいいだろ?」
「無理だって」
性格的に俺は捜索に向いてはいない。
仮にダンジョンの奥でコソコソと動いている錬金術師が犯人だとしても、居場所を突き止めて捕まえられるとは思えなかった。
「俺もそうは思う。どうしてギルドは、裕真を選んだんだろうな」
「なんでだろうね~。偉い人の考えなんてわからないや」
「そうだな」
心が通じた気がして、俺と誠は小さく笑った。
会話が途切れると、鍋からグツグツと沸騰した音が聞こえてきた。ユミが立ち上がってお玉でかき混ぜ、火の通り具合を確認する。
「できたようです。交替で食事をしましょう」
ご飯を食べるときは隙が多いので、全員で一緒には食べない。
先ずは俺とユミ、誠が素早く終わらせてから、残った三人と交替してテント周辺の警備をする。周囲をよく観察すれば、離れたところに地面にセンサーらしき物が置かれていた。
あれで魔物をいち早く察知するんだろうけど、木の上まではカバーしきれないので万能じゃなさそうだ。
機械も使うけど、結局は人の目も必要なんだね。
装甲車とか持ち込めればもっと安全に過ごせるんだろうけど、入り口は狭いから入らない。ダンジョン内に拠点を作るまでは、寝泊まりも命懸けになるだろう。
15分ぐらいで見張りを交替した。
俺とユミは後片付けをしてからテントへ入る。中は狭くて二人が横になったら動けなくなるぐらいだ。下にクッションを敷いて天井にぶら下げている電気ランタンの電源を切る。
外で焚き火をしているから、内部は薄暗い感じだ。
お互いの姿がなんとなく分かる。
「マスターはもう寝るんですか?」
「うん。今日は移動が多くて疲れちゃった」
ミスラムの上に乗っていただけなんだけど、揺れに耐えていたこともあって疲れはある。
今後のことも考える必要があるのは間違いない。けどね。人間、眠気には勝てないんだよ。
「ユミはどうする?」
「マスターと一緒に寝ます」
宣言するとすぐに俺の手を握ってきた。
少し前にケンカをしてしまった反動なのか、積極的だな。子ども返りしているのかもしれない。
不安にさせてしまった俺の落ち度である。
「そうだね。一緒に寝よう」
手を繋いだまま二人とも横になった。
しばらくしてユミは先に眠ってしまう。本格的なダンジョン探索だったから、疲れが溜まっていたんだろう。
「お疲れ様。また、明日もよろしくね」
ツルツルした頬に軽く触れてから、俺は目を閉じる。
放置ダンジョンの今後について、どうしようか数秒考えて……答えは出なかった。
やっぱり知晴さんにお願いしよう。
きっとハッピーな結果を出してくれるはずだ。





