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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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第46話 リィナの動力源

 日が落ち、砦の中央広場に柔らかな明かりが灯る頃。パワードスーツの騒音も、魔導バリスタの試射音も鳴りを潜め、砦はひとときの静けさに包まれていた。


 ミリは、新しく整備された魔素街灯の下、腰に手を当てながら空を見上げた。ふと、横に立つセシリアに視線を移す。


「……セシリア。あたし、ちょっと気になってたんだけどさ」


「なにかしら?」


「結局、あんた……砦に残ったよな。帝国のために動いてたのにさ。いつの間にかここに馴染んでて。正直、意外だった」


 ミリの問いかけに、セシリアはそっと微笑んだ。彼女の銀髪が風に揺れる。


「ええ。最初は、グランツァール帝国の再建が私の使命だと思っていた。でも……この砦で暮らす人たちを見て、考えが変わったの」


 セシリアは前を向いたまま、穏やかな口調で続けた。


「傷ついて、追われて、それでも前を向こうとしてる。そんな人たちが、この場所でようやく安らげるようになってきた。……今の私にできることは、帝国の名のもとに誰かを導くことじゃない。目の前の人たちを幸せにすること。たとえ小さな砦でも、ここが誰かの居場所であり続けるなら、それが本当の為政者の役目なんだと思う」


 ミリはしばらく黙っていたが、やがて肩をすくめて笑った。


「ふーん……やっとちょっとは好きになれるようになったかもな、帝国の人間のこと」


「え?」


「こっちの話」


 ミリはセシリアの脇をすり抜けて歩き出しながら、ちらりと背後を振り返る。


「ただの研究バカじゃなかったってことね、皇女様」


 からかうような口ぶりだったが、その声色にはほんの少し、尊敬の色が混じっていた。


 二人はゆるやかな坂を登りながら、静かに歩みを進めていた。昼下がりの陽光が砦の建物を照らし、日々の平穏を物語っている。


「ねえ、セシリア。あたし、あんたが残ってくれて本当に嬉しいよ」


「ふふ、ありがとう。ミリ。……でも、私がここに残ったのは、ユリウスのためだけじゃないわ。あの人が作ったこの場所が、未来を変えるって信じられるから」


「そっか……。ちょっと悔しいけど、あたしも同じ気持ちだよ。兄貴のことも、この場所のことも、全部守りたいって思ってる」


 心の奥に秘めていた本音を交わしながら、二人は中央工房へと差しかかる。そこで彼女たちが目にしたのは――


「……私の体で良ければ、お見せします。さあ、どうぞ」


「「はあっ!?」」


 セシリアとミリの悲鳴が同時に上がった。


 視線の先には、無表情のリィナがスカートの裾に手をかけ、明らかに脱ごうとしている姿があった。その目の前でユリウスは、工具を手に戸惑った顔をしている。


「ち、ちょっとリィナ! 何してるのよ!?」


「兄貴の前で脱ぐなんて、どういうつもり!?」


 二人が駆け寄ると、ユリウスがあわてて両手を振った。


「ち、違う! 誤解だよ! リィナの動力源が再現できないから、どういう構造になってるか、外部装甲の構造を見せてもらおうって話してただけで――」


「内部構造の可視化のためには、装甲を外すのが合理的と判断しました」


「いや、それもそうなんだけど、いきなり脱がれるのは困るからね!?」


 必死に説明するユリウスと、平然とスカートに手をかけたままのリィナ。セシリアは顔を真っ赤にして、ミリは呆れたようにため息をついた。


「はぁ……この砦、平和なのかどうなのか、もうわかんないよ……」


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