幸せのお餅
誠たちは本格的な調査をする前に休みを入れたようで、山を下りてしまった。
そのためダンジョンへの出発は、数日後になる予定だ。
畑に植えたブルーボルド草は枯れていない。こっちの土地にも馴染んでくれているようだ。上手くいきそうなので、ユミは新しい畑を作ろうと意気込んでいるんだけど、その前に未開拓エリアのダンジョン調査の準備をしておきたい。
実はドラゴンの素材を手に入れてから、ばーちゃん経由で防具の作成依頼をしていたので、俺とユミは転移門を使って倉庫へ行くと、ヘルメットを受け取ることにした。
* * *
「これが完成品?」
リビングの畳に座る俺の手には、帽子型のヘルメットがあった。頭部をまるっと覆う形をしていて、激しく動いても取れないよう紐もある。
表面に使っているのはドラゴンの皮だ。銃弾が当たっても弾くほどの防御力がある。また間に衝撃吸収用のスライム素材、内側は通気性を重視した布が使われているので、性能と快適性を同時に実現している逸品だ。
これならユミの頭部にある弱点――精霊石を確実に守ってくれることだろう。
「そうだ。あの男が作ったから質は保証する」
ばーちゃんが照れくさそうに言ったのには理由がある。あの男ってのは、じーちゃんだからだ。
俺が気を使って制作者を指定したんだよね。
制作するときとか、二人っきりの時間を過ごせたはず。
自分で言うのもおかしいかもしれないけど、俺って師匠思いだよね。
「ユミ、着けてみて」
帽子型のヘルメットを受け取ると頭に装着した。
サイズはピッタリみたいだ。
「重くない?」
「マスター、大丈夫ですよ」
性能を重視したため、普通のヘルメットより重量はあるんだけど、ユミは頭を振って問題ないとアピールしていた。
10歳の少女に見えるユミは、人工精霊なので成人男性よりも力はある。無理をして言っているわけじゃないんだろう。
「よかった。これで安心して探索できるね」
神霊を倒した時から、弱点をどうにかしたいと思っていたんだ。ワンピース型の防具だけじゃ不安だったので、これでようやく弱点をカバーできる。
今後も放置ダンジョンの管理をするんだから、今後もユミの装備は充実させていこう。
「マスターのは、ないのでしょうか?」
「皆が守ってくれるから、いらないでしょ」
ユミの防具を作るのに、ばーちゃんに借金をしたんだ。自分の防具なんて用意する余裕はない。
ドラゴンとの戦いで半分壊れた革鎧を使い続ける予定だ。
「バカ言ってるんじゃないよ。あんなボロボロの装備で命が守れるわけないじゃないか」
「でもお金が……」
「そんなもん、ワシが出してやる。既製品で良いから、さっさと買ってくるんだ」
「気持ちはありがたいけど、俺が街に出ると転移門がバレちゃうよ」
誠とばったり遭遇したら言い訳できない。
慎重に動くべきだろう。
「そうだったね……ふむ。ちょっと待ってなさい」
ばーちゃんは立ち上がるとリビングを出て行ってしまった。
テーブルに置かれた熱いお茶を飲み、ユミの頭を触りながらヘルメットの調整をする。
「マスター、くすぐったいです」
顎にある紐を触っていたら、顔をほんのりと赤くしながら拒否されてしまった。その仕草が愛らしい。余計に触りたくなってしまった。
頬をペタペタと触る。肌が瑞々しく、つるりとしていて撫でるだけで幸せな気分になった。
軽く引っ張ると、餅のように伸びる。それがまた可愛い。
何だこの生き物は。
もっと伸びるかなと思って引っ張ろうとしたら、頭に強い衝撃を受けた。
「いたた……っ」
涙目になりながら顔を上げる。拳を振り下ろしたのは、ばーちゃんだったらしい。
解放されたユミは、俺から距離を取って逃げてしまった。顔を少し覗かせているけど、眉を釣り上げて怒っている。初めて見る表情だった。
「あぁ、俺の幸せが遠のいていく」
「愛弟子は、おバカな所が玉に瑕だね」
ため息を吐かれた後、革鎧を投げ渡された。
受け止めきれず押し倒されてしまう。
「ばーちゃん痛いよ……」
「ユミで遊んだ罰だと思いな」
いつもは優しいばーちゃんだけど、今は冷たい。
逃げたユミを守るように背に隠した。
頬で遊んだのがダメだったの? 嫌なら言ってくれれば良いのに……。
「サイズが合うか調べたいから、さっさと着るんだよ」
文句を言っても仕方がないので、起き上がって受け取った革鎧を見る。真っ黒だ。丈夫そうだけど、すごく軽い。素材は何だろう。わからないや。
後で調べようと思って、とりあえず身につけてみた。
指が二本分入るほど隙間がある。
「やっぱり大きいようだね。サイズを調整するから、大人しく立ってな」
「うん。よろしくね」
待っていると、ばーちゃんが俺の後ろに回って、ベルト部分の長さを調整し始めた。
ぐいっと引っ張られると、隙間が埋まっていく。
前の持ち主と身長はあまり変わらないみたいで、これだけで調整は終わった。
「あの男のお古だが、今でも使えるはずだ」
じーちゃんが使っていた物を大切に保管していたのか。
なーんだ。大好きじゃん。
にまっと笑うと、今度はお腹を殴られてしまった。革鎧のおかげでダメージはない。
「捨てるのがもったいないから保管していただけだ。特別な意味はないよ」
何かを言えば、また怒られてしまいそうだ。
ここは大人しく撤退しよう。
「わかった。そういうことにしておくね!」
酷い目に合ったので余計なことは言うのをやめて、会話を打ち切った。
これが正解だったはずだ。





