群生地の再調査依頼
真面目な誠はビニール袋に包まれたラルクノアの花を持って、二階の自室に戻ってしまった。
大きい発見だったから、すぐにでも報告しに行くつもりなんだろう。
残りのメンバーは残っていたご飯を食べ始める。面倒なことはリーダーに丸投げって感じで共感できる。
そうだよね。できる人に任せればいいんだよ。どうして知晴さんに報告するかなんて、考えるだけ無駄だ。
「マスターは、もう少ししっかりしてください」
畑から戻ってきたユミに的確なツッコミをされた。
心の中を読まれた!? と思ったんだけど、きっと違う。
クロちゃん辺りに、俺が痺れて死にそうになったこと聞いたんだろうな。
気まずいので話題を変えなきゃ。
「ブルーボルド草のほうは畑で育ちそう?」
「マスター……」
今度こそ心を読まれたみたいで、半目で見られてしまった。
少しの沈黙が続き、ユミは小さなため息を吐くと答えてくれる。
「枯れることはなさそうですが、質がどうなるかはわかりません」
エーテルの含有量が減ってしまえば、効果が著しく減ってしまうのでポーションには使えない。畑で育てても意味がないので、質が落ちるようなら野菜に変えようかな。
大根なら育つというのは分かっていることだしね。
他にもニンジンや玉ねぎ、ジャガイモ辺りを植えれば毎日肉なしカレーが食べられる。またスーパーでトマトや挽肉、コリアンダーなどの各種スパイスを揃えれば、キーマカレーだって作れちゃう。ばーちゃんは俺の作るカレーが好きだったから、ユミにも振る舞ってみたいな。
「ダメだったら野菜を育てようよ。材料が揃えば、ばーちゃんが好きだった料理を作ってあげる」
「マスターの手作り! しかも師匠のお気に入り! これは昆虫たちと一緒に、がんばるしかありませんね!」
ヤル気を出してくれたみたいだけど、できればブルーボルド草を育てるのに力を入れて欲しい。買うと高いからね。
ただで作れるようになるなら、他の素材がいっぱい手に入る!
ん? あれ? ラルクノアを採取して売れば、借金返済どころか素材買い放題ツアーが開催できるんじゃないか?
護衛と道案内として誠たちを雇えば、成功する未来しか見えない!!
完璧な計画だ。これで好き放題できる。やっぱり俺もダンジョンに入るべきなのだ。
「マスターが悪い顔をしています……」
さっきまで機嫌の良かったユミの顔色が悪い。
どうしたんだろう。
もうすぐ最高の未来が来るというのに!
「あー、最悪だ……」
階段を使って誠が一階に降りてきた。知晴さんへの報告が終わったんだろう。
すぐにでも護衛の依頼を出したいところなんだけど、頭をかきながら苛立っていて、それどころじゃなさそうだ。
「何があったの?」
眉をひそめ、珍しく警戒したような顔をした光輝さんが質問をした。
他の二人は何も言わないけど、緊張した面持ちをしているのは同じ。悪いニュースが来たと思っているんだろう。
「ラルクノア発見の報告をしたんだが、群生地周辺の詳しい調査をしてくれとの依頼があった」
内容自体は普通だ。他の探索者の安全性を高めるためにも、地図や周辺の情報は必須である。
よく行われることで、誠だって何度も経験したことがあるだろう。なのにどうして、今回は嫌そうな態度をしているんだ。
「断れない?」
「交渉したがダメだった……」
「うぁー。最悪~~」
力を抜いた光輝さんは、椅子の背もたれに寄りかかって天井を見上げた。
かなり嫌そうだ。
「調査ぐらい、誠たちなら楽にこなせるんじゃない? 行ってくればいいじゃん」
全員が俺を見た。
え? 変なこと言った?
間違ってないはずなんだけど。
「普通なら裕真の言うとおりなんだが、ラルクノアの群生地付近に未知の魔物がいるんだ。遠くからしか見ていないが、襲われたら勝てん。ドラゴン級だ」
誠が断言するほどなんだから、本当に危険な魔物なんだろ。
お宝を守る魔物みたいな存在だね。
「そこで相談なんだが、裕真も参加しないか?」
「喜んで!」
俺から提案しようと思っていたのに、誠から言ってくれた。
一流の探索者を雇おうとすれば、大金が必要になる。それがタダになるなら非常に魅力的な提案だ。
危険な魔物がいても、ラルクノアの群生地に行けるなら悩む必要はない。このチャンスを逃すわけにはいかないのだ。
「ユミもいいよね?」
「マスターの思うように動いてください。私はどこまでもついて行きます」
そう言ってもらえると思って聞いてみたので、予定通りのやりとりだ。
ドラゴン級の危険な魔物がいるというのは気になるけど、生還してきた誠がいるなら調査も安全に進められるだろう。
「他にも貴重な素材があったら採取してもいいかな?」
「同行をお願いしたのは俺の方だ。多少の寄り道なら付き合うよ」
「本当? 途中で嫌にならない?」
「ああ、約束する。知晴さんから依頼のあった調査の範囲に収まるしな」
よし。これで調査し放題だ!
貴重な素材を手に入れるためであれば、自分どころか他人の命までも巻き込んでしまう。
業の深い人間だとは思うけど、直すことなんてできない。
結局、俺は錬金術師だったのだ。





