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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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第39話 処刑

 砦の中央広場に緊張が張り詰めていた。ドワーフの工房を襲った犯人は捕らえられ、周囲にはドワーフたちと人間たちが半々に集まっていた。押し黙った空気を破るように、犯人の男が叫んだ。


「ちくしょう、なんで俺たちがあんな奴らと一緒に住まなきゃいけないんだ! 奴隷だったくせに、いい気になるな!」


 その口汚い罵声に、ドワーフたちの中から怒号が漏れた。リルケットが手を挙げて制止する。

 ユリウスはゆっくりと男の前に歩み寄り、その瞳をじっと見据えた。何も言わず、ただ静かにその言葉を受け止めていた。男は次第に言葉を失い、膝をつく。


「……っ、怖かったんだ……!」


 泣き崩れる男の姿を見て、セシリアは唇をかんだ。ミリは顔を背けて肩を震わせていた。リィナだけが表情を変えず、静かにその場を見守っていた。

 ユリウスはひとつ、深く息を吸った。そして、静かに、しかしはっきりと告げる。


「ここは、共に生きる場所だ。恐れを理由に、暴力を選ぶ者には、居場所はない」


 少しの沈黙ののち、彼はリルケットを振り返る。


「リルケット。処刑を――頼む」


 リルケットは表情を変えず、無言でうなずいた。

 男が取り押さえられ、引き立てられていく。その背に向かってユリウスは厳しい眼差しを向け続けた。心の中では、怒りでも、悲しみでもない、ただ重たい責任の痛みがのしかかっていた。


 ――これで、本当に皆がわかってくれるだろうか。


 そんな自問に、ユリウスは答えを見つけることができなかった。


 その夜。

 ノルデンシュタイン砦に冷たい風が吹き抜けていた。


 処刑を終えたユリウスは、重たい足取りで砦の奥、自分たちの拠点へと戻ってくる。

 ミリ、セシリア、リィナが無言のまま後ろに続く。


 工房の明かりが、静かに灯っていた。


 ユリウスはふと天井を仰ぎ、笑った。それは、まったく笑みのない、自嘲の笑いだった。


「……人を幸せにする工場を作りたかったんだ。なのに、僕がやってることは、まるで逆だ」


 ぽつりとこぼれた言葉に、誰もすぐには答えられなかった。

 ミリは唇をかみしめ、拳を握る。何かを言いたかったが、うまく言葉にならない。

 セシリアは青ざめた顔でその場に立ち尽くし、震えていた。あの光景が、まだ脳裏から離れないのだろう。


 沈黙が流れる中、リィナが一歩前に出る。

 表情はいつもの無表情。しかし、その声には、どこか静かな響きがあった。


「人の感情というものは……わかりません。でも、ユリウス様。貴方は、間違ってなどいません」


 ユリウスは目を伏せたまま、リィナの方を向く。


「間違っていない?」


「はい。正しさとは、時に誰かを傷つけるものです。ですが、それが皆の未来のためであるなら……それは、誰かが背負わなければならないものだと、私は理解しています」


 淡々とした口調だったが、その言葉は確かに響いた。

 ミリが目を見開き、セシリアがゆっくりとその肩の震えを収めていく。


 ユリウスは静かに息を吐いた。

 この罪悪感は消えない。だが、それでも前に進むしかない。


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