裕真の悪いクセ
炭や乾燥した薪が山小屋の倉庫にあったので、今日の夕食は外でバーベキューだ。
もうすぐで陽が沈みそうな中、電気ランタンをいくつか設置して光源を確保し、ビールを飲みながら食事をしている。
俺とユミは酒が飲めないので、倒木に腰掛けて眺めていた。
「明日は放置ダンジョンの調査だ。今日は遠慮なく食って飲むぞーーーー!」
パーティメンバーの士気を高めるためなのか、スーツを着ている誠は一人で叫んでいた。
顔は真っ赤だ。よく見ればフラフラしていて今にも倒れそうである。
意外とアルコールに弱いんだな。
今はブツブツと何かを言いながら焼いた野菜を食べているので、まともに話せる状態じゃない。パーティメンバーも近寄ろうとしていなかった。
「高級な肉ばかりじゃん! ユミちゃんありがとう!」
少年のように見える光輝さんがユミに飛びつこうとしたので、クロちゃんが間に入って邪魔をした。蜘蛛に抱きついたような形だ。
光輝さんは逃げようとしているけど、糸が絡みついていて離れない。
ナイスだ! よくユミを守った!
鉄壁ガードのクロちゃんという異名を授けよう!
「あれは大丈夫なのかしら」
「天宮さんのペットらしいから問題ない…………よな?」
唯一の女性メンバーである圭子さんに返事したのは、体格の良い信也さんだ。
自信なさげに言って俺を見たので、首を横に振ってからユミを指さした。
主人が誰なのか分かってくれたようだ。
信也さんは口に入っている肉をビールで流し込んでから、ユミの隣に移動した。
「あれって黒死蜘蛛だよな? 間違って噛んだりしないのか?」
「優しい子だから、攻撃なんてしませんよ」
「そうは見えないが……」
光輝さんの状態はさらに悪くなっていた。簀巻きにされて地面に横たわっている。
糸によって口が塞がられていて、助けを求めることすら難しいそうだね。
あ、目が合った。
視線をそらす。
だってユミにセクハラしようとした男だよ? もう少し反省した方が良いと思うんだ。
「本当に大丈夫か?」
「気になるなら言い聞かせましょうか」
ユミがパチンと指を弾くと、クロちゃんが走りながら跳躍して抱きついた。体は軽いこともあって、よろけることなく受け止める。
「あの人もマスターのお仲間です。遊ぶだけなら許しますが、絶対に攻撃したらダメですよ」
声を出せないクロちゃんは、前足を上げて返事をすると、また光輝さんの所へ戻った。
簀巻きになった光輝さんを持ち上げ、クルクルと回している。
遊んでいいと言われたから実行しているのかな。
「ユミちゃんは魔物と話せるのか?」
「虫系統限定ですけど」
「すげぇな。天宮さんの所は……」
魔物と会話できる精霊なんて、レアという言葉ですら表現できないほど珍しい。もしかしたら世界で唯一の存在かもしれない。
死体を使っているから肉体的な変化は見込めないが、精神的には違う。これからもっと成長していくだろう。
将来が楽しみだ。
偉業を成し遂げて欲しいとは思わないけど、せめて健全であってくれとは思う。
「裕真君~。何してるのかしら?」
手持ち無沙汰になったのか、圭子さんが隣に座った。
距離が近い。お尻を半分だけ横に動かして少し離れた。
「何もしてないことをしている、かな」
「哲学的ね。錬金術師はみんな頭がいいのかしら?」
適当に流したつもりだったんだけど、評価されてしまったみたいだ。
圭子さんは手に持っている缶ビールを一気に飲み干し、地面に置いた。
物言いたそうな顔をしているけど、話のネタがないので黙ったまま。酔っ払って地面に倒れている誠を見ていると、痺れを切らしたのか質問をしてきた。
「ドラゴン討伐で使った回復ポーションは、裕真君だけしか作れないの?」
「錬金術師なら誰でも作れるんじゃないかな」
最も需要の多い商品が回復ポーションだ。
錬金術師であれば最初に学ぶレシピであり、作れない者はいない。
「違う、違う。腕すら瞬時に回復させるほどの効果を持った回復ポーションのことよ」
「どうだろう。他と比べたことがないからわからないなあ」
錬金術のことばかり考えていたので、他の人が錬成した回復ポーションの品質なんて気にしたことなかった。
俺と同じぐらいはできるんだと思っていたけど、圭子さんの口ぶりやドラゴン討伐で探索者が使っていた回復ポーションを見る限り、少し違いそうだ。
人によっては、俺より数段落ちる回復ポーションしか作れないのだろう。
「だけど、もし回復ポーションの効果に差が出てしまうのであれば、原因は素材の品質とスキルの熟練度の差だね」
「どういうことかしら。後学のために詳しく教えてもらえない?」
これは得意分野だ。知りたいというのであれば、じっくりと教えてあげよう。
「回復ポーションに使うのはブルーボルド草とエーテル純水なんだけど、両方ともエーテルの含有量によって品質が左右されるんだ。ブルーボルド草は、育てた環境によってエーテルをどこまで吸収できるかが決まるんだけど、最高品質はダンジョンの中。次点で、付近の土地が最適だと言われている。ここも空気中にあるエーテルは豊富だから、高品質のブルーボルド草が育成できると思うよ。それで、採取した後なんだけど……」
「ストーーーープっ!!」
まだ序盤だというのに圭子さんに止められてしまった。
遠慮しなくていいのに。不完全燃焼だ。もう少し説明させてくれないかな。
「品質の件はもうお腹いっぱい。もう大丈夫よ。今度はスキルの熟練度について《《簡単》》に教えて欲しいわ」
簡単の部分を強調されてしまった。
できるだけ頑張ってみるか。
「スキルは使えば使うほど、威力が上がって能力が向上するのはわかるよね?」
「うん。私は闇魔法のスキルを持っているんだけど、使い続けていたらいろいろとできるようになったわ」
俺は包括系スキルと呼んでいるんだけど、魔法系統みたいに自由度の高まるスキルがある。逆に誠の粉砕ようにピンポイントのスキルは、使い続けていると威力が跳ね上がるんだよね。
錬金術スキルは、どちらかというとピンポイントの方に属する。
「それはすごいね。俺が使うような錬金術スキルは、やれることは変わらないけど品質に影響するんだ。使えば使うほど、完成品の効果が高くなる」
「ってことは、裕真君はすごく練習したんだ」
否定はしない。それなりに錬金術スキルを磨いてきたけど、品質が上がる要素はそれだけじゃないんだ。
例えば生まれてから大人になるまでサッカーの練習量が同じでも、人によって上手さに差が出るように、錬金術スキルから得られる恩恵にも差が出る。
熟練度の最大値にバラツキがあるのだ。
俺はそれを才能の差と呼んでいた。
「うん、って言えるほどには頑張ったかな」
会話を終わらせて立ち上がり、駆けつけてきたユミが飛び込んできた。
腰を落としてしっかりと受け止める。
地面に下ろしてあげると、手を引っ張られた。
「マスター、お肉が焼けました。食べに行きましょう!」
「わかった、わかったよ」
抵抗せず足を動かすと、ユミは圭子さんの方を見ていた。
眉がつり上がっていて怒っているようにも思える。
「気に入らないことでもあった?」
「ありません」
俺を見るユミの表情は一変して、笑顔になった。
機嫌が悪くないなら細かいことはどうでもいいか。
お腹も減ったし、俺もお肉を食べよう。





