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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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第83話 ライナルトの決意

 戦勝の喧騒がようやく静まり返った軍の野営地。その中央に構えられた天幕で、ライナルトはヴァルトハイン公爵――己の父と、重苦しい沈黙の中に向き合っていた。


「……やはり、兵を返してグロッセンベルグを叩くべきです」


 ライナルトの進言に、公爵は鼻を鳴らした。


「愚かなことを言うな。お前の兄は、たまたま一都市を手に入れただけだ。あやつは軍人ではない。領地の一つや二つで、勝ち誇るほど我らは浅はかではないぞ」


「ですが、父上。兄上は砦に民を集め、技術と秩序でその地を統治しています。ただの僻地ではありません。あの男を中心に、帝国の残党すら動き始めているのです」


「民など放っておけ。王侯貴族を制するのが国の柱だ。それに、グロッセンベルグを奪って何になる? あそこは周囲を森と山、それに荒野で囲まれた陸の孤島。維持する兵站すら苦しいわ」


「……兄上を放置すれば、やがてこちらが苦しくなります」


「――お前は、まさか兄に劣ると思っているのか?」


 その言葉に、ライナルトの眉がわずかに動いた。


「兄に対する嫉妬か? 小さき弟が、優れた兄に嫉む姿は見苦しいぞ」


「……!」


 ライナルトは静かに立ち上がり、拳を握った。


「私は、嫉妬などしていません。ユリウスが成したことを正しく評価し、脅威と見るべきだと申し上げているだけです」


「戯言だ。あやつは失敗作だ。お前と違って、己の剣すら振るえん男だ。武門の家に生まれながら、剣を捨てた不忠者だぞ」


 その言葉に、ライナルトの瞳がわずかに揺れた。


「……ならば、その不忠者に民も都市も奪われた貴族たちは、何なのでしょうね?」


「……ライナルト」


 公爵は目を細めてライナルトを睨んだ。

 しかし、ライナルトは臆することなく続けた。


「この地の維持など、私でなくともできるでしょう。私が必要なのは、あの地を断つこと――」


 公爵は机を叩いた。


「命令だ、ライナルト。兵を残し、この南の拠点を守れ。それが公爵家の次期当主としての責務だ」


 しばし沈黙ののち、ライナルトは目を伏せ、頭を下げた。


「……承知しました、父上」


 だがその背に、従順の気配はなかった。


 (父上。あなたは何も見ていない。兄上の強さも、民の声も。このままでは、ヴァルトハイン公爵家は滅びる)


 天幕を出たライナルトの視線は、夜の空を超えて、遠くグロッセンベルグの地を見据えていた。


 (ならば――変えるしかない。公爵家を、俺の手で)



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― 新着の感想 ―
>(ならば――変えるしかない。公爵家を、俺の手で)  正直、ユリウスを倒すより、先に帝国を”獲り”にいった方が早いかもしんないよ(笑)
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