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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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第71話 ママの真実

 「ままでちゅよ〜、ユリウス坊や〜♪」


 リィナは調子を合わせるように笑顔で抱きついたが、その声にはわずかな緊張が滲んでいた。


 ――だが次の瞬間、くるりとユリウスをミリに預け、真顔に戻る。


 「ごめんなさい、ふざけているように見えたかもしれませんが……あれは、暴れさせないための対応です」


 「え……?」


 セシリアが思わず声を漏らすと、リルケットも頷いた。


 「記憶や判断が混乱している者に、強く否定するのは逆効果。特に薬物で洗脳されかけた状態なら、感情が爆発する可能性がある」


 「だから、合わせたのね……」


 「はい。あのまま『違う』と言えば、ユリウス様は混乱し、敵味方の区別もつかなくなっていたかもしれません」


 リィナは震える拳を握りしめながら言った。


 「……本当は、そんな役目やりたくなかった。でも……ユリウス様を傷つけさせたくなかった」


 その言葉に、誰も返すことができなかった。


 「セシリア様。どうか……ユリウス様を、元に戻してください」


 リィナの切なる願いを受け、セシリアは小さく頷いた。


 「……わかった。私にできること、全部やる」


 ユリウスは執務机にもたれかかり、虚ろな目で宙を見つめていた。頬には赤みがさし、呼吸は浅い。


 「これは……幻惑系の薬物ね。しかも複合……!」


 セシリアはそっと脈をとり、魔力の流れを確かめながら、術式を構築する。


 「〈精霊の環〉……ユリウスの魔力と血流を整える……」


 ユリウスの体を包む光。それに反応するように、呼吸が落ち着いていく。


 「次は……王宮で学んだ解毒剤……お願い、効いて……!」


 セシリアは瓶から液体をゆっくりとユリウスの口に注ぐ。ごくん、と音がして、ユリウスの喉が動いた。


 「ユリウス……戻ってきて。あなたは……あなたは、そんなところで眠っちゃダメ……!」


 そして数拍の静寂ののち――ユリウスの眉がぴくりと動いた。


 「……セ……シリア……?」


 セシリアの目に涙が溢れた。


 「よかった……戻ってきた……」


 ユリウスの解毒が終わり、意識が戻ると、皆がほっとしたように息をついた。


 「よかった……本当に、よかった……!」


 セシリアが胸に手を当て、涙を浮かべて微笑む。


 「もう、大丈夫だからね、兄貴」


 ミリも笑顔で、そっとユリウスの手を握る。


 「ふう。これで任務完了だ」


 リルケットが通信機を切りながら言い、リィナも満足そうに頷いた。


 「さすがセシリア様の調合です! ユリウス様の体内から、毒素は完全に――」


 その時だった。


 「ままはここでちゅよ〜〜♡」


 またもやあの口調で、リィナがユリウスの背後からぴょこんと顔を出し、満面の笑みで宣言した。


 「えっ!?」


 一同、硬直。


 「あ、あのリィナさん? さっきは“暴れさせないため”って真面目に言ってたよね?」

 セシリアが引きつった笑みを浮かべて指摘すると、


 「……はい、あれは最初は真面目にやったんです。でも、ちょっとだけ……癖に……」


 リィナは視線を逸らし、指をつんつんと突き合わせながらも、口元はにやけている。


 「……完全に楽しんでんじゃねーか!!」


 ミリがズバッとつっこみを入れると、


 「ご、ごめんなさい。でもユリウス様の“ままー”があまりにも可愛くて……! 録音しておけばよかったです!」


 「録るなーーーっ!!」


 全員のツッコミがリィナに炸裂した。


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