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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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第37話 小競り合い

 砦の中央広場、井戸の前で緊張した空気が張りつめていた。


「……どけ。次は俺たちの番だ」


 ドワーフの男が低く唸るような声で告げた。

 だが、井戸に並ぶ人間の青年は一歩も退かず、逆に睨み返した。


「そっちがあとから来たんだろ。順番ってもんがある」


「こっちは労働のあとなんだ。道具も重い。先に汲ませろ」


「だったら最初から並べばいい。砦のルールは守ってもらう」


 その言葉に、ドワーフの背後にいた数人の仲間がざわりと動いた。鍛え抜かれた筋骨隆々の腕が、一斉に緊張する。

 それに対抗するように、人間たちの一団も、手にした道具を固く握り直した。

 まるで火花が散るような空気の中、ミリが走り込んできた。


「やめて!」


 その声に一瞬、両陣営の動きが止まる。

 ミリは井戸の前に立ち、人間の青年とドワーフの男の間に身を差し出した。


「ここは……争う場所じゃない。誰もが生きるために来た場所でしょ? 力をぶつけ合うためじゃない!」


 青年が歯を食いしばって言った。


「……でも、俺たちだって譲ってばかりいられない。ドワーフばっかり優遇されてるって、不満が出てる」


 ドワーフの男も口を開く。


「人間のルールでばかり決めるな。こっちはこっちのやり方がある。対等って言うなら、言葉だけじゃなくて、形にしてくれ」


 ミリは言葉を詰まらせた。だが、視線を上げると、静かに言葉を続けた。


「……私たちは違う種族だけど、どちらかが上じゃない。だからこそ……ぶつかるのは仕方ないかもしれない。けど……」


 ユリウスがその隣に立ち、言葉を継いだ。


「だからといって、分裂したらこの砦は終わる。砦を守るのは城壁じゃない。ここにいるみんなの意思だ。だから、今だけじゃなく、これからも……考えてほしい」


 しばしの沈黙のあと、ドワーフの男が舌打ちをして言った。


「……わかった。今回は譲る。だが、こっちの声も聞く場を作ってくれ」


「……ありがとう」


 青年もバケツを地面に置き、目をそらしながら言った。


「……次からは最初に声をかけるよ」


 その場の空気が、ようやく緩んだ。

 セシリアは広場の片隅からその様子を見つめていた。いつもの冷静な瞳の奥に、かすかな憂いが揺れている。


「どうして人は、仲良くするのがこんなに難しいのかしら……」


 その問いに、答えられる者はいなかった。


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